来てほしくない人 5
「サランディア......」
「くるす?」
オーガとシャトーは首をかしげている。無理はない。この二人は文字通りこの男とは初対面だ。
ただ俺は、俺だけは会ったことがある。しかも俺の人生で大分重要な役割を担った場面で、だ。
「貴方でしたか、俺を王宮に引っ張って....引き入れたのは」
やっと思い出した。俺がまだ若いとき....確か、18か19のとき、俺が薬草を取りに行った帰りに行き倒れていた人だ。
「そうです! そうですよ!......というか、なぜ今まで気が付かなかったのです?!」
「あ、いや、名前を聞いていなかったから....」
その途端クルスがはっ! と書いてあるような顔をした。
なぜ俺が思い出せなかったのか。別に物覚えが特段悪いわけではない。ちゃんとした理由があったんだ。あの時あいつは最後まで名乗らなかった。俺が診療所に運び込んだ後も、王宮の試験を受けた時も、こいつはいちどたりとも名乗らなかった。確か、「名乗る程の者ではございません」とか言って、にこにこしているだけだった。流石に一応恩人といえど、短い時間あっただけの名無しの人間のことは覚えていない。
「ひどいではないですかリリス様! 私は貴方を王宮へ誘ったのですよ!確かに身分の都合上名乗ることは致しませんでしたが....それでも、いわば恩人ですよ!」
彼は人の心が読めるのか? ほとんど俺が考えたことと同じことを言っているぞ? しかも自分で恩人って言ったぞ?
「........いくらなんでも数年前の話です。お顔立ちも変わっているでしょうから、わかりません。」
あと、これは絶対に言わないが、今俺が冤罪でこの森に来たのは少なからずこいつのせいでもある。
「うっ」
言葉に詰まったな。
「ん? だったら話は早くないか?」
すると、それまで黙っていたシャトーが何かを思いついたように口を開いた。話が早い、とは?
「どういう意味だ?」
「シャトー?」
オーガも首をかしげて聞くと、シャトーは続けた。
「この....くろす? とかいうやつはリリス坊と知り合いなんだろう?」
「クルス、です」
すまない。うちの築2000年以上の城は高齢なんだ。
「だったら、説明すればいいんじゃないか!『オーガには狙われるような筋合いはない』って!」
ああ、確かに。流石に知り合いだから、シャトーや張本人のオーガみたいにすぐに殺し合いにはならないだろうが。
「せつめい!」
「ちゃんとオーガがどれだけ大人しく過ごしてきたかを分かってもらえれば、グロス? も帰るんじゃないか?」
クルスだ。いや、まあ、オーガが大人しく過ごしていたかどうかは別として、確かに話せばわかるかもしれないが......
「いえ、それはできません。これはオルシア王国国王の命令ですので」
それに....とシャトーが続けようとしたとき、クルスが口を開いた。