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序章 命尽きる瞬間

ピッ、ピッ、ピッ、と聞きなれぬ機械音がやけに大きく聞こえた。


「ゆう………くん……」

掠れた声で話し掛けてくる彼女の手を握る。

こんなに骨張った手だったか。

もっと、柔らかくて、すべすべで、握っているこっちが恥ずかしくてたまらなくて。

でも、どうしてだろう。

大好きな彼女の手を握っているはずなのに、こんなにも胸が痛いのは。

心臓に鉄を流し込まれたような重たさ、喉からあふれそうな痛み。

「ここに、いるよ。美月」

「うん。」

もう、会えるのも喋れるのも最後だと、どこかで分かっているからか。

でも、ここで何を話せば良いか分からなかった。

もう話せないのに。

今まで、夜も昼もずっと話したいことは五万とあってずっと彼女の顔を見ていたかったのに。

どうして、

どうして喉が熱くて言葉が紡げないんだ。

どうして目の前がぼやけて彼女の顔が見えないんだ。

「ゆう…くん。あのね……おかあさんのこしていって……しん…ぱい……」

「ああ、」

皆まで言わなくても分かる。

今もベットの反対側、彼女に左手を握っている母親は、彼女を女手1人で18年育ててきた。

他に兄弟もなく、気の優しい母をのこしていくのが彼女なりに心配なのだろう。

「おばさんは、任せてくれ。俺じゃ力になれないかも知れないけど。」

「うん………お願い。」

彼女の最後のお願いが母親のこととは。

ああ、こんなにも心優しいこの子だから、俺は惹かれたんだ。

元気な裏に潜ませる弱さも儚さも。

夢見る少女を演じひた隠す現実への絶望感も苦しみも。

他人に、特に母親に気苦労を掛けないようにとの彼女の優しさからだろう。

その彼女の足掻きが、とても辛く、危なっかしく見えたから、俺は幼馴染みとしても、彼氏としても支えて行けたらと思っていた。

なのに。

「はは…ごめん。結局、美月に支えられてばかりだ。君に何もしてあげられなくて、ごめん。」

「あや……まらないで……」

「そうだね。ありがとう。」

酸素マスクの向こう、彼女がうっすらと笑った気がした。

苦しいだろう。

命尽きる瞬間がそこまで来ていることが分かって怖いだろう。

鎮痛剤が打たれているはずだが、最早効き目は薄いだろう。

でも、

それでもなんで、君は。

笑えるのだ。

「母さん……ありが…とう……先に…とう……さんに…会いに……行く……ね。」

「っ!!みつき!しっかり、しっかりしなさい!!」

悲鳴にも似た叫び。

いつも笑顔で喫茶店を一人切り盛りしている彼女の母は落ち着いた彼女とは真反対のしおらしい美人だった。

そんな彼女がここまで根性をあらわにしているのは、今まで見たことがなかった。

親子二人三脚、ここまで楽しい生活を送ってきた。

それが悪夢に変わったのが1年前。

1年の闘病生活。

病院でも笑顔を絶やさなかったこの親子のこんな顔を見せられたら。

痛い。

苦しい。

人の死が、愛した人の死がどんなものかをストレートに感じる。

こっちまで死にそうだ。

いや、死ぬよりも辛い。


必死に娘の体にしがみつく実の母親を見ながら、美月は静かに笑った。

「私……生まれ…かわっても……ままのこに……なるよ。」

「生まれ変わるって……!貴方はずっとママとパパの子でしょ!」

「えへへ……そうだね……」

失敗失敗と、美月はいつものようにおちゃらけた顔を見せる。

いや、しようとしている。

彼女は何所までも彼女なのだ。

初めて会ったとき、思い切り頭突きされたことも。

小学生の時、中学生の怖い人に囲まれていた俺を全員殴り倒して助けてくれたことも。

中学に行っていじめっ子を泣かせ、問題になったことも。

高校入学と同時に、懐かしの頭突きとともに告白してきたことも。

全部全部今の彼女と変わらない。

その本質は優しさと強さに満ち満ちていた。

「ゆう…くん……あのね………。」

「うん?」

もう大分聞き取りずらくなった彼女の声に耳を傾ける。

呼吸の音さえ聞き漏らさないよう。

彼女の発する1音1音を脳に焼き付けた。

ふっ、と、美月は目を閉じる。

表情を作るのも難しいのか、穏やかな顔をしていた。

「わたし……うまれ………かわったら……また…あいに……いくよ……」

「う、うん……」

「だから……こんどは………」

彼女は、何所までも彼女なのだ。






「こんどは………おとこ……どうしで……あおっか。」




彼女は、何処まで行っても彼女なのだ。





***

こんにちは。まりりあです。

ちょっと、ひらひらと……が生きずまり気味なので、こっちに寄り道をば。

じつは前から、かこう書こうと思っていたこの話、終わり方が思いつかなくて書くのを躊躇してました。

でも、どうしても書きたい理由があり、この際書かせていただきました。

全5話位の短編でお送りする予定です。

お時間がありましたら、よろしくお願いします。

それでは、またの機会に。



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