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二年目の収穫祭

 米の収穫が終わり、秋の仕事は終わりを迎えようとしていた。麦の種まきが終わると冬になる。去年からだが、ちょうどこの時期に祭りをすることにした。祭りの名前は、当然、収穫祭だ。今年の収穫を祝い、来年の五穀豊穣を祈るための行事。農家にとって欠かせない祭だ。


 僕も祭りの企画には早い段階から参加していたが、米の収穫が終わった後は、米料理の研究のために、企画から外されてしまった。ゴードンから、米の普及はこの祭りでの試食会にかかっているので、企画に参加している場合ではないと叱られてしまったからだ。どうせ、ゴードンが企画をやりたいだけだろうに。


 まぁ、ゴードンがあんなに楽しんでいるんだったら、少しは花を持たせてやるのもいいだろう。去年から、ずっと僕の影となり、村人を引っ張り、村を大きくしてきたことに大きく貢献しているのだから。一応、祭りで魔酒の持ち込みは禁止にしておいた。どうせ、ミヤしか飲まないし、トラブルの原因になりかねないから。


 僕は、エリスと共に毎晩のように米料理の研究をしていた。といっても、料理に使える食材が限られている以上、あまり多くの種類を作るのは難しいけど。ある程度、料理の候補が決まると、ラーナさんに相談することにした。当日、料理をするのはラーナさんだ。実際に作る人の意見も聞いておかなければならない。


 「ロッシュ村長。これで、この米の命運が決まるっていうんだろ? 面白そうだね。この料理を当日作ればいいんだね。任せときな。全員分、作っておくからさ」


 頼もしい言葉を聞けて安心した。これで、当日は大丈夫だろう。いろいろと研究してみたが、やはり、米の味を理解するにはあれが一番だな。


 祭りの当日となった。新たに作られた広場で収穫祭が行われた。一応、村人全員で、巨石に一礼を祭りの始まりとした。ゴードンが挨拶をし、僕が、挨拶をした。僕が挨拶している間も、村人は耳を傾けてくれていたが、祭りの開始を今か今かと待ち焦がれていた。祭りの開始の合図をすると、村人から喝采が鳴り響いた。


 音楽が鳴り、村人は踊り始まる。広場の中央に料理と酒が大量に用意されており、村人が食べても食べ尽くせないような量だ。まさに収穫祭にふさわしく、この村の豊かさを象徴するようだ。ラーナさんはまだ食堂で料理を作り続けているようで、姿を見せていないな。


 僕は、エリスとマグ姉と共に祭りを楽しんだ。マリーヌも誘ったのだが、気乗りしないようなので無理に連れてくることもないだろうと思って、屋敷に置いてきた。あとで、差し入れを持っていこう。マグ姉も心配しているかと思ったら、そうでもなかった。マグ姉が心配していないなら大丈夫だろう。


 ミヤは、祭りに姿を見せていなかった。魔酒を禁じたことで拗ねているのだろう。まぁ、料理と酒の匂いにつられて、そのうちやってくるだろう。


 祭りも半ばに差し掛かった頃、ラーナさんが大量の料理を持ってきた。それには布が掛けられており、中が見えないようになっていた。ついに米料理が到着したようだ。僕は、すぐに料理の前に向かい、村人に向かって大声で呼び集めた。


 「皆のもの。集まってくれ。前に話していた米の料理をラーナさんに持ってきてもらった。僕は、米をこれからもっと増やしていくつもりだ。そのためにも、皆の理解を得ておきたいと思っている。だから、用意した料理を食べてもらって、米の良さを知ってもらいたいと思う」


 僕は、ラーナさんに合図して、料理のかかっている布をとってもらった。そこに現れたのは、真っ白いおにぎりだった。おにぎりには適度に塩がかかっているだけの塩おにぎりだ。僕は、色々と考えたが、この料理こそが一番米の良さを知るにはちょうどいいと思う。


 ただ、村人はそこから一歩も動かずに、様子を窺っているだけだった。僕は、おにぎりを一つ取り、口に放り込んだ。口には、塩っ気が広がり、ほのかに香る米の香り、噛みしめると微かな甘みを感じた。僕は、周りのことを忘れて、二つ三つと夢中で食べてしまった。懐かしい味が口に広がって、涙が滲んできた。


