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都に温泉を

 城を囲む土壁に外壁として利用する石材はシラーが指揮して続々と送られてくる。僕はその石材を土壁に並べていく。石材は水路との境界に並べていく。石材は一メートルの高さがあるので六つ重ねていくのだが、ある程度の傾きをもたせる。石材への圧力を分散させるためのものだ。土壁と石材の隙間には砂利を入れていく。そして石材同士にもある程度の隙間を作る。これは土壁内の水を抜くためのものだ。


 石垣は一の丸を囲むように作られていく。その間に二の丸からの渡しの橋を二箇所設置する予定なので、そこだけは石垣を作らないでおく。ちなみに一の丸の西と北に橋が架けられている。二の丸側に関所を設ける予定だ。一応、西側の関所が正門となり、北側の関所が裏門ということになるらしいが。僕にとってはどちらでもいいかな。


 石垣に用いられた石材は約4万個にも及んだ。途中からは石材の在庫が無くなってしまったので僕とルードが採石場と城建設現場を往復しながら、なんとか完成することが出来た。石垣作りだけでも一月以上を費やすことになった。その間に城の基礎工事が同時的に始まっており、石垣が出来上がる頃には地下部分の枠組みの大部分が完成していた。


 石垣が完成したことを受けて、キュスリーと相談することにした。


 「ロッシュ公。立派な石垣が完成しましたな。あの石垣だけで他国を充分に圧倒してしまうでしょう。それにしても、一月で完成させてしまうとは」


 「キュスリーも大したものだ。すでに基礎部分が完了しているではないか。その調子で、あとどれくらいの月日が必要となるのだ?」


 「そうですな。城自体の形だけならば二ヶ月と言ったところですか。それから外装に半年。内装に二年が完成の目途ですかな。住むのは外装が終わった段階で出来ますが、使用できる空間は限定となります」


 そんなに掛かるものなのか。まぁこれだけの城だ。時間がかかっても仕方がないということか。早くとも半年後。つまり冬か。それまでに村から越して来る準備をしておかなければならないか。さて、僕の仕事はまだあるのかな? それが一番聞きたいところだ。


 「ロッシュ公に頼むべきことはもうありません。あとは私と職人とで建設を進めましょう」


 ついに解放されるときがやってきた。都建設を始めてから三ヶ月……長かったな。僕が感慨に浸っていると、悪いタイミングでゴードンがやってきた。くっ……ゴードンに見つかる前に旅に出掛けようと思っていたのだが。


 「ゴードン。僕は温泉探索に出掛けるぞ。よいな!!」


 「いやいや。随分と警戒されたものですな。都建設はすでに住民たちの手で進められる段階まで来ております。ロッシュ公の手を煩わせることも少なくなってきました。どうぞ、温泉探索に行ってくださって構いませんよ。ただ、私の方から出した温泉調査について報告させてもらいます」


 ゴードンは、すでに温泉調査を終わらせて結果を持ち帰っていたのだ。ゴードンが言うのに、温泉の温度は極めて高く、とても浸かることが難しいというのだ。水を入れるという事も考えたが、その周辺ではどこもかしこも湯しか湧かないようなのだ。


 「それは素晴らしい場所だ!!」


 僕が興奮したように叫ぶと、ゴードンは意外だったのか驚いた表情を浮かべていた。ゴードンは僕が報告を聞けば諦めると思っていたのだろう。


 「ロッシュ公。報告では温泉としての利用は難しいということですぞ。そんな熱い湯に入れば火傷は必須ですぞ」


 「その通りだが冷ませばいいのではないか?」


 何を言っているのだ? と言う表情をゴードンは浮かべていた。冷やす水がない? 問題ないだろう。


 「ゴードンは温泉が好きか?」


 「勿論ですぞ。もっとも温泉には未だ浸かったことはありませんが、風呂は大好きですな」


 「都に温泉があったら便利ではないか?」


 周囲に沈黙が流れた。温泉が都で楽しめる? そんな空気が漂っていた。湯が湧いているのはここより二十キロメートルほど北上したところにあるそうだ。そこから管を通して都まで運び込めばどうだろうか。ただ、水温というのは思ったよりも下がりにくいものだ。とくに大量の湯であればあるほど。しかし、熱い分なら冷ませばいい。都はどこを掘っても冷たい水しかでてこないのだから。それに上水道が整備されれば尚更、適温を作り出すことができる。


