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最終話 空を見上げた

よく、少年漫画などで主人公が空を見上げて寝転がるシーンがある。

あれを実際にやるとどうなるか。皆さんは知っているだろうか。


正解は。

すっごい眩しいのである。

眼球が焼け焦げるかってくらい眩しいのである。

だから、静かに目を閉じていた。

まだ壇上の気持ち悪さが残っているのか、頭はムカムカしたような感じだ。

でも、ここでこうしているのが、一番楽な体勢だった。

「あの………よんだ?」

「優花ちゃん。来たか。」

「うん…………。」

ゆっくりと上体をあげる。

不安げにこっちを見てくる顔に思わず笑みがこぼれた。

「大丈夫だからこっち来いよ。取って食ったりしねえよ。」

「そんなこと分かってます………」

とぼとぼと歩いてくると、すっと隣に座り込んだ。

落ち込んでるのか心配なのか、とりあえず声はかけなかった。

こっちから声がかけられるものだと思っていたのか居心地悪そうにしていたが、しびれを切らして口を開く。

「あ、あの!大丈夫?集会途中で抜けてたみたいだけど。」

「ああ、ちょっと寝不足で気分悪かっただけだから。」

「そ、そう。」

眩しいな。

そう思った。

青い空、春の空。

桜は盛りの項。

こうして青春の桜を見るのは二回目か。

眩しかった。

あの時は彼の顔を見た。私は自分が女たって気付かされた。

いまは……

そう思ってくれてるだろうか。

「なあ、優花ちゃん。俺のこと好き?」

「はぇ?!え、あ……うぅ……な、なんで?」

「いや、記憶は一緒だけど。外は違うし。あんた、私の器が好きだったんでしょ?」

「あー………うん。そうだったと思う。前世の君は、すっごい綺麗だった。」

「そう?」

「そうだよ。気づいてなかったでしょ?」

ふむ?そうだったか。

って、話がすり替えられている。

「で?好きなの。嫌いなの?」

「…………、好き。生まれた瞬間から、美月ちゃんだけを探していた。」

「美月は、前世の私だよ。今の俺は男だ。なあ、お前中身は男なのに男の子と愛せるの?キスしたり、一緒に暮らしたり出来るの?」

「それは…………」

「言いよどむでしょ。そう思ってた。」

私は立ち上がった。

私はそれでも、姿が違うと分かっても、彼と付き合いたいと思ってた。

でも、

彼に無理はさせられない。

「俺達、関わらない方がいいよ。ていうか死後もあんたは離してくれなかったから、私、いや、俺から離れるよ。別れよう。」

「っ………、」

ほら、俯いた。

分かってるよ。

嫌?悲しい?でも、答は出ないでしょ。

ばいばいって、言うのは簡単なんだよ。

背を向けて歩き出す。すぐ後に声がかかるのだが


「ちょっと待って。都希!!」


足を止める。


「好き……だよ。ねぇ。好きなのかな?分かんない、分かんないけど、私は、貴方がさっき寝転んでたとき、死んでるかと思った。死んでてくれないかなって思ったの!この世に生まれ変わったとき、また会えるとはそもそも思ってなかった。どうせ君のいない世界で、私は、医者か、葬儀屋になろうと思ってた。だって、まだ僕は、私は、死体が好きなの!愛せるのは死体だけなの。苦しいよ、私は生きてるのに、死んでる人しか愛さないなんて、私は、私は?なんなのよ………」


振りかえれなかった。

ああ、痛い。

これは生徒会長として?

さっき全校の前で一年を助けるって公言したから?

今すぐ振り向いて助けてあげたいって思うのは。


調べてしまったから。

当時あった事件のすべて。

私の死体がどうなってたか。

色々分かった。

だって彼は私との生活を逐一SNSであげてたから。

狂ってる。そう思わずにはいられなかった。

吐き気がするほど気持ち悪くて、忘れたいほど嫌な相手。

なのに、どうして、こんなにも。



愛しちゃうんだろう。


「………嫌だな。俺は、君のことなんか嫌い。」

「っ………」

「君の前で美月になるつもりは一生ないし。君のためって思ってた筆は今からは自分のために執る。でも、何でだろうね。君のこと、こんなに離しがたいって思っちゃうのは。俺も大概狂ってるよ。」


