鶏が村にやってくる
村へ進軍してきた全員の処分を考えなければならなくなった。ライルの調査によって、村へ帰属することを希望しているのは全体の半数の50名となった。残りは、村への帰属を望まず、少ない食料を与えて、追放処分とした。また、この村へ近づくことも許さず、見つけた場合は即攻撃をする旨も伝えておいた。
追放組について、ライルから報告を聞いた、ライルが帰属の意志を確認しに言った時、追放組となった者達は、亜人と言うだけでつばを飛ばし、悪態をつくことをやめなかったらしい。下卑た笑いをしていたのが印象的だったようだ。追放組は、僕に報告に来た即日、目隠しをされ、ラエルの街の西に20キロメートルの位置で釈放となった。ボロい布切れ一枚と少ない食料のみを与えれ、武装した自警団に追われながら、逃げ去っていったということになったらしい。
追放組の行く末を考えると、哀れとしか思えなかった。しかし、彼らの亜人蔑視の根深さは相当なものだと痛感させられた出来事だった。
残りの50名の処分については、色々と考えたが、すぐに思いつくものがなかった。ゴードンやライルとも相談しているがなかなか決まらず、日にちばかりが過ぎていった。
僕は、いつものように執務室で仕事をしていると、ゴードンから養鶏場が完成したとの報告が入ってきた。これは、エルフの里で偶々発見した鶏を譲ってもらえることになったので、卵を採るための養鶏場の建設を依頼していたのだ。
「ゴードン。待ちに待った報告だ。これで卵が食べられるのだな。それで、鶏の手配についてはどうなっているんだ?」
「ロッシュ村長。それについては、ミヤさんに頼んでエルフの里に報せに行ってもらうことにしたので、間もなく報告が来ると思いますが……」
鶏の輸送はハイエルフのリリの好意でエルフの里の者にやってもらえることになっている。養鶏場の建設があったため、輸送を待ってもらっていたのだ。ミヤが報告に行っているということは、早くとも明日には何らかの連絡が来るだろう。ついに、ついにこの村に卵が手に入る時がやってきたのだな。リリには本当に感謝だな。
次の日。ミヤがエルフの里から戻ってきて、輸送は今日行うと言ってきた。まさか、昨日今日で輸送が出来るとは思っても見なかった。しかし、早いに越したことはない。今から、待ち遠しいな。エリスとあれこれと卵を使ったレシピについて話していたら、輸送を担当していると言うエルフが屋敷を訪ねてきた。
「ロッシュ殿。リリ様の命令により、里にいました300羽の鶏を持ってまいりました。ご確認をお願いします」
「待っていたぞ。輸送してくれて、本当に助かった。リリにも礼を伝えておいてくれ。それにしても、300羽もいるとは聞いていなかったぞ。嬉しい誤算だが、あの小屋の周りには多くても100羽程度しかいなかったと思ったが」
「ロッシュ殿から感謝があったとリリ様に伝えておきます。小屋の周りにいたのは、元々森を彷徨いていた鶏です。その鶏から繁殖したのが200羽ほどいまして、それは他の場所で飼っていたのです」
そう言うことだったか。多いに越したことはないし、子供ということはそれだけ若いということだ。卵も多く産んでくれるだろう。僕は、エルフを養鶏場の方に案内した。僕も養鶏場を見るのは初めてだったが、草原に柵が設けられており、鶏が逃げられないようになっている。柵に隣接するように、倉庫のような小屋が設置されていた。小屋は、エサを食べたり、眠ったり、卵を産んだりするための場所のようだ。日中は、柵の中に放すようだ。これなら、鶏にストレスを与えずに飼育することができそうだ。それでも、300羽を飼うには少々手狭のような気がした。もう少し増築するしかないな。
エルフが輸送してきた300羽が柵の中に放たれ、鶏達は思い思いに散っていった。鶏のエサには、米や麦を中心とした穀物類と乾燥させた野菜、牧草を混ぜたものを与えている。解き放った鶏は、小屋の方に向かい、エサを勢い良く喋んでいた。よしよし。立派な卵を産んでくれよ。
養鶏場を後にした僕達は屋敷に戻り、情報交換をすることになった。最初は、誘っても断られたが、お菓子を出すから、と言ったらすぐに誘いに応じてくれた。情報交換というのは、ただの口実に過ぎない。屋敷に戻った僕達は応接間にエルフを通し、コーヒーと山盛りのクッキーを出すと、目つきがもの凄く鋭くなった。僕は、食べることを許可すると、勢い良く食べ始めた。口の中を一杯に頬張っている姿は、冬籠りする前のリスを想像させる。
山盛りだったクッキーはまたたく間になくなり、僕はエリスにお代わりを持ってくるように頼んだ。エルフは、恥ずかしそうにしながらも遠慮することはなかった。それどころか、仲間たちの分もお願いできないだろうか、催促までしてくる始末だった。少し時間がかかると念を押したが、まったく気にしていない様子だった。
僕は、エルフとの会話で何気なく、新たに移住者が増えることの話をし、50名の罰を考えなければならないことを話した。すると、エルフが食いついてきた。
「ロッシュ殿。それは……人間の男なんですか?」
あっ!! なんとなく話が見えてきてしまった。僕は頷くと、エルフが立ち上がった。
「その者達をエルフの里で働かせるというのは可能でしょうか!? もちろん、ロッシュ殿にはそれなりの報酬も用意できます。どうでしょうか!!」
「ちょっと落ち着いてくれ。前々から、リリには男を送るという話はしていた。あれに使うんだろ? それって罰と言えるものなのか?」
エルフはすこし落ち着きを取り戻し、ソファーに座った。
「大変見苦しいところをお見せしました。多分ですが、罰になると思いますよ。四六時中行為を強要されますから。耐えられる者はいないかと」
「分かった。その話で村で調整をしよう。リリにも一応許可を取ってくれ。それと、誰かを村に派遣して欲しい。僕から罰を説明するから、側にいてくれるだけでいいんだ」
エルフも僕の意図がわかったのか、頷いた。これで、罰は決まったな。彼らは罰とは思わないだろうが……。エルフは、両手いっぱいにクッキーを持って、屋敷を後にした。