火事と魚
「やー、降られた降られた。リリス坊が来てから初めてだな。」
「ぬれた........」
シャトーがやれやれ、と言う横で、狼のままだったオーガがブルブルと体を振った。
「おおっと!」
シャトーが驚いて避けたが、銛の柄が少し濡れてしまった。ちょっと離れててよかった。
「かわいた!」
人間だとそうはいかないもんな。それ、便利だな。
「どうする?魚はまあ、焼けんことはないが........」
釣りは無理だな。畑仕事も。
「大人しく城に入ったほうがいいんじゃないか?」
「そうだなあ。食事して、今日は寝るか!」
「たべる!ねる!」
元気な子が育ちそうな生活だな。いや、牛か?
「んじゃあ、魚を焼くんだが........この竈門、使えるか?」
食堂に入ったシャトー(燭台)は早速明らかに年季の入った竈門の元へ直行した。
どう考えても無理だと思うが。ひび割れてるし。今にも崩れそうだし。
「ちょっと............無理っぽいな。」
ちょっとどころじゃないくらい無理だと思うぞ。
俺が魔術で焼こうとシャトーに相談に行くと、ここで恐れていた事態が発生した。
「オーガ、さかな やく!」
「「いや、待て、ちょっと待て。」」
俺とシャトーは声をそろえて早速火事を起こそうとするオーガを止めた。
やめてくれ。確かに竜巻よりはマシになったが、まだ可燃物の多い室内で起こしていいほどには上達していない。家事になったらそれこそ一大事だ。
「オーガ、リリス坊に焼いてもらおう?な?」
シャトーが何とか思いとどまらせようとしているが、そんなことで折れるほどのオーガではない。
「オーガ やける!」
今にも焼き出しそうだな。城を。
但しこちらもそんなことで己自信を諦めるほどの城ではない。
「オーガは魚を焼くのが初めてだろ?失敗したらどうするんだ?今日のごはんがなくなっちまうんだぞ?」
「ごはん.....」
「な?だから、ここは魚を焼くことに慣れてるリリス坊なら、確実に焼いてもらえるぞ?」
俺も慣れてるわけじゃないんだがな。というか、初めてだ。少なくともオーガよりは火力調節ができるという点では、慣れているというのだろうか。
「どうする?オーガ。」
シャトーが(火事を避けたい一心で)オーガに再び聞くと、オーガは少し考えた後に答えた。
「.........りりす、やく。」
「よーしそれでいい、聞き分けのいい子だ!」
本体が焼失しなくてよかったな。
「そうと決まれば........リリス坊!」
「ああ。分かった。」
身の安全が確保され、若干声色が高くなったシャトーの呼びかけに頷き、すぐに小さな炎を出した。
そいえば、ドラゴンは魚は好きなんだろうか。口に合うといいのだが。
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