ただいまと本題
「ただいま!」
「....なんか、久しぶりだな」
「くぅー! やっぱり我が家が落ち着くなあ!」
「炎鳥」の討伐、そして森の再生が終了し、俺とオーガ、シャトーはフロウに別れを告げ、城に戻った。それほど長く留守にしていない、何なら午前中外出していただけの筈の城はずいぶん懐かしく感じた。まあ、こいつだけで別の空間にいたから、視界に入らなかったというのあるのかもしれない。特段何も変わらない広間に入り、俺とオーガはソファに腰かけた。
「りりす、すごかった!」
「それは、どうも......」
そんなストレートに言われると気恥ずかしい。今までそんな奴いなかったからな。誰も彼もが他人を蹴落とそうとしていたぞ?
「......そういえば、王宮はどうなってるんだろうか.....」
この城に来て.......どれくらいたったか知らないがかなり経った。昨日まで王の側近だった奴が今日城を出ていくこともあったからな。今後もし冤罪が晴れて城に戻ることがあったら......
「なんだぁリリス坊!『ほおむしっく』ってやつかぁ?」
「ほおむしっく!....ほおむしっく?」
「いや、あんなところ二度とごめんだ。毎日毎日謀ばかり。胃薬が何瓶あっても足りないな」
次々と蘇る懐かしい日々に一片の懐古の念も抱かなかった俺は即答した。
それとオーガは「ホームシック」の意味を知らずに嬉しそうに言うんじゃない。後多分シャトーも聞きかじっただけだろう?
「そんなにひどいのか?オレはよく分からんが」
「おうきゅう、ひどい?」
「いや、まあ、俺の周りだけだったかもしれないけど、な。心を許せる人間の方が少ないというか」
そうだな、まあしいて言うなら、専属の使用人と、警備兵、あと、俺を推薦したらしい人は信用できたかもしれん。
「す、少ないな」
「オーガ、りりすとシャトー、しんようできる!」
途端にシャトー(燭台のすがた)が見て分かるほどはしゃぎだした。
「そーかそーか! オーガはオレの事を信用してくれるか!」
「ん!」
なんてわかりやすい燭台。王宮の人間が全部これぐらいならいいのにな。
「あとは....そうだな、俺に気さくに話しかけてきた姫君がいた」
名前は何だったかな。エミリア....だったような気がする。よく俺に魔法を教えろだの、薬草の事を教えろだの、愚痴を聞いて欲しいだのと言ってきた。彼女と話すのは楽しかったな。
「お、恋人か!? 雇われ魔術師と姫君の禁断の恋か?!」
「こいびと?」
「いや、そんな関係ではない。あくまで話し相手程度だ」
そもそも恋愛などしている暇がない。どうせエミリア姫だって今頃は婚約も済ませているだろうに。
このままでは恋バナが盛り上がってしまうと危機意識を覚えたとき、俺はあることに気が付いた。
「なあ、そういえば.... 『炎鳥の翼』、まだ作っていないよな」
その言葉を聞いた2人はあ、とこちらを見ながら口をそろえて言った。