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SF短編集

あたしから、妹へ。

作者: 遥彼方

こちらは私主催の「イラストから物語」企画参加作品です。

企画用に用意したイラストを全て使いました。

 プシュ。


 プルタブを引っ張れば、缶ビールが空気を吸い込む。入り込んだ酸素や不純物ごと、あたしは喉に流し込んだ。


「ぷはーっ」


 風呂上り。すっぴん。グレーのトレーナー。胡坐。何本も開けた缶ビール。食べかけのつまみはするめいか。

 ワイン片手にチーズとか、おしゃれな酒飲みじゃない。

 色気がなくて、おっさん臭すら漂ってるあたし。我ながらヤバいと思うけど、改善する気はなかった。


 缶ビール片手に、耳の後ろに埋め込んだインプランタブルデバイスを起動する。

 埋め込み式のチップを嫌って、いまだに旧遺物のスマホやパソコンを使う人も多いけど、あたしは抵抗ない。むしろ便利。

 だって手を使う必要ないし。頭の中だけで操作完了ってすごく簡単よね。スマホが手放せない勢はそれが怖いらしいけど。


 グビリ。缶のおしりを上に傾けて、苦味と泡の爽快感をのどに流し込む。

 開いたのは普段利用してるSNSアプリ。ほどなくして、あたしの脳内をSNSという情報の洪水が際限なく流れた。


 美味しそうなグルメ、馬鹿話がひゅんひゅんと通りすぎていく。その中に紛れるラブラブな男女の写真。あたしと同年代の人の子育てエピソード。幸せそうな夫婦ののろけ話。階段で缶飲料を飲む初々しいカップル。


挿絵(By みてみん)


 この子たち、妹と同じくらいの年だな。

 きゅっとあたしの胸の柔らかい部分が締まった。


 小さな頃から愛されるのはカワイイ妹。

 勉強して、お手伝いをして、いいお姉ちゃんをして、一瞬だけでも両親にこっちを向いてもらうために生きてきた、あたし。


 あー、なんだか湿っぽい。


 湿気を吹き飛ばそうと、もう一口。飲もうとして、空だと気が付いた。新しく開けようとテーブルの上に目をやれば、いつの間に飲んだのか全部プルタブが開いている。


 冷蔵庫にまだあるかな。

 冷蔵庫との連携アプリで中身を確認。在庫はゼロ。無意識に消費していたのは時間だけじゃなかったらしい。


 あーあ。缶ビールは空っぽ。つまみのするめいかは袋の底に数本へばりついてるだけ。その数本っていうのが、余計に虚しい。


「はぁ」


 ゴロリ。

 あたしは後ろに体を投げだした。毛足の長いラグに吸収されて、ゴトンと後ろ頭が鈍い悲鳴を上げる。省エネモードだったカーペットが、あたしの体を検知して温度を人肌モードに設定してくれる。ありがとう、AI。


 あたしは寝転んだまま、とりあえず缶ビールを注文した。明日は休日。午前中に病院行くから、ビールは午後からの指定にしておこう。昼から部屋の掃除して、おかずの作り置きして。


 寝転んで明日の予定を立てていたら、着信音が流れる。妹だ。デバイスの電話に出るを選択すると、妹と繋がった。


『久しぶり、お姉ちゃん』


挿絵(By みてみん)


 通話が繋がったことで映像も繋がる。

 高度を低くした太陽がやけに眩しく白い光を放つ、水色に藍が交じりつつある空。そして電柱。馴染みのある光景だ。妹の通学路であり、あたしも通った道。だけど肝心の妹が見えない。


「今どこにいるの。映ってないよ」

『あ、ごめんごめーん』


 ぱっと映像が下に動く。


挿絵(By みてみん)


 今度はちゃんと妹が映りこんだ。あたしは自分の安アパートじゃなくて、妹と同じ道に立った。

 通話は全てVRで繋がる。360度、3Dの広い仮想空間だ。

 なのになぜか妹がいるのは、かなり端っこなんだけど。設定ミスかな。


『もーお姉ちゃんったら、辛気臭い顔しちゃって』

「うるさいなぁ。あんたこそどうしたの、なんだか」


 消えそうな顔してるよ……。


 続く言葉は飲み込んだ。

 言葉にしてしまったら、本当になりそうな気がして。


『えへへ。デートのお誘いにきましたーー!! ね、お姉ちゃん。今日は私に付き合ってよ』


 妹の姿が消えて、脳内いっぱいにボタンの映像が現れる。


『じゃーん!』


挿絵(By みてみん)


