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第一王子来訪と騒動④

 戦場の予定地に到着した。まだ、参謀が率いる軍は到着していないようだ。すると、自警団の一人が僕に近付いてきた。先程言っていた続報を伝えにやってきたようだ。


 続報は、予想通りの内容だった。首謀者は参謀。軍容は、武装した兵100名ほど。参謀の直属の部下だけで構成されているようだ。目的は、村の占領。そのために、村長である僕と王子であるルドの殺害を主な目的として行動している。僕達が、進軍に気付いていないと思っているようで、参謀達は楽観した様子でゆっくりと進軍しているそうだ。


 向こうは油断しているのか。それは朗報だな。こちらの勝機がいくらか高まるだろう。ルドも報告を聞いていたが、ルドは最後まで参謀が裏切ってないとどこかで思っていた節があったが、報告で裏切りが確定すると、少なからず失望の色を隠せないでいた。


 予定より、参謀の軍は遅れているおかげで、ミヤとその眷属が僕達と合流することが出来た。ルドはミヤ達を見て、言葉が出ないほど驚いていたが、今はそれに関わっている暇はない。僕は、ミヤに状況を説明すると、ミヤはすぐに奇襲をするべきだと言ってきた。100名程度なら、ミヤとその眷属で十分に制圧できると言っていた。やはり、ミヤたちの戦力は計り知れないな。


 僕はミヤの考えは一理あると思い、奇襲をしようと思った時、ルドがミヤとの会話に入ってきた。


 「その作戦、待ってくれないか。私は、参謀がなぜ私を裏切ったのかを知りたいのだ。そして、参謀達を説得する機会をもらえないだろうか。やはり、参謀は私と共に死線をくぐってきた者なのだ。裏切るとはどうしても思えないのだ。頼む!!」


 ルドは土下座をしそうな勢いで必死で頼んできた。僕は、悩んだ。僕は、ミヤたちの戦力に、あとで加わるライルの部隊がいるのだから、戦況としては僕の方に有利に運んでいる。どこかで、僕はこの戦いは、簡単に終わってしまうのではないかと思い始めていた。そのせいで、僕は、ルドの意見に耳を傾けてしまった。


 ルドは、感謝をしていた。僕は、それに気持ちを良くしていたのだ。完全に油断だ。先程までは油断しないと決めていたのに、ミヤ達が現れたことで気を大きくしてしまったのだ。


 しばらくすると、敵を視認できるようになった。参謀の軍はこちらを発見しているにも拘わらず、歩みを止めるつもりはないようだ。声の届く場所に来ると、参謀の軍は進軍を止め、僕らと対峙した。


 「お前たちに聞く。第一王子は村と争いはするつもりはなく、共存の道を選んだ。それゆえ、村からラエルの街に食料を提供したのだ。お前らの軍は、あきらかに村への敵対行動をしている。まずは村人を開放しろ。それに参謀とやら、この進軍の理由を聞こう」


 参謀は、自分が首謀者であることが筒抜けであることに驚いている様子だが、余裕のある表情を変えていなかった。未だに、数の上では参謀軍のほうが上だ。参謀が口を開いた。


 「ガキが偉そうに。いいか、こちらからの要求を言う。まず、ルドベックをこちらに渡してもらおう。それと、村を我等がこれからは管理する。要求に応じなければ……分かるな?」


 「自分の主を呼び捨てにするとは……お前の要求に応じるつもりはない。要求に応じなければ、何だというのだ? もう一度言う。村人を開放し、この進軍の理由を言え」


 僕の言葉に参謀は苛立ちを隠しきれなかった。


 「クソ!! うるせぇ、ガキだ。おい、お前ら、あいつらを血祭り上げてやれ!!」


 参謀の部下は、おうと返事をし、僕達に100名が向かってきた。先陣を切って走ってきた男たちを眷属が迎撃し、またたく間に数人の男を気絶させた。その光景を見た兵たちが怯み、後ずさりを始めた。眷属達は、僕の命令を待った。参謀は、状況を全く理解できなかった。数人の兵が一瞬で無力化されてしまったのだ。


 「なんだよ、くそ。なんなんだ、お前らは。引くぞ、お前ら」


 参謀が来た道を引き下がろうとすると、森から、ライル達が街道に飛び出してきて、参謀たちの退路を塞いだ。参謀軍は、袋の鼠となった。退路を断たれ、戦力が圧倒的に不利である状況で、参謀は苦しい言い訳をしだした。


