5 相談と仲間
保健室って言うのはいつ来ても慣れないもので、特にこうして怪我以外の理由で来たのは初めてで、つまるところこのベットで寝るのも初めてで、
「せんせ。眠れん。」
「体調悪いんでしょう。生徒会長が生徒集会から抜け出すほどなんでしょ。」
「俺がわざといったとは思わないのか、嫌な仕事を放り出すために。」
「んー、思わないわね。貴方仕事だけはちゃんとするって先生方の中では有名だもの。きっと生徒の中でも思ってる人はいるわよ。」
「そうかよ。」
ふと、あの副会長が浮かんだ。
三年間生徒会にいたくせに、前年度の末、のこのこやってきた俺に会長の座奪われて、それでも俺のためにとか働いて。
馬鹿なんじゃないかって思った。
だから、
彼女には人一倍感謝をしなければいけないと思った。
今回も、帰ったら言おう。
そこで、扉が開く音がする。
ここの保健室は診察する部屋と生徒が休む部屋で二つに分かれているため、ここからじゃ誰が入ってきたかは見えない。
はいはい、と先生が出て行く。
暫く何か話した後、先生はその生徒を連れて戻ってきた。
一瞬、あいつなんじゃないかってドキリとしたけど、別の女子生徒だった。
二年生であることが胸元のリボンで分かる。
こちらをチラと見ると、生徒会長だと分かったのか、軽く会釈してきた。
反射的にそれに返す。
「都希君。彼女隣のベットいい?」
「あ?ああ、別にいいが。」
「そう。貴方もほら、気持ち悪いんなら早く横になって、はい、これもって。」
「………はい。」
少女は胸に袋と洗面器をぐいぐいと押しつけられている。
少女が素直に受け取ると、きびすを返したように先生が歩き出した。
「せんせー、どっか行くの、生徒二人もおいて?」
「あんたら元気じゃん。柚葉。あんたの仮病はわかってるよ。気が向いたら帰りなさい。都希。億が一度本当に気分が悪くてどうしようもなかったら隣の少女に頼りなさい。」
「!!……ばれてましたか。」
「当たり前だ。私はもう二十年近くにはこの仕事してるからね。」
じゃあね~と手を振って出て行く。
隣の仮病使いにしても、あの先生にしても。
ここの学校はどうも変な奴が多い。
いや、俺が変な奴を引き寄せているのか?
「……あのさ、仮病なら戻れよ。」
「生徒会長の命令でも、嫌です。」
むすっと顔をしかめながら、少女はスマホをポチポチしている。
今は一応授業中と扱いなので、これは校則違反だ。
まあ、柄でもないし、俺は全然興味ないが、もし、万が一にでもその校則すら知らないような可哀想な頭の持ち主だった場合それは校則を全校に教える役目を果たす生徒会のつまり、俺達のせいとなる。
それだけはどうにか避けたい。
「校則違反だぞ。」
「……うるさい。」
「はぁ?」
「うるさいって言ってるの。こっちは急いでるんだから邪魔しないで。」
「急いでるって、んなもん家でやれよ。ここは学校だ。」
「家に帰ったらやることあるの。」
「だからってここでやっていいことにはならない。」
「だあ”ーー!うるさいなぁ!ここでネタ作らなかったらもう間に合わないのよ。次のイベント間に合わなかったらあんたのせい。あんたの家にあんたと副会長の…………あ…、」
「副会長?何度ここで?つか、イベントって?」
「何でも……ないでぇ……す。」
イベントと言って一番に出てきちゃうのが、そう言うイベントなのは、もうオタクとしては仕方のないことで。
そういえば、俺も帰ってから支度しなくちゃなどと思ってしまう。
………まだ、描きたいって思えるのだろうか。
あんだけ悩んでおいて、時代遅れの絵とストーリーでも、一人のために描きたいと思っていたのに。
手持ち無沙汰になり、計温のために渡されていた紙を裏返しペンで絵を描く。
こうやって体は違っても絵は描ける。
記憶と、あるとすれば魂は同じだから、オリジナルキャラクターくらいなら書ける。
でも、あの時みたいな気持ちは、もう持てないかも知れない。
「はぁー、何やってんだろ。俺。」
持ってたペンを投げると足下の布団の方に転がってベットから落ちる。
紙の挟まったままのバインダーも適当に放ってふて寝を決めようと布団を引っ張り上げた。
ガタッと音がしてバインダーが床に落ちたのが分かった。
拾う気も無かったが。
「会長は、絵がお上手なんですね。」
「ん………。」
寝転がったら昨日眠れなかったのもあり、案外ぼんやりと頭が重くなってくる。
だから、後ろから聞こえてきた声に本質の美月の方で応えてしまった。
「あ……、執筆長いから。」
「漫画ですか?」
「まあね。二次創作とか……オリジナルも……」
「ジャンルは?」
「B………L……」
「は?」
「だから、ボーイズラブだって。」
「……………先輩。腐男子ですか。」
「ん、かも。でも、もう止めようかと……思ってる……」
「何で、こんなに上手なのに。」
「…………失恋?とはちょっと違うか。私の好きだった人が嫌いだったから。」
「え~。彼氏がBL作家とか夢ですけどね。」
「どうだろ。彼は死んでる私が好きだから。」
「はえ?」
何言ってるんだろう。
何も知らない赤の他人に。
でも親しい人に言ったら心配させちゃうし、一期一会の相手だからこその悩み相談かも知れない。
「死体をね。欲しかったんだって。」
「ありぁ。そりゃあそれは、大したご趣味で。」
「でも、気持ち悪いって言っちゃった。」
「そりゃあ、キモいですね。でも………」
何が言いたいのか言葉を切る。
互いが何も話さないその時間が恐ろしく長く感じた。
「お前の前では死なない。お前を死ぬほど幸せにして、看取ってから死ぬ。とか言われたら……いい……。」
「そんなもん?」
「……うん……いい。」
「そっか…ぁ………」
目を閉じたら睡魔に噛み付かれた。
その毒牙を頭にぐりぐりと差し込まれるように少しずつ眠りが深くなっていった。
「うん。次回のネタはこれで決まり、実際に言われたら間違いなくキモくて吐くけど、二次元はやり過ぎくらいが丁度良い!死ぬまで、いや、死んでも離さない粘着質攻めと病弱の受け?あり……か?」
少女が1人保健室で唸っていた。
***
こんにちはぁ。まりりあです。
肩、腰が痛い。そう言うときには背中も痛くなる。
この痛みの連鎖をどうにか断ち切ることができれば、きっとそこはワンダーランド。
それでは、次の機会に。