来てほしくない人 7
クルスはシャトーの魔法陣から浮かび上がった炎鳥をまじまじと見つめた。そして、懐から分厚い本を取り出し、ぱらぱらとページをめくり始めた。
「ど、どうなんだ?」
無言でページをめくるクルスを俺達一人と一城(?)と一匹は、緊張した面持ちで見つめた。もし40年前に王国を襲い、さらに俺達が炎鳥と戦っている間にいつの間にか始まっていた大規模討伐軍を火あぶりにしたのがこの炎鳥だとしたら、オーガは今までとんでもない勘違いをされていたことになる。
「そう、ですね....この書の記載によりますと、ほぼ同じということになりますが....念のため」
何に対しての念のためかはわからないが、クルスは両手を前に出し、呪文を詠唱した。
「記憶を司る女神よ、我に御力をかしたまえ。真実を此処に。『ムネモシュネの戯れ』」
クルスの言葉とともに魔法陣が輝いた。
「今何したんだ?」
「さあ....オレも聞いたことがないな」
シャトーが聞いたことない魔術なんてあるのか?ということは、これはどマイナーな術か、忘れただけなのか、それとも....
「これは私が独自に編み出した魔術です。任意の対象の記憶を見ることができる....今私はそこにいる龍王様とガルーン様の記憶を見ました」
「ほーお?」
「まじゅつ、つくった?」
すごいな。確かに上級の魔術師であれば魔術を作ることができると聞いたことはあるが....まさか本当にいたとはな。
「間違いありません。龍王様の記憶の中には 『オルシア王国を襲った』 という事実はなく、ガルーン様の記憶の中にある 『黒龍』 とそちらの魔術師さんの生み出した映像が一致しました。つまり、まあ......」
勘違いであったと。
「勘違い、ってことか」
「かんちがい?」
「オーガは悪くない、ってことさ!」
「オーガ、わるくない!」
わかっているのかわかっていないのかよくわからない返事をして飛び跳ねているオーガに、シャトーが慌てて駆け寄りあのだな、オーガ、と説明を始めた。