 白いチープな本体に真っ赤なボタン。本体に書いてある文字は『押すな!』。黄色の背景にも『危険』『Danger』『押すな!』と、反対の行動を促すお約束を猛アピールしている。


「なにこれ」

『新しく私が作ったVR。お姉ちゃんと一緒に遊ぼうと思って』


 シュン。効果音と一緒にボタンの映像が小さくなって左上の隅に移動。映像の裏側から再び妹が現れる。ああ、これのために端っこにいたのか。

 呆れていると、昼夜の曖昧な空をバックに妹が、悪戯っぽくあたしを眺めてきた。


『ね、押して押して!』


 ギュンッとボタンの映像が前に出てくる。

 元気いっぱいな明るい声。期待に満ちた瞳。そこにはさっきまでの儚い雰囲気はない。


 よかった。いつもの妹だ。


「しょうがないなぁ」


 あたしはほっとして、ボタンを押す。ポチッという間抜けな音がした。

 注文した缶ビールは明日まで来ないし。明日は休日だし。可愛い妹の遊びに付き合うのは、子供の頃からだもの。お安い御用。


「やっほ~っ」


挿絵(By みてみん)


「はぁーい! 魔女っ子メグちゃんでーす!」

「へ? 魔女?」


 電柱のある空の映像は消え、代わりに昼の青空が広がった。空にはとんがり帽子を被ってほうきに乗った魔女が。

 栗色の猫目、きゅっと上がった口元。帽子と胸元の青いリボンがぱたぱたとはためいている。妹の設定したエフェクトか、ほうきからはハートがきらきらと散っていて可愛い。

 あたしは魔女の横、妹はあたしの横。手を繋いで空中に浮いていた。


 風があたしの髪を舞い上げ、肌にぶつかってくる。強風だ。え、と思って下を向いた。


「飛んでる!」


 当然足元には何もない。空気だけ。あたしと妹と魔女の遥か下には緑の大地が広がっていて、流れる川に沿って小さな家も点在していた。遠くには山というか、山脈。ひときわ大きな山の上には……なにあれ、ドラゴン?


挿絵(By みてみん)


「ひゃあああああ」


 あたしはぎゅっと妹にしがみついた。


 VRが発達した今。空を飛ぶとか海の中をダイビングとかの趣味が流行ってるけど、あたしは苦手。高い所は怖いし海の生き物も神秘を通り越して不気味。


「なんで空! なんでドラゴン!」

「えへへ。気持ちいいでしょー。お姉ちゃんと一緒に、一回飛んでみたかったんだ」

「あたしは無理無理無理ーー!」

「ごめんごめん。お姉ちゃん、高い所苦手だったもんねー」


 妹が軽い調子で謝った。もう!! いつもそうなんだから。


「もんねー、じゃないよ。分かってるなら連れてこないで。下ろしてーー!」


 叫んだ途端、ぱっと映像が切り替わる。紅葉した森の中。カサコソと足に伝わる地面と落ち葉の感触にホッとする。


「こんにちわ。おや、娘さん。顔色が悪いね。お茶でも飲んでいくかい」

「クッキーもあるよ」


挿絵(By みてみん)