 どれも聞くに耐えないものだった。参謀が進軍したのは、ルドベック王子を救出するためだと言ったが、王子の殺害を計画していたことがあっけなく露見され、完全に逃げ道は塞がれた。そのとき、ルドが前に出てきた。


 「参謀!! なにゆえ、私を裏切ったのだ。お前らだけは、私を裏切らないものと思っていた。今までだって、苦楽を共にして、何とかやってきたではないか」


 参謀は、すこし心が揺らいだように見えたが、すぐに気持ちを切り替え、ルドを痛罵しだした。


 「お前の甘さには反吐が出る。俺達には、もう後はなかった。頼れる諸侯もなく、王都にも帰れない。それでも、お前に付いていったのは、なんとか少ないながらも食料にありつけるからだ。しかし、飢えに苦しむのも終わりだ。この村が俺達の希望となり、この村で再起をするはずだった。でも、お前はしなかった。しかも、村人と共存だと? こんな村でオレ達は一生過ごす気なんてねぇ。オレ達は王都に帰るんだ。そのためにも、お前は邪魔だ。なんだかんだで、兵たちはお前に従っているからな」


 「私が邪魔か……私は言ったはずだ。盗賊のような真似をするくらいなら死んだほうがマシだと。それは、参謀も同じだと信じていたが、おまえは、すっかり盗賊男に成り下がっていたのだな。この状況では、お前らに勝ち目はない事は分かっているのだろう。せめてもの情けだ。自害しろ」


 「うるせぇ。オレは絶対生き残ってやる。何をしても生き残って、王都に帰るんだ。そして、俺が王になるんだ」


 興奮した男は、大声を上げ始めた。すると、男の体の周りに仄かな光が集まり始めた。参謀は、手をルドの方に向けた。まずい!! これは魔力だ。魔法を放つ気だ!! 僕は、無意識に体が動き、ルドの方に向かって走り出した。参謀の手に魔力集まり、ルドに向かって風魔法を放った。僕は、ルドに体当たりをし、ルドを吹き飛ばした。参謀の魔法は、僕に当たり、勢い良く数メートル飛ばされた。僕は、地面に転がり、木にぶつかり止まることが出来た。全身に激痛が走り、辺りを僕の血で赤く染め始めていた。なんとか、意識は保てていたが、体から熱が急速に奪われていくの感じていた。


 まさか、参謀が魔法を使えたとは……またしても油断をしてしまった。腕が、体が動かない。これでは、回復魔法が使えないな。僕は、掠れた意識の中で、ミヤが怒りに我を忘れている姿が目に入った。ミヤの目が赤く染まり、牙が生え、爪が長く伸び始めた。


 参謀は、ミヤの変化に恐怖をしたようで、一目散に森に逃げ込んでいった。ミヤは、参謀の部下たちをなぎ払い、参謀を追いかけようとしたが、倒れた部下たちが邪魔でうまく移動が出来ず、もたついてしまった隙に、参謀は逃げてしまった。僕は、それを見てから、意識を手放した。


 僕が目覚めたのは、自分の部屋だった。外では陽が落ちようとしていた。起き上がろうとしたが、全身に激痛が走った。包帯が全身に巻かれており、思ったより重傷だったようだ。それでも、手を動かせたので、僕は、自分に回復魔法を使った。痛みがみるみるなくなっていく感覚は不思議な感じだった。


 傷はすっかりと塞がったが、全身の怠さは抜けなかった。こればかりは、時間がかかることだろう。あとで、マグ姉から薬を貰おう。僕は立ち上がり、部屋を出て、居間に向かった。居間には、エリス、ミヤ、マグ姉とルドがいた。まるで、通夜のような雰囲気だな。僕は、皆に声を掛けると、ミヤが真っ先に抱きついてきた。すごく心配してくれたのか、わんわん泣いている。僕は、ミヤを優しく抱きしめた。エリスもマグ姉も涙を流して、喜んでくれた。


 ルドもいたが、僕の姿を見ても、あまり明るい表情をしていなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 平和ボケした輩なら油断しかしないやろ(笑)動機を聞くのも尋問も普通なら捉えたあとにする事で自由に動き回れる状況で行うのは自殺志願者以外何者でもない(笑)
2020/01/30 13:09 退会済み
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