乙女の断罪 参
「これはこれは、サランディアよ。如何様か?」
国王は普段は滅多に姿を見ないサランディアの突然の来訪に少し驚いたが、サランディア当人は普段と変わらない様子では、と口を開いた。
「実は私、エミリア王女が告発なさりたいことがある、という事を耳に挟みまして」
その言葉を聞いたエミリアの眉がピクリと動いた。
「聞けば先のリリス・フローレン様の一件とのこと。私はリリス様を王宮へとお誘いした身です故、真相を是非とも知りたいと思いまして。」
「ふむ。確かにリリスはお主が推薦したが......」
「ですから恐縮ですが今日この場に出席させていただきまして、エミリア王女の告発を拝聴させていただた所存でございます」
サランディアはまた一礼し、エミリアと医務長の方に近付いた。
「貴方.......」
何か言いたげなエミリアを目で制し、医務長へと話しかけた。
「貴方、先程『間違いは誰にでもある。陥れた証拠はない』と仰いましたよね?」
「ああ、そうだ」
「でしたら、『自分は決して陥れていない』と、今この場で証明するのがよろしいかと」
「そのようなことができたらとうにしておるわ」
医務長の不機嫌な返事をサランディアは笑顔で受け流し、左手の手の平をゆっくりと見せた。
「それができるのですよ。私であればね」
「なん、だと?」
医務長の表情がほんのわずかに歪んだ。
「これがお見えになりますか?この魔法陣は先程私が唱えた呪文に反応した物でございます」
サランディアの左手には確かに水色の魔法陣が浮き出ていた。
「この呪文はまたの名を『真実の誓い』と申しまして。魔術を掛けられた者が真実を言えば子の魔法陣はそのまま消え、嘘を言うと赤く染まるのです」
ほう....と国王が魔法陣をまじまじと眺め、エミリアも初めて知った、と言わんばかりの顔をした。
「先程呪文は唱えましたから、貴方様には今呪文がかかっております。ですから、私が『貴方はリリス・フローレンを陥れていませんか?』とお伺いいたしますから、貴方は『はい』とお答えしていただければ貴方の無実はすぐに証明できますよ」
サランディアは不敵な笑顔のまま、さあ、今から質問いたしますから、お答えくださいね、と医務長に言った。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「いえいえ、『善は急げ』ですよ!......貴方はリリス・フローレンを陥れていませんね?」
医務長の制止に聞く耳を持たずに、サランディアは医務長の無実を示すべく、質問を唱えた。
「さ、お早く。後は貴方様が『はい』とたった一言言うだけですよ!」
「..........ぐ、う....」
暫くの沈黙の後、医務長の消え入りそうな声に反応した魔法陣は忽ち深紅に染まった。