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何気ない朝

 ピピピッと耳障りな音の鳴る目覚まし時計に軽くチョップをして朝を迎える。時刻はまだ七時。なかなか開こうとしない瞼をこすりつつも、もぞもぞと動いてどうにか布団を押しやる。


 寝る前に布団の傍に用意しておいた服に着替え、ポケットの中に時計を忍ばせる。そんないつも通りの朝。

 強いて今日の違いを言うならば、目覚ましの時間を早めたことだろう。もちろん、これには意味があってのことだ。


「おい、在希。起きろ!」


 両手で勢いよく襖を開けると、そこで寝ている在希に声をかける。

 かなりの大声のつもりだったが当の在希は俺のことなど意に介せず寝ている。丸めたシーツを抱えながら、ぐっすりだ。


 これは起こすのは結構面倒かもしれないな。だが生憎とこんな程度では俺はへこたれない。諦めが悪いんだ。色んな方法を使って無理矢理にでも起こしてやる。


 ひとまず頬をつねってみた。効かない。というか、あんまり柔らかくない。残念な気持ちになった。


 台所からフライパンを持ってきて耳元で叩いてみた。かなりの音が出たが、不発。寝返りをうつだけ。ついでに俺自信の耳がしばらく聞こえなくなった。


 ならばと風呂場から昨日の残り湯を持ってきて、顔にバシャバシャとかけてやった。嫌そうな顔をするが目覚めず自棄になって洗面器をひっくり返してかけてみたが、結局目覚めなかった。

 布団がびしょ濡れになって後が面倒そうだったため、『時計』を使って戻した。


 その後も足裏をくすぐったりとか、目にライトを当ててみたりとか、なんか色々やってみたがどれもダメだった。こいつ……どうしたらあんな状況でも寝ていられるんだ。もはや常識外れだぞ。


『大丈夫ですか?』


 と、俺がガタゴトやっていたら、幸憂がメモを持ってやってきた。

 なぁ、お前の姉は本当に人間なのか。普通こんなにしたら起きると思うんだが。


 そんなことを言おうとしていたところ、俺の傍をすり抜けていった幸憂は在希が抱きかかえるシーツをすっと引き抜く。

 抱えているものが無くなった在希の手は何度か空をかすめ、やがて瞳を開いた。


「なるほど、シーツを抜けばいいんだな」


『姉さんは何かを抱えていないと眠れないんです』


 理屈はよくわからないが、そういうことなんだと理解した。やり方さえわかればこっちのもんだ。俺は本日何度目かわからないが『時計』を使って、時間を巻き戻した。


 どうしてか。それはアレだ。実の姉が赤の他人に弄られていると考えると気が気じゃないだろうからだ。

 一応、俺はやましいことやいかがわしいことはしていない。


 まぁ、時間を戻したことが憶えているのは俺だけだから、俺が何をしたかなんて誰もわからないだろうが。




「それで、どうしてあんたがあたしを起こしたわけ?」


 戻った時間で俺は在希を起こした。よもや、あんな簡単な方法でいいとは誰も思うまい。まぁ、それ以外のどんな方法でも目覚めないとも思わないだろうが。


 そうして起こされた在希は随分と不機嫌そうにしながら朝食の席についていた。作ったのはいつもの通り幸憂だ。香ばしい香りのトーストと、スクランブルエッグが並んでいる。

 一足先にそれを食べ始めていた俺はコーヒーに口をつけていた。この苦味が目を覚まさせてくれる。


「俺に起こされるのがそんなに不満か」


「そうじゃなくて。もう少し寝てたかったの!」


 なるほど。そういえばいつも幸憂が起こすのはもう少し後だったか。まぁ、早く目覚めて悪いことはないだろう。寝不足だというなら、それは単純に夜遅くまで起きているのが悪い。


「ああ、やっぱ起きて最初にあんたの顔を見たからだわ」


「なんだと」


 そうやってまた悪態をつかれた。まぁ、こういうのはいつもとそこまで変わらない光景だ。

 食事を済ませ、全員分の食器を洗う。それが終われば、境内の掃除だ。

 そんないつものルーティンを考えていたところで、在希の服装が寝間着のままだということに気づいた。これは……あれか。


「在希。ちゃんと学園に行けよな」


「うっ……」


 こら。露骨に嫌そうな顔をするな。


「いや。昨日行ってきたし……」


「あのなぁ」


 在希は何かと理由をつけて学園に行くのをサボりたがる。

 学園は色んなことを学ぶ場所だと聞いているが、在希には行く義務がある。ちなみに俺には行く権利すらない。


 この学園に通う義務があるのは街の中でもそんなに多くないらしい。要はこいつは学園からお呼ばれするような選ばれた人間であるのだが、当の本人的には硬っ苦しくて嫌だそうだ。

 まぁ、きっと俺は一生知ることのできない世界なんだろう。


「とにかく、あたしは行きたくないの! 昨日言ってたお願い! 『あたしは学園に行きたくない』!」


 そうして在希が言ってきたお願い。確かに俺はなんでも聞くとは言った。

 けど、まさかこんなに早く……しかもこんなことに使われるとは思ってなかったな。


「残念だったな。幸憂に『姉さんをちゃんと学園に通わせて下さい』ってお願いされてんだ」


 実は、昨日、在希に話す前に幸憂にも同じことを話していた。そうしたら幸憂は真っ先にその願い事を教えてくれた。勤勉ではない姉を心配したんだろう。実に良くできた弟だと俺は誇りに思う。


「なにっ。幸憂。あんた裏切ったわね」


『行ってらっしゃいです』


 ちなみに相反する願い事をされた場合は先に言われた方を優先することにしている。そこに俺の意見を介入させると贔屓になりそうだったからだ。

 結果的に在希は部屋に戻って着替え、しぶしぶ学園に行った。

 なんとなくわかる。学園から帰ってきたあいつは相当機嫌が悪いだろう。これは何か買って機嫌を取ったほうがいいかもしれない。

 抱き枕ではないですけれど、クッションとか猫さんとか、モフモフモコモコしたものが近くにあった方がよく眠れませんか?

 私はそうです。

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