「え、くまとうさぎ?」


 大きなきのこのテーブルと椅子でお茶会をしているくまとうさぎ。いきなりのメルヘンな光景にあたしはぽかんとする。


「お姉ちゃん、ファンタジー好きでしょ? 私もね、お姉ちゃんが読んでくれるファンタジーの本、好きだったんだ。だからそれの再現」


「ほら、座って座って。一緒にお茶を飲もうよ」

「クッキーもあるよ」


 くまたんが手招きした。つぶらな瞳に鋭い爪のない、デフォルメされたふんわりとした手。

 くまたんの対面に座るうさたんは、絵で見ると違和感なかったけど、うさぎの割に大きい。くまと比べたら特に。


 このうさぎとくまは、くまたんとうさたんのお茶会っていう絵本。大好きで、何度も何度も妹に読み聞かせた。


「お邪魔します」


 きのこの椅子に腰かける。弾力があって思ったよりも安定していて、座り心地がいい。


「すごい」


 じわーっと胸が温かくなった。くまたんとうさたんのお茶会はとってもワクワク楽しそうで。こうやって一緒にお茶をするのが小さい頃の夢だった。


 あたしは後ろを振り返る。


「魔女っ子メグちゃん」

「はぁい」


 片手で立てたほうきの柄を持ち、片手を腰に当てた魔女がウィンクしてくれた。

 そうだ。彼女は大好きだった児童書のヒロインで、小学校低学年の間は妹と一緒に何度も読んだ。そういえば二人で、メグちゃんと一緒に空を飛べたらいいねって言ってたんだ。

 本当に体験したら、怖くて無理だったけど。


 あたしはクッキーをかじる。さくっと歯に伝わってから、口の中でほろりと溶ける。広がるのは素朴な甘さ。


「くまたんのはちみつクッキーだぁ」


 本の中のクッキーが美味しそうで美味しそうで。妹と二人食べてみたくて仕方がなかった。お母さんが焼いてくれたクッキーも、色んなお店で買って帰ってくれたクッキーも。何かしっくりこなくて、妹と一緒になんでだろうって首をひねってた。

 このクッキーは想像してた通りの味。高級すぎず、固すぎず、バターがききすぎず、ほろっとサクッとしたクッキー。


「美味しいでしょ! 設定に苦労したんだから」

「ふふっ」


 えっへんと胸を張る妹がおかしくて、吹き出した。だってその仕草、小学校の頃からちっとも変わってないんだもの。高校生の妹がやるとおかしい。


 ――ほんと、おかしい。


 それからあたしたちは手を繋いで、本の仮想世界を楽しんだ。

 シンデレラのガラスの靴を履いてみたり。白雪姫の小人たちのベッドにもぐりこんでみたり。

 ドラゴンの側にもいってみた。そしたら気さくに話しかけられた。何の本だったかうろ覚えだったけど、妹もやっぱりうろ覚えだったらしい。好きに設定したんだそうだ。


「ね、最高のデートコースでしょ?」

「うん、ありがとう。最高だった」


 個人仮想空間のカスタマイズは自由自在。素人でも簡単に出来るよう、プログラムも改良されてる。社会人のあたしと違って、妹はいくらでもVRに時間をかけられる。だけど、これだけの空間を作り込むのは大変だっただろう。


「いいのいいの。お姉ちゃんにはお世話になってばっかりなんだから」

「やだ、急に。どうしたの」


 笑いながら聞いたら、繋いでいた手がするりと離れた。


「お姉ちゃんってさ、私のせいであんまり遊びに行けなかったし、彼氏も作らないでいるじゃない」

「彼氏は作らなかったんじゃなくて、出来なかったんだって」


 後ろで手を組んで、スキップするように先を行く妹。妹の前方で森が開けた。まばらに生えた木は、林だ。


挿絵(By みてみん)