狂ってるね。

自分の死を願ってる女と一緒にいたいなんて。

どうなるかなんて分かんない。

死体しか愛せない女を愛すなんて。


「だけど、お前の前では死なない。お前と幸せになるため、今世では看取ってからしか死なないよ。」

「っ……嫌だ!嫌だよ、都希!お願いだから前みたいに先に死んで、そうしないと私は、一生幸せになんかなれないよ。」

「幸せになんかするもんか。俺のいない世界で。」

「おね……がい…ねえ、死んでよ!死んでよぉ!」

「無理だ。俺は絶対に死なない。今世では、君が先に死んで。」

憎んではいない。嫌なだけ。

二人で分かち合うはずの愛を独り占めして。

私は、そう言う独りよがりな愛が一番嫌いだ。


「ねぇ、優花。」

「え?」

「俺な、思うんだ。幸せは平等に与えられるとは限らない。でも、人間が他人に与える幸せは出来るだけ平等であるべきだと。」

「う?うん。」

「だからさぁ……、」

そっと頬に手を伸ばした。

彼女の俺より高い体温を感じながら、頬をそっと撫でる。

いきなりだったから驚いたようだが、彼女もその感触に惚れるように堪能しているように見えた。

よかった。

これで君は気付かない。


俺はあらかじめ用意していた冷たい塊をそっと彼女の首に押し当てた。


「………都希?」

「今度は君の番。君さぁ、私との約束破って女の子に生まれちゃったじゃん。駄目だよ。だから、もう一回チャンスをあげる。もう一回死んで、今度は男として生まれてきてよ。18歳差の夫婦はさすがに辛いけど、不可能じゃない。でしょ?」

「もう一回……?」

「そう、だから、ほんの少しの間おやすみ。」



「あれ?先輩。お久しぶりです。」

「うわ……ほんとにいたよ。」

「それはこっちたの台詞ですよ。まじで腐男子だったんだ……周りの視線が獣のよう」

「わぁってるよんなもん。お前の本買いに来ただけだ。」

困ったように顔をしかめ、後頭部をかく。

「なんですか先輩。嬉しいこと言っても値引きはしませんよ。」

「そうじゃねえよ。おまえの本のことは元々知ってたんだよ。全年齢対象なんだろ?」

「はい。まあ、作者もこんなですからね。心ない人からR描けって言われることもありますけど。」

「描くなよ。」

「分かってますよ。はい、九百円。」

「ん。」

商品を渡された都希は袋を破るとそのままそこで読み始める。

「ちょっと、何してるんですか。商売の邪魔です。」

「知ってる。」

「こいつ………ほんとに、なんなんですか。ていうか先輩、学校来ないから問題になってたんですよ。なんかそれだけじゃないとかで学校の周り警察とかうろうろしてるし、報道陣もいるし、のこのこずる早退なんて出来たもんじゃないです。」

「しなけりゃ良いじゃねえか。」

「それもそうですね。つか先輩こそ、あの変人彼女さんとは上手くいってるんですか?」

「まあまあ……だな。」

「よく言う……親に内緒で同棲とかしてるんでしょ。まあ、先輩も大概頭おかしいですから、お似合いですよ。」

「ふーん。」

都希は持っていた本を閉じると、にっこりと笑った。

あどけない少年みたいに。

少女はピクリと顔をしかめた。

どこか、嫌な感じの顔だったから。

「ねえ、君はどうしてこんなに狂った話を描けるの?」

「うん?」

「これだよ。」

買った本を見せてくる。

狂ってる……か。

「いや、だって、痛みと執着の中の恋情ほど美しいものは無いじゃないですか。痛みを受ける与える中にある互いへの依存。そして、愛。それがなくちゃ面白くない。」

「君も大概狂ってる。」

「それを世が狂ってるというのなら、それでいいですよ。」

「まあね。皆、狂ってる人や頭のおかしい人は忌避するけど、そんなピエロがいないと、やっぱりこの世はつまらない。」

「ごもっとも。」

人いきれの中、二人の声を潜めた笑い声は誰にも聞こえることなかった。




***

こんにちは!まりりあです。どーーん!

最終話ですよ?番外編書くかも知れないですけど、とりあえずここで完結です。

最初はほんっとに純粋な面白可笑しい青春ラブストーリーを書こうとしたのに……何所で間違えたんですか?

みーんな病んでるよ。これでいいんですかね?

まあ、ハッピーではないけれどバットとも言い切れない歯切れの悪い終わり方ではありますが、これもまたありかと勝手に思い込むことにします。

今度は、純粋なもの書けるといいな~

次回作も考えてはあるので、もしよろしければ引き続きご贔屓に。

それでは、またの機会に!

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