水とリンゴ
「いや~助かったぜフロウ。もうちょっとてこずるかと思ってたんだがな!」
「旧友の頼みだ。断るわけがないだろう?」
シャトーが持ってきた籠いっぱいの鱗を見ながらフロウと談笑をしている。この鱗は人間にとってはかなり貴重なもで、素材にするよりも打った方がいいぐらいの代物だ。
「それに龍の子にも会えた。私は満足だよ。」
「オーガも嬉しそうだしな!」
籠がちらり視線を移すと、水の中で楽しそうに遊ぶ狼がいた。
「りりす、くる!」
いや、俺は濡れるとまずいんだが.......
「オーガ、リリス坊を困らせるんじゃないぞー!」
「ん........」
少しの間しょんぼりしていたが、すぐに切り替えたのか水から上ると、人間の姿に戻った。よかった、濡れなくて済んだ。
「りりす、こっち!」
俺を反対側に呼び寄せ、一本の大きな木の前につれていった。
「これがどうしたんだ?」
その木は、特になんの変哲もない木に見えたが、やはりこちらもフロウの影響を受けているのか、かなり大きかった。巨大化はもう変哲のうちに入らなくなってしまったのか俺の頭。
「あかいの!」
オーガが指をさした先には、数個の赤い果実.......リンゴがあった。
「リンゴ........?ずいぶん大きいな。」
流石泉の守り神。
「たべる?」
ああ、食べられるぞ。甘くて美味しいんだ。消化がいいから病気の時によく使うぞ。
ただ一つ問題があってだな。
「食べられるが........取れるか?これ。」
この高さだ。俺より身長が低いオーガはもとより、俺も全く届かない。シャトーは城の物しか宿れないからな........
「どうかしたか?人の子よ。」
「フロウ!」
後ろからフロウの声がした。今まで向こうで話してたはずなんだが、音もなく近付いてきたな。
「あれ、とる?」
オーガがあれ、あれ、とフロウにリンゴを指さした。
「ふむ。あれを取ればいいんだな?」
「ん!」
「お安い御用だ。」
フロウはそう言うと、するすると体を巻き付け、木に登って行った。そうだ、この方は蛇だった。
フロウを見ていると、シャトーが俺の元へ近づいた。
「リリス坊。あれ、美味いのか?」
「ああ、木の形からしてもリンゴで間違いないだろう。」
「リンゴ........ああ、あの時のアレか!」
そうだ、あの時のアレだ。最初の朝ご飯についていた果物だ。
「これでいいかな?」
フロウは難なくリンゴを数個、枝ごと銜え、するすると降りてきた。
「助かった。........ありがとうございます。」
敬語の方がいいよな。神だから。
「硬くならなくてよい、人の子よ。龍の子の友だ。私の友でもある。」
心広すぎないか?王宮では友達の友達はライバルなのに。
フロウは目を細め、続けた。
「お主には素質がある。龍の子をよろしく頼んだぞ。」
神様直々に素質を認めてもらった。何の素質かは知らないが。
「じゃあ、またなフロウ!」
「またくる!」
「ああ、待っているぞ。シャトー。」
陽が高く昇った頃、いつの間に集めたのか大量の素材をかごに入れたシャトーと、泉の水を汲んだオーガと共に、フロウに別れを告げた。
「よかったなあオーガ。久しぶりじゃないか?」
「ん!」
オーガは尻尾を揺らして上機嫌だ。この調子だと、滅多に城の外には出なかったんじゃないか?ハンターの処理以外は。
「でもいい時間だな。あそこに戻ったらとっとと魔導書集を創って昼ごはんにするか?それとも、訓練の成果からか?」
そいえば、俺がシャトーと話しているとき、火炎竜巻は一度も上がらなかったな。それなりに制御できたのか?
「オーガ、うまくなった!」
「おっ、自信満々だな。じゃあ、魔導書集を創って、オーガの成果の確認して、でいいな!」
「ん!」
分かった。じゃあ、水はいつでも撒けるようにしておくな。
今度こそ魔導書出てきます。