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短編

聖女のラストクリスマス

作者: 高石すず音

ローラ・ハミルトンは子供の頃から意地悪で、人に会えば必ず、憎まれ口を叩きます。だから彼女は、この街の嫌われ者でした。




クリスマスの夜。


パティスリーのショーケースには、ケーキが一切れ、売れ残っていました。閉店間際、店主が値下げの看板を出すと、待ちかねていたローラは、吸い寄せられるように店へと入って行きます。


ところが、そのすぐ後。親子連れが入って来ました。


あかぎれだらけの母親の手。女の子の小さな靴には、大きな穴が空いています。見るからに貧しいこの親子は、彼女が大嫌いな、幸せに満ちた家族連れではありません。


(あたしだって、こんなちびっ子相手に意地悪するほど、落ちぶれちゃいないよ)


彼女は視線を逸らすと、何も言わず店を出て行きました。




春が訪れました。


「蝶よ花よと育った女どもは、この季節が好きだろうが、あたしゃクリスマスの次に大嫌いさ! 媚びた色の蝶や花がひらひらしながら、次から次へと目に飛び込んでくるんだ。鬱陶しいったら、ありゃしない」


花が咲き、緑が輝く小径こみちを、ローラは小言を並べながら歩きます。


すると、向こうから、昨年のクリスマスの母娘ははこがやって来ました。


「あの時は、本当にありがとうございました。おかげで、この子にクリスマスプレゼントができました」


母親が丁寧に礼を言うと、ローラはやっと相手に届くくらいの、低い声で呟きました。


「礼を言われる覚えはないよ」




この年の秋、ローラはその生涯を閉じました。


(いよいよ年貢の納め時かい。あれが最後のクリスマスとは、しみったれた人生だったよ。さぁて、どんな事をして地獄の連中を困らせてやろうかねぇ)


今か今かと地獄の使者を待ちながら、彼女は意地悪を練っていました。しかし、迎えにやって来たのは、天使でした。


「あたしゃこの界隈じゃ、名の知れた意地悪婆さんだよ。人違いじゃないかい?」


息巻くローラをよそに、天使は告げました。


「地獄の苦悩も刑罰も、あなたに真の罰を与えることはできません。あなたには、あなたが大嫌いな、幸せに満ちた天国こそが相応しいとの地獄の沙汰が下りたのです」




こうしてローラは、天国で第二の人生を送ることになりました。


いつしか意地悪に張り合いがなくなり、顔立ちまですっかり穏やかになって、今では聖女として天国の人々に慕われています。


誰よりも人の心を知っている彼女は、今日も地獄宛に、天国で真の罰を与えるべき人物の推薦状を書いています。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  神様はちゃんと見てくれているんですね。  影の部分にこんな光の当て方もあるんだと、物語の作り方に感心しました。  そしてなにより、こんな素敵な物語が書ける高石さんのやさしいお人柄が伝わっ…
[良い点] 私が人を見定める時に、心がけているのは、どういう事を言ったか、ではなくて、どういう事を行ったか、です。 言葉では、どうとでも善く思わせる事ができても、実際に善い行いをするのは、優しい心を…
[良い点]  おー、今回も言葉にできない素敵が、たくさん詰まってるお話でしたね。  教訓めいたところを敢えて言うなら「人はみかけに依らない」かな……いや「人の精神や性格は環境によって大きく左右される…
2020/12/31 01:28 退会済み
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