 僕の食べるのを見ていた村人は、我先とおにぎりに群がって、食べていた。口々に、うまいと声を出しているものもいれば、首を傾げているものもいた。ある村人が、祭りの料理をもってきて、それをオカズにおにぎりを美味しそうに食べ始めた。皆も真似をし、おにぎりをどんどん消費していった。


 その様子を見ていたラーナさんが、皆、気に入ったようだねと僕の肩を叩いて、喜んでくれた。僕も気に入ってもらえたことを見ることが出来て、すごくホッとした。この村で、米が受け入れられたんだと。


 再び、村人たちは踊りに歌にと祭りを楽しみ始めた。


 僕とエリスとマグ姉も楽しい雰囲気の中、食事を楽しんでいた。その時までは。ふいに、マグ姉が僕に真面目な顔で話しかけてきた。


 「ねぇ、ロッシュ。来年、あなた成人するのよね? いつ頃、成人式をする予定なの? 」


 「成人式? そんなのはする気ないけど……」


 「ダメよ!! それだけはやらないと。成人式はね、周りに大人になったと表明する場なの。成人式をしないってことは、一生子供のままなのよ。それに、周りから村長と言われて大人として接せられているけど、やっぱり村民だって、成人式はやってほしいと思うの 」


 この世界では、成人式というのは重要な儀式のようだ。村人の為を言われると断れないな。僕は、マグ姉の言葉に従って、成人式をやることに賛成した。


 「それは良かったわ。成人式については、私に任せてほしいわ。一応、王族だったから儀式には詳しいのよ。それと、成人式の後に結婚式をするということでいいのよね? 」


 ??? 成人式については、賛成したが……結婚式って何のことだ? 全く分からない。相手は誰?


 「あら? 何、不思議な顔をしているのよ。マリーヌはともかく、私やエリス、ミヤはそのつもりのはずよ。じゃなかったら、同じ屋敷に住むわけないじゃない。ロッシュだって、そのつもりだと思っていたけど」


 たしかに、普通に考えたら、それなりの年齢の人が一緒に暮らすってそういうことだよな。エリスは、もともと住み込みでメイドの仕事をしていたとはいえ、僕は、エリスに対して、一人の女性として接していたつもりだ。そう考えると、マグ姉の言っていることに反論は出来ない。


 エリスは僕に好意を持ってくれていることはなんとなく分かっていたつもりだ。ミヤだって、会ったときから僕に好意があることを積極的に伝えていたから、なんとなく分かるけど……マグ姉がそういう気持ちだっていうのは全く気付かなかった。


 「マーガレットさん。私は結婚式なんてやってもらわなくてもいいです。私は、ロッシュ様の側でメイドとして居れるだけで幸せなんです。それに私は亜人ですから」


 「ダメよ!! この村は、好きになったも同士が結婚できる素敵な場所なの。種族とか関係ないわ。あなたは、ロッシュのこと好きじゃないの? 」


 「もちろん。好きです。私がこんな気持ちになったのは初めてですけど、間違いなく、私はロッシュ様のことが大好きです」


 「なら、結婚しないとダメよ。分かった? 」


 僕は完全に置いてけぼりになっていた。状況を飲み込めていないのは、どうやら僕だけのようだ。


 「ちょ……ちょっと、二人とも冷静になってよ。僕は急に結婚式の話になって、混乱しているんだ」


 「何を混乱しているって言うの? ロッシュは、私達と結婚するのは嫌なの? 」


 ずるい質問だ。二人と結婚できることに不満を感じる男がいると思うのか? 僕は、マグ姉に対して首を振るだけが精一杯の抗議だった。


 「じゃあ、決まりね。あとで、ミヤさんにも伝えておくわ。ふふっ。三人も一度にお嫁さんをもらえて、ロッシュも幸せ者ね」


 うん。僕は、とっても幸せ者だよ。考えてみると、この結果は遅かれ早かれ訪れていたと思う気がする。マグ姉だけは本当に意外だったけど。


 お酒が飲みたい……


 酒の匂いにつられてやってきたミヤをマグ姉が捕まえ、結婚式のことを言うと、やっとこの時が来たのね。私を幸せにしなさいよ、となぜか高飛車に言われたのが若干腹がたった。エリスが言うには、ミヤの照れ隠しだったみたいだけど。


 その夜から、僕は妙に三人を意識していまいち眠れない夜を過ごす羽目になってしまった。成人式まで体が持つか心配だ……



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