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困惑


 学園に行く在希を見送った後、境内を掃除する。別に俺はそういう職についているわけではないが、居候としてやれるだけのことはやっている。俺自身に学園に行くとかの用事がなくてヒマなのもあるが。


「俺も学園行ってみっかな」


 人づてに聞いた情報しかないせいか、単純に興味がある。あと、入ってはいけないと言われると、なんだか入ってみたくなる。


 学園前には警備員がいるが、堂々と入っていけば意外とバレないんじゃないだろうか。

 問題は制服をどうやって手に入れるかだな。在希のを借りるわけにはいかないしな。

 そういや、幸憂も昔は学園に通ってたらしいし、あるのか?……いや、どっちにしろ体格的にサイズが合わないだろうしな。きっとあいつの大切な思い出のはずだろうから、誤ってそれを破くのはまずい。


 そうだ。俺には時計がある。もしなにかあったら学園に入る前に戻ればいい。そうすれば俺は無罪放免だ。


 いや。やっぱやめておこう。

 なにせ、あの在希が嫌がるような場所だ。きっとろくでもない場所なんだろう。そんな恐ろしい場所にわざわざリスクを犯してまで行く必要はない。


「『明日を見つけるのを手伝って』……か」


 必要性のあるわけでもない学園についてなんて考えるより、俺の目の前にはもっと難解なものがある。

 それは昨日在希が言った最初の願い事だ。


 何度思い返してもまるで意味がわからない。

 明日ってなんだ。布団で寝れば勝手にやってくるものじゃないのか。

 しかも見つけるって。そのまま受け取るとあいつは明日が見えないということになる。


 そうなのか?

 俺にはあいつがそこまで悩んでいるようには見えないんだが。


「わからねぇ」


 昨日の夜はそのことを考えながら布団で転がっていたらいつの間にか眠ってしまっていた。俺にとって明日が来るっていうのはそんなものだ。

 けれど、あいつにとっては違うのかもしれない。


「あいつに聞いてみるか」


 こういう時はひとりで考えても答えは出せない。無駄に時間を浪費するだけだ。

 だったら相談すればいい。ちょうどいい相手がいる。俺なんかよりもずっと、あいつらのことを良く知る人物が。




 軽く清掃を終わらせて箒を用具入れに戻した俺は賽銭箱の前に立つ。ここでお祈りをするのは俺の日課だ。

 けど、今日はそんな日課の後に賽銭箱の隣をすり抜け、社の扉を開く。


一色ヒイロ。エサ持ってきてやったぞ」


 そこの中で入り口に背中を向けて正座をしていた人物……一色に対し、俺は弁当箱を持ち寄った。


「なんだ。今日は来たんだ」


 俺の声に気づいた少女は姿勢はそのまま憎まれ口を叩く。だが、寛大な俺は特になにも言い返さない。まぁ、おおむね、昨日俺が来なかったから拗ねているんだろう。

 俺は、靴を脱いで彼女の顔を見て話せる位置まで行く。


「一昨日来ただろ」


「毎日来い。あともっと食事をよこせ」


「へいへい」


 こいつが社の中に住んでいるのには理由がある。何を隠そう、この神社で奉られているこの街の守り神がこいつだからだ。

 ごく稀に来る参拝客もこいつの話をしていなかったから、ただの自称だが。


 守り神が普通に話せるような存在であるというのはレアケースだろう。少なくとも俺は驚いた。天上の存在が近くにいるのもそうだが、記憶すらもたない俺を居候としてここに匿ってくれている。随分寛大だと思う。


 ちなみに俺は神であるということを信じているわけではない。見た目がちっこい女の子だというせいで威圧感とか神々しさとか、そういうのがないからだ。態度はデカいが。


 だが、少なくとも同じ人間ではないとは思っている。

 浮き世離れした紅い髪や、人とは違い、頭頂部から飛び出た耳と角をもつ。毎日食事をしなくたって生きていけるのを見れば同じカテゴリで分類されたくなくなるだろう。

 あと無駄に胸がデカい。その身長でそれはない。


「それで、私に何の用だ?」


 一色は俺の方にチラリと目をやる。しかし俺はそれが手に持っている弁当箱に向いていることを知っている。

 幸憂に作ってくれと頼んで正解だったな。

 そうだ。この弁当箱が欲しければ俺の話を聞け。




「ふ~ん。在希がそんなことを、か」


 弁当箱を渡すと彼女はそれをすぐに広げ、すぐに箸をつけ始めた。食べている間に俺は相談したかった在希の願い事について話した。

 事情も含め色々話したせいもあって、説明が終わる頃には弁当箱の中身はすっからかんになり、一色は礼儀正しくごちそうさまをしていた。


 神であるから食事なしでも生きていけるが、単純に食べるということは好きだそうだ。好みもあり、野菜や果物は好きではなくて、特に肉が好きらしい。ちっこい見た目だが肉食系だ。言うと怒るから口に出すのはやめておく。


