来てほしくない人 3
「....誰だ?」
この城に来てから、こんな男は見たことが無い。そもそも人間は俺だけのはずだ。という事は、こいつが侵入者か?
俺は思わず身構え、いつでも攻撃できるように態勢を整えた。あちらは気が付いていないのか、まったくこちらを見ようとしない。
「シャトー!」
「えっ」
突然後ろにいたオーガが声を出した。この男、シャトーなのか?
この、深緑に空色の瞳の男が?あのいつも燭台とか本とかになっている?
俺が状況を飲み込めずにいる、シャトー(オーガ談)は突然動き出した。動いた先には、巨大な光の柱。多分、こちら側、つまりシャトー(?)と俺達側に倒れようとしている。
「あまいっ!」
深緑髪の男はそう叫びながら特大の魔法陣を展開して柱を飲み込んだ。
あの声はシャトーだ。いつも聞いているあの声と同じだ。人間の姿もとれるのか......じゃあなんで今までやらなかったんだ? なにか制約でもあったのか?
シャトーと確定した魔術使いは、そのまま光の柱の先があった方向へと、いくつもの魔法陣を展開しながら飛び込んでいった。
この男がシャトーなのであれば、さっき柱を倒してきたのが招かれざる客、という奴になる。先程の巨大な柱と言い、ここまで来れたことといい、かなり有能な術師のようだが....
「ふっ!」
シャトーの掛け声と共に、数多の槍が侵入者に向かって投射された。土煙がまだ収まらない中、ここからではぼんやりとした影しか見えないが、流石に全ては防ぎきれなかったらしく、十数本が周囲に刺さっていた。
「おやおや....光魔術は苦手だと伺っていたのですが」
「はっ、あんまり又聞きの情報を信じないほうがいいぜっ!」
そんなことを言い合いながら、侵入者は回復魔術を、シャトーはさらに攻撃魔術を展開する。
あの声、聞いたことがあるな。大分前だが、記憶に残っている。
「にしても兄ちゃん、まだ若いだろ? よくこんなことろまでたどり着いたな! ここに来た3人目の人間だぜっ!」
「それはそれは、お褒めにあずかり光栄です。貴方からすれば私も若く見えますかね?こう見えても職を退いた身なのですが」
二人は互いに譲らずに魔法陣と共に大広間を飛び回っている。....ここが「大広間」で本当によかった。どうやら二人ともこちらに意識が向いていないらしい。
「ぼろぼろ....」
「後始末が大変そうだな....」
ただし術を放つ度にどこかしら壊れているが。2人とも威力は凄まじく、常人の数十倍は出ている。ただ、流石に年の功には侵入者も勝てないらしく、徐々に押されていった。
「そろそろ諦めたらどうだ? オレは此処から出て行ってさえくれれば、命を取る気はないぜ?」
シャトーらしいと言えばシャトーらしい、しかし、所謂フラグでしかない台詞が聞こえた。
「そうですね....私も貴方は本命ではないので......」
侵入者の声が聞こえたその時、突然天井に巨大な魔法陣が展開された。
「これで終わりにいたしましょう!!」
その声と同時に、魔法陣が砕け、まばゆい光が視界を眩ませた。
「!!!」
「ちっ! オーガ!」
驚くオーガの声、慌てたようなシャトーのこえ。警戒しようにも
光は未だに視界を奪い続けている。
「オーガ、オレが....」
シャトーが何か言いかけたとき、俺の正面....つまり、俺とオーガへの攻撃可能範囲に、白い服を着た、明らかにシャトーではない男が飛び込んできた。
「これで、お終いです。龍王様」
手に持った短剣は、オーガの胸を正確に狙っていた。