 映林の辺り一面に咲き乱れる彼岸花。黒い幹をさらす木々。上空には白い光が輝いている。光に溶けそうな、木々の葉。彼岸花の下から覗く葉の緑。

 綺麗だった。

 とても幻想的で、美しくて。胸がつまった。


「綺麗。すごいね、これも作ったの?」


 雰囲気に呑まれてしまわないよう、あたしは明るい声で妹に聞いた。


「うん。すごいでしょ。私、ここでだったら一人で何でも出来るんだから! お姉ちゃんに世話を焼いてもらわなくてもいいんですよーだ!」


 あたしの前をスキップする妹が、肩越しに振り返って、べーっと舌を出した。


「生意気!」

「あはははは!」


 拳を振り上げたら、走って逃げる。追いかけるけど、相変わらず逃げ足が速い。

 現実だったら絶対に負けない(・・・・)のに。


「私はここで何でも出来るけど、お姉ちゃんは現実で何でも出来るよね」


 ぎく。少し前の考えを見透かされたあたしは、動きを止めた。妹もスキップをやめる。


「現実のお姉ちゃんって何でも出来るのに。起きるのは苦手だったよねー。起こすのはいつも私。ふふ。もう起きなきゃ駄目だよ、寝坊助お姉ちゃん」


 まあ、確かに。あたしは朝起きるのが苦手で、いつも妹が仮想空間から大音量で起こしてくれてたけど。


「何言ってるの。あたしは今起きてるよ。もう、寝ぼけてるのはあんたの方でしょ。どっちかというと、今から寝る時間じゃない」


 妹が電話をかけてきたのは夜の12時。それから二時間ほどたったから夜中の2時くらいのはず。


 寝転んでVRにいるのだから、寝ていて夢を見ているのと同じようなものかも。だからそんな風に言うんだよね。でも残念。VRと夢はすごく似ているけど、違うんだから。


「うん。そうだねっ。私はそろそろ寝ないと」


 妹が白く光る空を見上げた。眩しい木漏れ日が逆光になって、妹の表情が見えない。


「お姉ちゃん。これからは遊ぶのも彼氏作るのも、存分にやりなよね」

「だから生意気だって」

「いいから、約束!」

「もー。分かった。約束ね」

「絶対だよ」


 逆光の中、嬉しそうに妹が笑った。見えないのに、はっきりと分かった。仮想空間だから。


 ピコン。電子音がして、妹の体が蝶になる。青い翅が羽ばたく。ひらり、ひらり。光る鱗粉が雪のように彼岸花に降って白く光らせて。


「じゃあね、お姉ちゃん」


 唐突に、通話が切れた。



****



「……さん、聞こえますか?」


 通話と一緒に仮想空間から現実に戻った。あれ、女の人の声。あたしのアパートに誰かいる。


「……聞こえます」


 誰かに返事をした。寝起きだからかな、酷くかすれた声。重たい瞼を苦労して開く。

 なんで寝起き? さっきまで妹と電話してたのに。


 白い天井。白いカーテン。病院?


 慌ただしい足音や声が、遠くで響いてる。どういうこと。あたし、病院でうたた寝でもしてたのかな。

 なんで。アパートにいたはずなのに。


挿絵(By みてみん)


「自分の名前は言えますか? 俺が誰だか分かりますか」

「先生?」


 瞬きを繰り返して、はっきりしてきた視界の中。目に入ったのは妹の主治医。Tシャツの上に白衣を羽織っただけ。ぼさぼさの髪と光を反射しない三白眼。第一印象は怖いけれど、それは身なりを整えられないほど忙しいせい。丁寧で優しいし、笑えばガラッと印象が変わる。


「どうして病院にいるのか、分かりますか?」

「いいえ」


 正直に答えると、先生は教えてくれた。


「仕事帰りに交通事故に遭ったんです。意識不明の重体で、一時は危うかったんですよ」

「覚えてないです」


 あたしは驚いた。


「あなたは今何歳ですか」

「28です」


 いくつかの質問に答えると、先生は頷いた。


「大丈夫です。事故によるショックから、一時的に記憶が混乱しているんでしょう。事故の記憶以外は覚えているようですし、心配ありません」


 そう言ったところで、誰かが病室に飛び込んでくる。


「先生!!」

「ああっ、良かった。目を覚ましたんだな」

「お父さん、お母さん」


 二人は起きているあたしを見て、涙ぐんだ。あたしのために、二人が泣くなんて。


「ごめんね、心配かけて。ただでさえあの子のことで忙しいのに」


 ずっと入院している妹のことで、二人はいつもいっぱいいっぱいだった。そんな二人が自分の心配をしてくれている。それは嬉しい。けれど、同じくらい申し訳なかった。


 妹は、筋ジストロフィー症だ。


 筋ジストロフィー症は筋力がどんどん低下して体が動かせなくなり、最終的には呼吸すら自発的には行えなくなる病気。意識には何の障害もなくて。はっきりしているのに、体だけが言うことをきかないジレンマに患者は陥ってしまう。

