意気込みと制圧
「お、リリス坊! もう少しで着くみたいだぞ! いや~、数だけは立派だな」
城のベランダから外を覗いていたシャトーが嬉々として声を上げた。さながらパレードか何かを見るようなはしゃぎようである。まあ、気持ちが昂るのは否定しないが......
「あまりはしゃぎすぎるなよシャトー。その姿、結構魔力を使うんだろう?」
「オレのことをリリス坊心配してくれているのか? 嬉しいこと言ってくれるじゃないか!!」
........逆効果だったか
「そいえばリリス坊も久しぶりにそれを着るな! やっぱりお前に似合ってるぜ!」
「りりす、かっこいい!」
かく言う俺も、今となっては懐かしいという感情まで沸いてくるほど前に手に入れた「白蛇の魔術師」の服を身に纏っている。別にこれを着たからと言って力が何か変わるわけではないが、まあ、こんな決戦の日ぐらいは着てもいいだろうと思ったのだ。
「んじゃ、リリス坊!準備はいいか?」
「もちろんだそっちはどうだ?」
「完璧だぜ!」
「じゅんびできた!」
そろそろ国軍が到着するだろうという頃合いに俺とオーガ、シャトーはあの日立った城の屋根にいた。俺達の目的は国軍のせん滅ではない。
元より(不慮の事故は除く)殺生が嫌いなオーガの希望で少し遊んでもらうことにしたのだ。目的はまあ、俺を嵌めた奴へのちょっとしたお返しと、できればもう二度とオーガの討伐に来ないことへの同意を取ることだ。
「じゃあ、お互い役割を果たそうぜ! あいつらに一泡吹かせてやるんだ!!」
「おーー!!!」
シャトーの掛け声にオーガが元気よく答え、俺もああ、と頷いた。
そしてオーガは空へ、シャトーは森の中へ、俺は城の中へと歩みを進めた。
「さて.......」
意気込んでみたものの、やることは単純だ。俺の国はどうやらこの森の主.....つまりオーガをかなり厄介に感じてるらしい。そうでもなければこうも度々刺客を送ってくることはないだろう。つまり奴らを黙らせるには立ち向かおうという意思を奪うような圧倒的な力が必要だということだ。そして俺には今、その力を手にしている。
城の最上部に到着し、下を見下ろす。城の上から見える軍隊は、蟻のように小さく見えた。
「殺さずに制圧って.....結構難しいのだが........」
思わず苦笑しながら俺は「幻獣の宿命」を開く。四つの宝石をはめ込まれたその魔導書は、この世の全てを集めたような輝きを放っていた。これから始まるのは世紀の魔術発表会のようなものだ。俺は事前の計画どおり、反撃のための術を展開した。