1 春
硬い生地の制服を身に纏い、桜並木を歩く。
希望に満ちあふれた顔は、この季節の風物詩とも言えた。
新しい季節、新しい生活、新しい気持ち。
何もかもが新しいこの時期に、夢と希望を抱いた新入生達は、歩き慣れぬ通学路を一人また一人と歩いている。
そしてまた、自分もその1人だ。
これから始まる高校生活はどうなるのか。
勉強は難しそう。
友達は出来るのか。
そして何より、恋というものを知れるかも知れない。
アニメ、漫画のようなときめく恋じゃなくていい。
普通の幸せを普通に分かち合える。そんな相手がいれば良い。
まあ、普通が一番難しいのだろう。
何だって出来るし、何だってしてやろうと思っていた。
入試の時や、合格発表の時くぐった校門は、これから三年間毎日通うことになる校門だ。
校章の桜の花が生徒達を盛大に向かえていた。
よし。
頑張ろう。
そう意気込みを新たにしたその時だった。
「こっんの……馬鹿者!!!」
後ろから大声で叫ぶ声と、何かを殴る音が聞こえる。
そこにいた殆どの人がそうしたように、自分をその現況に振り返った。
制服が見える。
男子用の制服。
黒と言うより茶色に近い髪色。
これは、どう見ても校則違反ですね。
怖いなぁ。この学校そう言う人がいるのか。
精々目をつけられないようにしよう。
そう冷静に考えていたのも、彼が顔を上げるまでだ。
「いってぇ。何すんだよセンコー」
「小林だ。先生の名前くらいちゃんと呼べ、お前はもう三年だろう。」
「へいへい。分かりやしたよ、こーばちゃん。ったく、今年度も一年よろしくお願いしますねぇ~。」
「お前、また反省質送りにするぞ。」
「あ~。山々なんすけど、今日は予定が………」
まっずい、こっち見た。
きっと周りに立っていた人々はそう思っただろう。
でも、違った。
彼に目を奪われて、その視線を切れないものもいた。
「……あっ……美月……ちゃん。」
「…………。」
駄目だ。重なる。
かつて日々の一部としてそこにいた彼女に。
違うはずなのに。
だって彼は男だ。
探している美月ちゃんは……
___こんどは………おとこ……どうしで……あおっか。
あれ……?
男同士で会おう、と言う約束を彼女は守ったのか。
「ゆうくんか。」
「っ!!そう。そうだよ。」
「ははっ……そうか………ゆうくんか……」
茫然としたようにこちらを見てくる。
だってそうだろう。
そうだろうな。
彼は俯いて立ち上がる。
前髪で影になった顔が見えない。
制服に付いた土をパタパタと落とす。
どうやら大分落ち着いているみたいだ。
良かったと胸をなで下ろせなかった。
「お前!やくそくしただろ。」
「う………くっ……止めて、美月。」
「うるせえ。お前、何女になってやがるんだ。」
気が立ってるのか、昔よりも逞しい手で、俺の、いや、私の襟元を掴み、宙ぶらりんにさせる。
爪先がたった数センチ浮いているだけにも関わらず凄く苦しかった。
「おい、止めろ橘。」
「うるさい。センコーは黙ってろ。」
「おまえな、新学期早々退学になりたいのか。」
「……!!っち、わぁーたよ。」
大人しく下ろしてくれる。
けほけほと咳き込んでいたら背中をさすってくれた。
「その……なんだ、ごめん。ついかっとなって」
「いいよ。」
優しいな。
相変わらず。
背中をさすってくれる手は、昔より大分どっしりとして大きい男の手。
可愛い彼女じゃ無くなっちゃったんだなぁ、と思ってしまう。
大丈夫か?と、先生にも聞かれ、大丈夫と答える。
息できなくなったわけじゃない、流石に手加減はしてあった………と思う。
予鈴が鳴っている。
見ていた生徒達は教室に入るべく走り出していた。
美月、いや、元美月の男もやっべぇと呟いて、校舎へ走って行こうとする。
その首根っこを捕まえられて、阻止されたが。
「そこの子も来なさい生徒指導部屋行きだ。君たちのことは担任に言っておく。学年と名前を。」
「ちっ、俺のことは知ってるだろ。三年一組宮島都希」
「え、っと、一年二組田嶋優花です。」
「行くぞぉ。ったく、都希ィ、お前くらいだぞ。こう頻繁に問題起こすのはぁ。」
ジタバタと暫くは暴れていたが、やがて諦めて静かに首根っこを捕まれて歩き出す。
私もひょこひょこと後を付いていった。
「うっせぇ。俺が悪いんじゃねえよ。」
「いや、今回限りは君のせい。」
「それは……」
ぐうの音も出ない感じだ。
再会がこうとは、全く彼女は変わらない。
***
こんにちは。まりりあです。
さて、皆さん、お気付きでしょうか。
『ひらひらと鮮烈に』を読んでくださっている人は分かるはずですが。
なんと、私の話の中で美月という名前が被ると言うね。
うっかりでした。
でも、こっちは漢字。向こうはカタカナと言うことで、許してください。
そして誤字脱字があっても、笑って許して是非ご報告お願いします。
それでは、またの機会に。