讃美歌の帰路
「んふふふふふ......」
暗い夜の中、生い茂る木々の間を歩く私は、無意識に鼻歌を歌っていた。
「まさか、リリス様がいらっしゃるとは......思いもしませんでした」
時折私に襲い掛かる獣はことくごとく塵と化し、サラサラと地面に消えた。
元々はガルーンが討ち漏らした龍王を始末する予定が、自分も含めオルシア王国のとんだ勘違いだったことが分かっただけでも収穫だったというのに、自分がわざわざ出向いてまで王宮へと招いた天才術師が生きていたとは。
「エミリア様に協力したのも正解でしたね」
エミリアがリリスの冤罪を晴らそうと動いていたことは、見張りに飛ばしておいた使いの動物が教えてくれた。様子を見ているだけにするつもりが、ついつい手を貸してしまったのは自分でも驚いたが。
城に帰ったら、まずは国王に龍王の暗殺失敗を報告し、あの医務長の国軍への動向を奏上する。自分が手を下したと同然の男に救いの手を差し伸べるのは些か疑われそうな気もするが、そこはどうにかごまかせばいい。
「国軍、とはいえ所詮は人間....きっとあの龍王様の力には及びません」
というか、どうやらリリス様は追放されてからずっとあの龍王のもとで生活されていたのか、城にいた時よりも魔力が強くなっているようだ。正直あの短剣を止められるとは思ってもいなかった。
それに、私と闘った、あの男、私と張り合える、いや、私の上を行く数少ない人間....シャトー、と言っただろうか。彼も龍王に劣らない相当な力を持っている。いくら人間が束になってかかっても、まず敵わない。
「それにあの口ぶり....リリス様も少し乗り気でしたしね」
私が提案したことは一つ。リリス様を陥れた医務長とその取り巻きを国軍に編成させ、龍の森に向かわせる。勿論自分の処罰がかかっているから、奴らは本気になるだろう。そこをリリス様が殺さない程度に力を見せつける。
......私は少し甘い気もしましたが、今後のことを考えるとそうしたほうがよいでしょう。
いったいどんな術を見せてくれるのか、私も今から楽しみで仕方がない。
それとあと一つ。彼女にもこのことを伝えなければならない。
私はこの後起こるであろう事に心を躍らせながら、月明かりの下を進んだ。