3 頭を抱える
こんにちは。元美月、宮島都希だ。
さて、皆さんの中に長らく付き合ってきた友人や知人、恋人の意外な一面に出会って腰を抜かしたという経験がある方はいないだろうか。
たった今、俺はそれを身をもって体験していた。
「………へ……え……」
「だ、大丈夫?」
「うんと、大丈夫か大丈夫でないかと言われれば、大丈夫じゃない。」
「だよね。」
ゆうくん。いや、優花ちゃんは、あははと笑いながら背中をポンポンと叩いてくれた。
頭は自分でも分かるくらいパニックで、パニックで。
「………う…………。」
「ん?」
「嘘つき!あんなににこにこ私の話聞いてくれたのに!私てっきり。」
「え~。それ話しているときの美月の顔が可愛かったから。」
「っ……!このっ!」
何でこいつはナチュラルにタラシ発言が出来るのか、正気を疑う。
思わず拳を振り上げてた。
「わっ、」
「っ………ぁ」
忘れてた。
こいつ今少女なんだった。
…………調子狂うなぁ。
前世の私なんかより何倍も可愛い女の子になりやがって。
やっぱり、こうしてみるとゆうくん……いや、優花ちゃんは可愛い。
私はチラと部屋の隅の母親から無理矢理置かされている鏡を見た。
相変わらず寝癖の付いた髪ときつい目つき。
前世から化粧とか服とかには全く興味なかったけど、流石に彼氏より女子力低いのは萎える。
と言うか、悲しい。
やっぱり、なんだかんだこいつも可愛い子が好きだったのか。
なんか、こいつに関しては男女以前に趣味を分かち合える仲間って感じだったから、今まで気にしなかったけど。
う~ん。
「どうしたの?」
「いや、こっちの話。」
「そう。」
………止めよう。
こいつ鋭いから。
あー、と唸って頭を抱える。
なんてことしてんだよ前世の俺。と言うか、記憶がまんまはいっているから自分何してるんだよって感じ。
穴があったら入りたい。
「なんだよ………ただのセクハラじゃん。」
「そうだね。」
「そうって……嫌だったならいってくれれば。」
「う~ん。」
少し考える優花ちゃん。
その考えながら人の頭撫でる癖、今も治ってないのか。
「嫌だったこともあるけど、夢に向かって一生懸命な人っていいよね。」
「はぁ?」
「美月。いや、今は都希君か。」
「美月でいいよ。」
「美月はさあ、大好きなものを大切にしているときが一番可愛い。」
「でも、それは、誰かの書いた男に興奮してるの。いわば、不倫、移り気」
「それが複雑だよね。」
「っ…………!ごめん、すまん、悪かった、申し訳ない。」
「オンパレード。」
言い切れないほどの謝罪の念と言うか、悪いという気持ち、自分を責める気持ちに押しつぶされそうだった。
彼氏と二次元の嫁は別問題。
そうは思っていたけど、別に彼はオタクじゃなくて、そんな考えもないはずだ。
それを知らずに私はどこかで傷付けていたかも知れない。
言い訳も償いも出来ないけど。
「ほんとにいいって。ところで、今世では、前世の奴継がないの?」
「あー……、」
多分、前世で書いていた連載もののオリジナル作品についてだ。
ネットのサイトでだけど、読者も付いてたし、途中までしか書けなかったことに心残りは少なからずあった。
でも…
やって良いものか、分からなかった。
彼に会えたらやろうと思っていたから。
「まあ、色々理由はあるんだけど、一つは、今の体だと前と全く同じ絵は描けないってこと。もう一つは、あれからもう18年たったから、私達が知ってる流行なんて、とっくに過ぎちゃっているってこと。私のサイトだって、見てくれてる人もういないし。」
「そっか。」
「うん。書くのは1人でも出来るけど、やっぱり見てくれる人がいないと寂しいし、ゆうくんが、見てくれるならって思って書いてみたりはしたんだけど………うん。何でもないや。」
「見せてくれないの?」
「見たいのかよ。」
「美月が作ったものだ。みたいよ。」
「…………。ちっ、止めてよ。その顔。」
こいつの笑顔には、未だに負ける。
彼は私の笑顔が好きだといっていたが、自分の顔を鏡でよく見てから言ったほうが良いと思う。
仕方なく、殴り書きのネームを渡す。
それを書いたのも一年も前、一般のお方に見せるのは恥ずかしいが、望まれたら仕方がない。
「どう、かな。」
「……………。うん。相変わらず。」
「何が?」
「夢見がちな文章とあり得ない設定。そして、愛がこもった絵だよ。」
「…………、嫌じゃないのかよ。こんなの書いてるのが私みたいな男で、あんたは全く趣味じゃないもの読まされてるんだよ。」
「僕、いや、私には出来ないことだよ。だから褒めた。」
読み終わった紙を綺麗にまとめると、机におく。
そして、その前に座る私、いや、俺にぎゅっと抱き尽きてきた。
「何してんだよ。今世では、付き合ってもいないのに。」
「ここに、居るんだよ。彼女が。」
「……………、今世こそ、長生きして幸せになれよ。」
「今世では、幸せにしてくれないの?」
「優花が望むなら。」
「…………。駄目だなぁ。」
「え?」
抱きしめていた手を離すと、優花ちゃんはそっと頭を撫でてくれる。こういうスキンシップが大好きなのは、今も昔も変わらない。
そして、突然の拒絶に私は正直驚いていた。
まさかこんな言葉が出るとは思ってなかったから。
「どう、して?」
「ん~。僕が、美月の幸せを一つ壊したから。一つだけ、約束を破ったから。」
「どういうこと?」
いいずらそうに微笑む彼女。
今すぐにでも突き倒して問いただしてもいいのだが、それは自分の部屋とは言え憚られた。
というか、驚いて立ち上がる気力もなかった気がする。
「ごめんね。君のことは尊重したいし、君との約束は守りたい。でも、僕もちょっとした欲が出ちゃったんだ。結果、君の遺書にあった、お母さんをよろしく頼むってのを遂行できなかった。」
「……母さんに、何したの?」
「いや、僕が手を出したのは君だ。結局君の母さんに見つかって、刺し殺された。」
「はぁ…………?」
「僕さ、盗んだんだよ、君の死体を。だって、好きだったんだもの。」
***
はいはい。こんにちは。まりりあです。
もう、書いていて思うのが、どんだけ互いに好きなんだよと。
甘々かよ!幸せになれよと。
いいですよぉ~だ。こっちはホットケーキでも焼きますよ、という感じですね。
で、ですね。
次回の話は多少グロいというか、バイオレンスというか、そんな感じになるので注意してくださいね。
当初想定していた話と大分違って一番困惑しているのは作者です。
では、またの機会に。
・訂正いたしました。此方で昔のお母さんのゆうくんの殺し方が「絞め殺す。」だったんですけど、後話において、どう見ても刺し殺してるので、合わせます。
サツいるし、絞め殺すって女性の力じゃ難しいよね?