「そうなんだ。何か知ってることはないか?」


 一色は俺だけでなく在希と幸憂もかくまっている。というより、あの家は彼女が在希たちのために用意したもので、後からやってきた俺も丁度いいからと居候することになったものだ。

 一色は基本この社の中から動かないため、俺たちは自由に生活することができている。が、料理を与えると喜ぶため、たまにこうして弁当を貢ぐことがある。少し悪いが今回はそれを利用させてもらった。


「もしかすると、彼女の魔法が原因かもしれない」


「魔法?」


 こいつ、今、魔法って言ったか? いやまさか。そんなオカルトじゃあるまいし。

 それにあいつが魔法を使えるのか。じゃあ、あいつは魔法少女なのか? キャラじゃないだろ。全く似合わないな。


「恐らく、貴方の想像とは違う」


 なんだ違うのか。あいつがどんな奇抜な格好で恥ずかしい台詞を言いながら悪者と戦っているのか興味があったんだが、仕方ない。ただの想像だけにしておくか。まったくつまらん。


「魔法は、言ってしまえばヒトが使える不思議な力のことだ。彼女の場合は『予見』……未来を見ることができる」


 一色はそう前置きしてから魔法についてを語ってくれた。

 この街はたまに不思議な力を持つ者が生まれる。その力の総称が魔法だということ。

 その力の効果は人によって異なり、手のひらから火を出したり、遠くの人に言葉を送ったり、とか色々なものがあること。

 在希のそれは『予見』であり、眠ることで未来を見ることができるということ。


 魔法は決して便利なだけではなく、ものによっては危険な力でもあるから、生活に用いられることはほぼないということ。



 なんだか急に情報が出てきてややこしくなってきたな。とりあえず在希のことだけを憶えておけばいいか。必要になったらまたこの時間に戻ってくればいいだろう。


「貴方の『左廻しの時計』も似たようなものだ」


「えっ……マジか」


「まぁ、誰でも使えるようになっているが」


 すっかり当たり前になっていたが、俺の持つ時計の時間を巻き戻す力もそういう魔法のひとつだそうだ。

 魔法と違って誰でも使えるようにした……魔導具と呼ぶらしい。

 なるほど。確かにこれは危険な力だ。いくらだって悪用ができるからな。まぁ、俺はそんなことするつもりはないが。


 ちなみに、俺の時計のことを知っているのはこいつだけだ。在希や幸憂には話していない。ややこしくなるだろうし、余計な心配をかけるかもしれないしな。


 じゃあどうしてこいつが知っているかというと、この時計の本来の持ち主がこいつだからだ。理由はわからないが、今は俺に預けてくれている。


 返せと言われてもたぶんかなり渋った上で拒否するとは思うが。それ程までに俺はこの時計を気に入っている。


「それで、『予見』か」


 眠ることで未来が見える魔法、それとあいつの願い事である「明日を見るのを手伝って」……確かに関係がありそうだな。

 だが、未来が見えなくなったとしたらその原因はなんだ? 不眠症なのか? 睡眠薬でも盛ってやれば解決するだろうか。


 いや、なんか違う気がするな。そもそも今朝は普通に寝てたしな、あいつ。むしろ、起こすのに手間取ったぐらいだし。

 だとすると別に原因があるんだろう。


「貴方、今暇しているだろう?」


 俺があれでもないこれでもないと悩んでいると、一色が顔を近づけてきた。思わず俺は後ずさる。


「なっ、なんだよ藪から棒に」


「ちっとばかし行ってきてもらいたいところがある」


 こいつは所詮居候の立場の俺が頼まれ事を断れないということを知っている。わかってて頼んでるだろ、どうせ。

 ヒイロちゃんは口調が初老の男性のような感じで落ち着いた雰囲気をもった幼女の声のイメージです。

 書き出してみて意味が分からなくなりました。

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