仕返しの狼煙
「『人魚の誘い』」
まずは相手の耐久を測るべく、「幻獣の宿命」の一つ、対象者の残りの命が数値化できる魔術を使う。国中の戦士や軍隊を集めたからと言って所詮は人だ。「幻獣の宿命」などという伝説レベルの魔術を繰ればひとたまりもない。
「まあ、大体一緒ぐらい......はあ、魔術師も連れてきたのか」
俺の予想通り、大半が一般的な人間のレベルであったが、ところどころ倍ぐらいの数値が見えた。これはおそらく王宮お抱えの騎士やら長寿の魔術師やらの物だ。
.......あいつらはどうやら本気らしい。この一戦にほぼ全てを賭けているようだ。
「後は......あの数字が大きいのは大将か」
軍勢の先頭に立つ一人の人間、頭上に輝くのは一際大きな数字だ。この規模の軍を率いるの人と言うのはさぞ強いことだろう。ただこの人に合わせるとなると他の一般兵が木っ端微塵になってしまう。一体どうしたものだろうか。
「まあ、あいつ以外に"あれ"を使えば問題ないか」
もちろんしっかりと対策は考えてある。
「『効果増幅』、『取捨選択』、『炎鳥の翼』」
もはや何度お世話になった分からない攻撃無効化の魔術と、魔術対象を選べる呪文を展開する。これであの対象以外を選択すれば、魔術のそのもののダメージは受けない。精々吹っ飛ぶぐらいだろう。
この作戦の目的は戦意を削ぐこと。そのためにはあの大将の制圧が欠かせない。
俺の準備は整った。念のための確認で兵士どもにかかっている魔術の種類を確認する。
「『心眼』......よし、問題ないな」
どうやら一応回復魔術がかかっていたようだが、先ほどの術で上書きされたようだ。
「オーガ、準備はいいか」
今度こそ俺の支度は整った。後はオーガとシャトーがポジションに着いたことを確かめるだけだ。
「オーガ、ついた!」
「場所取りは完璧だぜ!!!!!」
通信魔術を使ってオーガに確認すると、切り裂くような風の音をバックに元気な返事が聞こえた。恐らくオーガとシャトーがいるのは森の上空。シャトーの隠密術で兵士には見つかっていないはずだ。
「リリス坊の準備はできたのか?」
「勿論だ」
「じゃあちゃちゃっとやっちゃおうぜ!『普見者の瞳』には今んとこ引っかかってないけどよ、いつ入ってくるか分かんないぜ?」
対象範囲内への侵入を感知する魔術はオーガの位置から計算した安全域に張り巡らせている。今のところ大丈夫だが、できるなら早めにやってしまったほうがいいだろう。
「そうだな。じゃあ、始めてしまうか」
「しかえし!はじめる!」
今までにないほどわくわくした声に思わず苦笑しながら、俺は頷いた
「行くぞ........『大鷲の爪』」
「オーガ、変身だ!! そしてオレは『巨大幻影』!!!!」
さあ、一泡吹かせてやるとしよう