塩と雷
「ほーら、できたぞオーガ」
こんがりといい感じに焼きあがった魚をオーガに渡すと、興味深げにじい....と眺めた。
「さかな......」
魚は見たことがあっても焼いた魚は見たことが無いか。
「塩をかけて食べると美味いんだが....あるか?」
「すぐにはめんどくさいな~」
あるんだな。多分倉庫か。
「まあ、いいか。冷めないうちに食べないか?」
放っておくといつまでも魚を眺めかねないので、俺も魚を皿から一匹取り、串に刺してオーガに声をかけた。
「たべる!」
俺の事を待っていたのか?珍しいな。
「いただきます。」
「ます!」
俺が魚を食べようと横向きに持ち帰る横で、オーガは早速頭から丸ごと食べた。
「なあ、リリス坊、バリバリ鳴ってるんだが........大丈夫か?」
多分バリバリ鳴ってるんだったら大丈夫だ。やっぱりドラゴンは骨が丈夫だな。
「........大丈夫だ。」
「ならいいんだ。オーガ、味はどうだ~?」
「○※▶×◇!」
すまん、ちょっとよくわからない。
暫くして、ゴクン、と飲み込んだオーガが、目を輝かせてシャトーに言った。
「さかな、おいし!」
「口にあって何よりだぜ~。まだあるから、食べていいぞ!」
それは明日の分なんだが........
「たべる!」
いや、まあ、嬉しそうなら、
明日が肉になるだけだ。
「ひーどくなってるなあ........」
食堂からの帰り際、ちらりと窓を見たシャトー(ランプ)が呟いた。確かに、食事の時は気にならなかったが、激しく音を立てて雨が降り注いでいる。これだけひどいと、国は同だろうな。洪水ぐらいは怒ってもおかしくはないが。それとも、オーガの力と言うのは、天気すらも操ってしまうのか。
「あめ、ひどい?」
ああ、かなりひどいぞ。明日までに止んでくれるといいのだが。
「ま、やることも無いし、とっとと寝るに限るな!さ、急いで部屋に戻ろうぜ!」
「ん!」
そうだな。賛成だ。
部屋に戻り、寝間着に着替えた俺はすぐにベッドに入った。ふと窓を見ると、先程よりも少し強くなっているような気がした。
早く寝たほうがよさそうだ。王宮と違って、薬の調合もない。というか、調合する物がない。書類の整理もそもそも書類がないし、患者の回診も間者候補が無敵の龍王と城本体だから。
ピカッ ゴロゴロゴロ........
遠くの方で雷が落ちた。光ってからかなり時間がたったから、恐らくこの森、少なくとも俺たちの活動範囲ではないだろう。方角的に、隣の国だろうか。
............あいつらは、「千里の海」が河だってこと、知っているのだろうか。
ゴロゴロゴロ........
大分ひどいな。ひどくならないうちにとっとと寝るか。
俺が目を閉じ、微睡んでいると、廊下の方から誰かが走ってくる音がした。シャトーか?何か、あったのだろうか。
足音はどんどん近付き、俺の部屋の前でぴたりと止まった。入ってくるかと思ったが、なかなか入ってくる気配がない。シャトーなら、俺の部屋の物に乗り移ればいい。それともなにか落としてはまずい物でも持っているのか?
俺は渋々ベッドから起き上がり、ドアに向かった。
「シャトー?何か用か?」
ドアノブに手をかけたとき、ふとある考えが頭に浮かんだ。
待てよ。シャトーって、今までに足がある物に乗り移ったことって、あったか?
その時、窓の外でひときわ大きい雷が、轟音と共に落ちた。
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ............
一瞬、俺が窓の方へと気を取られたとき、ドアが勢いよく開けあれ、何かが俺の部屋へと入り込んだ。驚いて目で追うと、何かは、俺のベッドに潜り込んでいた。
まさか、まさかな。
この城にいる二足歩行の生命体を思い浮かべながら、そっとベッドの掛け布団をめくった。
「.........なんだ。オーガが。」
そこには、ガタガタと震えながら耳をふさぐ、狼の姿になったオーガがくるまっていた。
龍王にも怖いものって、あるんだ。
「どうしたんだ、オーガ。」
「............」
どうやら相当怖いらしい。
「雷が怖いのか?」
「............ん」
多分、もうここから動かないだろう。仕方ないな.....。
「.....一緒に寝るか?」
ベッドが無駄に広いお陰で一人と一匹なら余裕で入ることができる。俺がゆっくりとベッドに入ると、少し安心したようにベッドの端に寄った。
「そっちは窓側だぞ?こっちだ、こっち。」
自分から窓辺による格好になってしまい、俺は慌てて位置を交替した。
ピカッ ゴロゴロゴロゴロゴロ.....
「!!!」
雷が鳴る度に、オーガが俺に抱きついてくる。
「............」
本当に申し訳ないが、とてもふわふわで気持ちがいい。
雷は鳴り続いていたが、不思議と気持ちよく眠れた。