三年目の新年会②
リードは絶望的な顔して、インゴットを僕に返してきた。ふと、どっかの誰かは当たり前のようにバックに入れてくすねようとしていたのを思い出した。そういえば、一ヶ月経つというのに、音沙汰がないな。まぁ、急いでいるわけではないからいいけど。
「落ち込んでいるところ悪いが、今日は新年を祝うための宴をしようと思うんだ。その準備を手伝ってもらいたいんだ。リードは料理は出来る方か?」
落ち込んでいたリードは、気持ちを切り替えて、僕の問いに頷いた。エルフは料理については妥協する事は許されないらしく、料理の腕は日々進化していると自慢げに答えていた。なるほど。たしかに、エルフの里で食べた料理はどれも旨かったし、美しさもあった。それだったら、エリスの手伝いをしてもらったほうが良いだろう。この屋敷には女手は多いのに、料理を作れるのがエリスしかいなかったからな。喜んでくれるだろう。
僕は、リードをエリスの下に連れていき料理を手伝わせた。そうすると、風呂から上がってきたマリーヌが居間に現れた。
「久しぶりに入った風呂は気持ちよかったわ。さっきまで、鬱屈していた気持ちが嘘みたいに晴れ渡ったわ。ありがとう、ロッシュさん。それに、この服、素敵ね。こんな上物、着て良いのかしら?」
やはりマリーヌはきれいな人だ。上品な服に負けないくらい気品があった。さっきの哀れな姿が嘘のようだ。早速、マリーヌには僕と一緒に食料庫から食料を持ち出す手伝いをしてもらうことにした。僕達が外に出ようとした時、外からドアが開けられた。そこには、マグ姉とルドが肩に雪を載せて、立っていた。
ルドは、僕の方を見ると、軽く手を上げ、挨拶をした後、僕の後ろにいるマリーヌに目をやると、なんとも言えない表情をしていた。ルドは、ずっとマリーヌを見続きていたが、ふと我に返ったようにこちらに目をやった。とりあえず、外は寒そうだ。
僕は、二人を中に入れて、暖かい居間に招き入れた。
「ルド、急に呼び出して悪かったな。来てくれて嬉しいぞ。ただ、宴の支度はまだ整っていないんだ。マグ姉と一緒に寛いでいてくれ。僕とマリーヌは、食料を取りに行ってくるから」
「ま、待ってくれ。女性をあんな寒い外に出すわけにはいかない。どうだろう。僕とロッシュで行かないか? 男が行ったほうが捗るだろ?」
まぁ、それもそうか。ルドの態度が少し変なのが気になるけど。ちょっとマグ姉が笑っているのが気になるな。マリーヌには、ルド姉と共に部屋の飾り付けやエリスの手伝いをするように頼み、僕とルドは屋敷を出た。外は、雪が降り続け一面銀世界となっていた。屋敷に続く足跡は、ルドとマグ姉のものだろう。僕達は、その足跡を追いながら、食料庫まで向かっていった。その間、ルドが無口になっていたが、僕は寒いせいだろうと思って、無言のまま食料庫にたどり着いた。
僕達が食料庫にたどり着いた頃、外の様子が急変して、急な吹雪となった。しかたがないので、食料庫で少しの間避難することにした。
「ロッシュ。少し聞きたいことがあるんだが」
急に、ルドが神妙な顔をしながら、僕に話しかけてきたから、変な声を上げてしまった。僕は、ビックリした様子を隠し、頷いた。
「先程の女性……マリーヌと言ったか。彼女とはどういう関係なのだ?」
意味が分からなかったが、特に隠すこともなかったので、暇つぶしを兼ねて、僕は彼女が屋敷に寝泊まりする経緯を話すことにした。その間、ルドは一言も話さずに、僕の言葉に耳を傾けていた。マリーヌが、牢に入れられた話辺りから、ルドの表情は怒りを浮かべるようになっていた。マリーヌとマグ姉の逃避行から自警団のライルに救出された話までを簡単に説明すると、ルドは目を瞑り、黙りこくってしまった。
「そうだったのか。彼女にそんな過去があったとは……第二王子のやつめ。女性をそんなふうに貶めるクズだったとは、許せないやつだ。しかし、マーガレットとは幼馴染だったとは、知らなかったな。いや、待てよ。あのお転婆な少女がよく宮殿にいた気がしたな。髪の色も同じだ。あの少女がマリーヌだったというのか!!」
僕が話し終えてから、ルドが独り言のようなことをブツブツと言い始めた。僕も最初は聞いていたが、意味が分からなかったので、途中から、食料庫の在庫を調べようと腰を上げた時、久しぶりにルドが僕の方を向いて話しかけてきた。上げかけた腰を再び下ろした。
「最初の質問に戻るのだが、聞いた話を総合すると、ロッシュとマリーヌは成り行きで共に暮らしていると言うのに過ぎないのだな?」
まぁ、そういうことだな。僕は頷いた。
「そうか。実はな……ロッシュにだから言うが、私は、マリーヌに一目惚れをしてしまったのだ。ロッシュに気がないというのなら、私にマリーヌを口説くチャンスをくれないだろうか?」
僕はすっごく驚いた。こんなに真っ直ぐと言ってくるなんて……僕は、しばらくの間、考えがまとまらなかった。マグ姉が少し笑っていたのは、この事に気付いていたってことか。さすがは双子だな。
「僕はルドを止めるつもりはない。後悔がないようにマリーヌを口説くが良い。ただ、彼女とは血が繋がっていないとは言え、家族として接してきたつもりだ。その彼女が苦しむような姿を見たくはない。それだけを忘れないで欲しい。僕は応援しているよ」
ルドは、真剣な表情で頷いた。
「ありがとう。ロッシュだけが気がかりだったから、ホッとしている。絶対にマリーヌを幸せにしてみせるよ」
「そのセリフは、彼女を口説き落としてからにしろよ」
僕らは笑いあった。久しぶりに、男同士で笑った気がする。こういう時間もいいものだな。
「それで? マリーヌのどこが気に入ったんだ?」