オルシア王国、ギルド館前広場にて。 再会
「お、また討伐軍か。最近帰還したばかりなのに?」
広場の掲示板を見た若者の言葉が任務を終えたばかりの弓使いのハンターの耳に入った。声のするほうを見ると、数人の見覚えのあるパーティーらしき集団がある張り紙を見ていた。
「おや、また会ったな若者よ」
「あ、貴方は......あの時の!」
「俺達を救い出してくれた方だ!」
「その節はありがとうございました! おかげで傷1つ負わず、任務に邁進することができています!」
一斉に感謝の言葉を投げかけられたハンターは少しだけ笑みを浮かべると、若者たちの見ていた張り紙に目を移した。
「国軍入隊志願者募集....期限は3日後、か。君が言っていたのはこれのことかい?」
「はい.......えーと、」
言葉に詰まる剣使いの若者を見たハンターは、自分が今まで一度も名乗っていないことに気が付いた。
「ああ、俺の名はフィロクテ。『悪魔の瞳』とも呼ばれているが、まあ昔の話だ」
「フィロクテさん、ですね。俺の名前はラモラクです。で、こっちがアーシャ、こっちがクトルです」
剣使いの若者ことラモラクに紹介された術使いのアーシャと盾使いのクトルは深々とお辞儀をした。
「こちらこそ。こんなおいぼれでよければ相手をしてくれ。....ああ、あと、俺の相棒はイクシオという。もしあったら話しかけてやってくれ」
フィロクテは別の任務にあたっている相棒を思いだし、そっと付け加えた。
「それで......この御触れ....またあの森に行くのでしょうか」
「文面からしてそうだろうな。何せあのガルーン卿をもってしても倒せなかったのだ。今後脅威になることは間違いないと踏んだのだろうな」
「それに、優遇志願者条件に『前回の大規模討伐軍に参加した者』とありますね。やはり少しでも情報が欲しいのでしょうか」
「まあ、何も知らないものよりは知っているだろうが....何せ我々以外は記憶喪失ときている。情報収集は龍の森研究所以外からでは厳しくなるだろうな」
フィロクテの言葉に彼らも頷いた。
「この討伐....俺達、参加しようと思っているんです。なんか、このまま終われなくて。あの黒龍は何と戦ってたのかなって思って......もしかしたら黒龍は、敵じゃないのかもしれないって思って」
確かにあの討伐では炎は降るわ豪雨は降るわ、挙句の果てに怪しい魔法陣で殺されかけたが、全てを「黒龍」がやったという確固たる証拠はない。さらに言えば黒龍は森を守っていた可能性もある。
「確かに、そうだ。俺が見たのは『なにか』と戦う黒龍だ。あの時の被害はその『なにか』が巻き起こしていた可能性も否定できない........これは、真実を確かめる必要があるかもしれんなあ」
フィロクテの脳裏には数十年前突然来訪した、正体不明の翼龍と、今回の討伐で目撃した『なにか』と戦う黒龍があった。奴の正体をどうしても確かめたい。そんな思いがふつふつと沸きあがってきた。
「ならば俺も参加しよう。勿論、相棒にも声をかけておく」
「「「わかりました!ありがとうございます!!」」」
ラモラク一行と別れたフィロクテは、任務が終わっているであろう相棒の家へと歩き出した。