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治療

 僕は、回復魔法を取得したので、村の一割を占める疫病患者を治療しようとした。エリスには先行してもらい、重症患者を優先的に選んでもらった。重症度に応じて、家の入口に色のついた布を縛ってもらった。意識がない者は赤、意識はあるが寝たきりの者は緑、歩行が困難な者は青、初期症状だけが現れている者は黄、といった具合だ。こうしておけば、エリスの案内がなくとも、僕一人でも対応することができる。


 エリスと合流して、赤の患者のもとに案内してもらった。家の中は、腐臭が漂い、とても衛生的とは言えない環境だった。エリスに頼み、空気の入れ替えと、清潔な水と手ぬぐいを用意してもらった。


 エリスが準備している間に、僕は患者に近づいた。患者は意識もなく、息も荒い様子だった。体はやせ衰え、一部、変色している部位もあった。これは酷いな。すぐに治療しよう。


 僕は、患者の体を触り、病変を探り、病原体を駆逐するようなイメージで魔法を使った。すると、全身が淡い光りに包まれ、黒ずんだ部位は、血色を帯びた肌色となり、息も安定していた。集中していたから気付かなかったけど、僕は女の子の裸の胸を触っている態勢だった。エリスが戻ってくると、その光景を見て、尻尾を逆立てて、すぐに駆けつけてきた。


 「何やっているんですか。意識がないことを良いことに、変なことをしようとしていたんじゃないですか? まだ、ロッシュ様は子供だから、こういうことには興味がないと信じていたのに。それに、この子はまだ子供じゃないですか。まさか、ロッシュ様にそんな趣味があったなんて……。私ならいつでもいいのに……」


 なんか、変なことも聞こえたが……


 「ち、ちがっ……!」


 状況的には、全く言い訳が出来ない。困ったな。こういう時は……


 「ひどいよ! 僕は治療するのに一生懸命やっていたのに! そんな勘違いされるなんて心外だよ! エリスなんて……大ッキライだぁ!! 」


 「こういう時だけ、子供のふりをして、源吉さんが何をおっしゃってるんですか? 」

 うわぁ……エリスがすごく冷たい目をしている……


 「いや、なんかすみません。でも、本当にそんなつもりはなかったんだ。一生懸命だっていうのは本当だったし……それに、子供を愛でる趣味も僕にはない。僕は、エリスみたいのがタイプなんだ」


 「な、何を言っているんですか! 本当に、もう……わかりました。今回は信じますよ。ただ、こういうのは今回だけにしてくださいね。私も、患者が女の子だって教えなかったのも悪かったですし……」


 エリスが顔を赤めて、すごく慌ててるのが、すごく可愛く感じた。とりあえず、今回は回避できてよかった。エリスって怒ると本当に怖いからな。


 すると、女の子の意識が回復した。


 「だ……だれですか? そこにいるのは? わたしは……あれ? 体が痛くない……どうして? 」


 「あなたは、ロッシュ様の回復魔法によって、病気が完治したのよ。疫病が体を蝕んでいて、もう一歩であなたは、死ぬところだったのです。ロッシュ様に感謝しなさい」


 ん〜エリスが僕の立場を考えて、僕をたててくれるのはありがたいんだけど……


 「僕に感謝は不要だ。当たり前のことをしただけなんだからな。君の体は疲弊しきっているから、食事をして、体を回復しなければならない。体力だけは、魔法では回復しないんだ。家族はどうした? 家族は見えないけど……仕事か? 」


 「私には、両親はいないの……隣のおばさんに食事とかもらってたんだ……。でも、おばさんもいつからか来なくなったの」


 ん〜世話をしてくれる人がいないのか……隣のおばさんとやらが、世話をしなくなったのにも何か理由があるのだろう。

 「どうだ? うちの屋敷に来る気はないか? 最初は、体力の回復に専念してもらうが、調子が戻ったら、働いてもらうが……どうだ? 」


 しばらく、女の子は考えていたが、決心したのか、こちらを見て、力強く頷いた。


 「それは良かった。さっき、聞いたと思うが、僕はロッシュ。僕の横にいるのが、エリス。うちのメイドだ。君は彼女の下についてもらう。基本的には、家の雑用をしてもらうが、看護師の見習いみたいなことをやってもらおうと思っている」


 「看護師ってなんですか?」


 「そうだな。僕が治療する時に、一緒に付いてきてもらって、サポートしてもらうことだな。患者の世話も大事な仕事だ。徐々に教えていくから、焦らなくていい。君の名前を聞いてもいいか?」

 女の子は、自己紹介をしていなかったことを恥じたのか、慌てていた。


 「私は、ココ。8歳です。よろしくお願いします。エリスさんもよろしくお願いします」

 8歳なのにしっかりした子だな。この子なら、メイドとしてしっかり仕事をこなしていけるだろう。


 「エリス。頼んだぞ」

 「わかりました。ロッシュ様」


 エリスに、ココを屋敷に運ぶように指示し、僕は、患者の治療を続行した。そういえば、ココの治療にどれくらいの魔力を消費したんだろう? ステータスを見ると、30%ほど魔力が減っていた。やっぱり、ココほど重症だと、消費もすごいな。

 確か、最重症患者は10件だったか……一日かければ、終わるか……。


 今日は、もう二件ほど、治療をした後、日が暮れそうだったので、屋敷に戻った。治療のために、出張するのもいいけど、やっぱり、屋敷に診療所がほしいな。レイヤに相談してみよう。


 ココには、開いている部屋を割り当て、そこで体力の回復に専念してもらうことにした。


 その次の日も治療を行い、更に10日ほどかけて、全患者の治療が完了した。まだ、体力の回復が終わってないのがほとんどだが、直に回復して、労働に従事してくれるだろう。人口の一割と思っていたが、二割が疫病にかかってたんだから、異常な状態だったよな。正常に戻ってよかった。なによりも、疫病が治るという事実が村人に大きな安堵を与えることが出来た。


 ココは、10日も経つと立ち上がることができるようになり、エリスの手伝いも少しずつだがするようになってきた。不幸中の幸いか……ココ以外の患者には、世話をしてくれる人がいてくれて助かった。その後、診療所を作る話をレイヤに相談すると、止めたほうがいいということになった。村長のとこに治療を頼みに来る人なんていないんだと。恐れ多いとのこと。


 領主と村民の間には、未だに壁があるようだ。すぐに、解決するのは難しい問題なのだろうか。


 回復魔法によって、労働力が増えることを考慮して、農地拡大を少し早めるか。

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