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エピローグ

 気が付いた時、ベンチに座っていた。

 辺りを見渡すと、ピンク色をした花をつけた木がいくつも並んでいる、レンガの道。


 ここがどこなのか。

 どうして自分がここにいるのか。

 何も思い出せなかった。


 何かわかるものはないか。

 試しにポケットの中を探る。


 硬い感触。

 つかんで、それを目の前に持ってくる。


 それは時計だった。

 古い形の、確か、懐中時計と呼ばれるものだったはず。


 適当にいじってみると蓋が開く。

 中にある針は動いていなかった。

 歯車が抜けているのか、ネジが外れているのか。どちらにしても壊れてしまっているみたいだ。


「………ん?」


 時計に付けられた、時計と同じ金色のチェーン。

 それにタグが引っかかっているのを見つけた。


 タグには『ナナシ』と書かれている。

 これは、名前か?

 俺の……名前。


 そうだ。

 なんとなく、しっくりくる気がする。

 たぶんこれが俺の名前だ。他の事は何一つ思い出せないが、名前がわかっただけでも大きな収穫だろう。


 そしてもうひとつ。時計の裏側に何か文字が刻まれているのに気が付いた。


『いつか。ちゃんと返しなさい』


 それは誰かからの命令なんだろうか。

 よくわからないが。その誰かを俺は知らないから、返しようがない。


 だが、もし借り物なのだとしたら、大事にするしかないだろう。

 俺はチェーンをたたんでポケットに突っ込み、ベンチを立ち上がる。


 温かな風が吹き、ピンクの花びらが舞うレンガの道。

 その先には大きな建物がある。


 ひとまずあそこに行ってみることにしよう。

 そこでこの時計の持ち主が見つかればそれでいい。

 見つからなかったら、探す旅に出るとしよう。

 それが何も憶えていない今の俺のできることのすべてだろうから。

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