 高校二年生の秋、妹はとうとうベッドから動けなくなった。


 多くの筋ジストロフィー症患者と同じく、意識を仮想空間に置いている妹は、元気で明るい。仮想の家であたしたちと繋がって、毎朝楽しそうに制服を着て登校していたけれど。


 現実に生きる両親やあたしは、そうはいかなかった。

 両親は妹にかかりきりで。時間もお金もかかって。あたしは色んなことを我慢して、諦めた。


 『あの子のことで忙しいのに』

 あたしの言葉で二人は顔を見合わせた。母の眉が下がり、みるみる目に涙が溜まっていく。


「あの子は、亡くなったんだ」

「…………うそ」

「こんな嘘など言うものか」

「そんな、だって、ついさっきまで、VRで……VRで……一緒に……」


 うそ。嘘でしょう。


 儚く見えた妹。楽しい妹とのデート。彼岸花。蝶になった妹。


 あたしは、真っ白になって。



****


 二週間後。あたしは退院した。退院後は、アパートを引き払って両親と実家に戻ることにした。

 妹の機器、妹の薬、妹の食事、妹の介護。

 どこもかしこも妹一色の空気に耐えかねて、出て行った実家に。妹が死んで、やっと。


 妹が亡くなったという事実は、中々飲み込めなかった。頭が真っ白になって、遠い世界、他人事みたいで、実感がわかない。


 お葬式に退院は間に合わなくて、あたしは病院のベッドの上で妹の遺影と対面した。

 にっこりと笑う遺影に写る妹は、制服を着ていた。VRで撮った写真だから。


 現実の妹は、現実の高校には通っていない。オンライン授業を受けていて、ダウンロードした仮想空間用の制服を着ていた。


 あたしは一時期、心肺停止に陥って、本当に危なかったのだそうだ。そしてあたしが危機を脱したのと入れ替わるように、心不全で亡くなったという。


 ピンポーン。


「はーい」

「お荷物です」


 玄関で交わされる母と宅配業者さんのやり取りをぼんやりと聞く。しばらくして母が段ボールを抱えてやってきた。荷物の中身は缶ビール。冷蔵庫の在庫ゼロで、注文していたあの缶ビールだ。


 あの時あたしは事故で意識不明だったのに。注文はきっちり通っていたのだ。宅配業者から連絡がきたので、届け先を実家に日時も退院後に変更してもらっていた。


 ガムテープをはがして、段ボールを開ける。綺麗につまった六缶パックの上に、封筒があった。


「?」


 今時注文書や領収書は紙で発行しない。なんだろう。


 封筒を開けると、出てきたのは折った便せんだった。可愛らしいそれを開く。


『おねえちゃんへ。

あんまり飲み過ぎちゃ駄目だよ。こっちに来るのはずーっと先にしなきゃ。それと、約束守ってよね。

妹より』


「……っ」


 小さな頃から愛されるのはカワイイ妹。

 小さな頃から、愛してた、カワイイ妹。


 デバイスを起動して、あたしは手紙メールを送る。送り先は妹のアドレス。もう存在しない、そこへ送る。




『妹へ。

 飲み過ぎないよ。そこに行くのはずーっと後。だから見ていて。待っていて。絶対絶対、約束は守るから。

 お姉ちゃんより』

挿絵(By みてみん)


相内 充希さんから、バナーを頂きました。

マーガレット全般の花言葉には、「私を忘れないで」「優しい思い出」という意味があるそうです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] たぶんいの一番に読んでいましたし、エブリスタでも読んでいたんですが、なかなか感想が言葉になりませんでした。 イラストの使い方でいうと、少しずれて妹が見えるというのが強烈に印象に残りました…
[一言]  すべてのイラストを使っているという情報を先に知っていましたので、どうするのかと思っていたら、仮想空間にしたのですね。  それなら、魔女と階段の学生二人も、彼岸花と魔女の跳ぶ山脈と電信柱の町…
[良い点] お疲れ様です。 VRは遥様の十八番のアイテムかなと思います。 使い方がやはりこなれていたと思います。 イラストを全て使って、ストーリーも破綻させないのはやはりさすがだと思いました。 […
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