 「さて、ゴードン。何か言うことはあるか?」


 「いえ、なにもありません。頼みたい仕事がありましたが、やむを得ないでしょう。是非とも温泉を都まで引っ張ってください」


 やはり!! ゴードンは仕事を押し付ける気だったか。しかし、熱すぎる湯ごときで僕を諦めさせようなど笑止千万だ。ゴードンの悔しがる表情は見ていて気持ちがいいぞ。僕が少しにやけた顔をしていると、シラーが僕の側に寄ってきて、耳元で囁いてきた。


 「ご主人様。人相が悪くなっています。お控えしたほうがいいかと思います」


 ハッと気付き、僕は顔を手で撫でた。これで大丈夫だろう。しかし、仕事をしすぎてやや性格に棘が出来てしまったようだ。これも温泉で洗い流せるといいが。僕はできるだけの鉄と銅を持っていき、温泉地へと向かっていった。


 本当は皆で温泉地で温泉に浸かろうと楽しみにしていたが、とてもそれが出来るような状況ではなかったので、クレイには再び現場指揮をお願いをした。クレイはやや寂しそうな顔をしていたのが気がかりとなった。クレイのためにも早く工事を終わらせよう。


 湯涌地までの道のりはゴードンが発した調査隊によって分かっているため、それに従って移動することにした。しかし、歩きやすい道のりではあったがかなり迂回することになったため、独自の道を作ることにした。ルードの風魔法で立ちはだかる木々を切っていく。立ちはだかる岩があればシラーの土魔法で砕いていく。そのように道を開拓していくと、生い茂っていた木々がなくなり岩肌がむき出しの地帯が現れた。


 その辺りの岩に手を置くと、じんわりとだが温かい。どうやらこの辺りが目的地のようだ。僕達は慎重に進むと細いがそれなりの量の水が流れる川に遭遇した。僕はそっとその川の水に触れようとしたが、その前に手が止まった。この川の水は湯だ。しかもかなりの温度がありそうだ。周囲を見渡すと、川の底には無数の気泡が立ち、そこかしこから湯が湧いているようだった。


 ここは天然の湯が沸いている場所のようだ。僕達はその川の上流の方に向かって進んだが、どこからか岩の隙間に消えてしまった。この辺りから湯を採取したほうが良さそうだな。僕達はさっそくその場所に湯を貯める場所を作った。といっても湯がそこかしこから沸いているのだから大きな穴を掘ればいい。そして、周囲から土が入らないように石材を用いて塞げばそれで事足りる。


 シラーには石材の調達を頼み、ルードには木材の調達をお願いした。それらを組み合わせて、巨大なプールを作るのだ。それらの作業は三人の協力作業ですぐに終わらせることが出来た。深さ3メートル、50メートル四方のプールが完成した。


 ここの湯量は相当なものだな。これだけのプールが瞬く間に一杯になったぞ。これならば都に何箇所か公衆浴場を作っても湯の供給に問題はなさそうだな。ということは、城に作っても問題はなさそうだな。


 「よし!! 次は配管を作って、都までこの湯を引っ張っていくぞ」


 ここは標高としては結構高い場所にある。そのため、都までお湯を引くための角度を気にしなくて良さそうだ。配管は当然地中に埋める予定だ。土中ならば、外気温に影響を受けづらい。冬に冷めた湯が出てきては興ざめしてしまうからな。


 地面に穴を開けると僕とシラーとで穴を掘り進める。穴は大体直径が二メートルほどの穴だ。それをやや下るようにして掘っていく。標高差が500メートルほどで二十キロメートルの距離なのだから、勾配はかなり緩やかだけど。ある程度掘り進めてから、シラーには続きをお願いし、僕は一旦穴の入り口まで戻ってから、穴の表面に鉄を貼り付けていく。さらにその上から銅を重ねるように貼り付けていく。こうすれば、鉄の腐食を減らすことが出来るだろう。


 持ってきた鉄と銅は潤沢にある。この距離ならばなんとか持つだろう。そんなことを考えならが、シラーが掘った穴に金属で表面を覆っていく。数キロメートルほど進むと、どうやら土から岩山に変わったようだ。この岩はどうやら都で使っている上質なもののようだ。この岩ならば、直接、湯を通しても岩に吸収される量は微々たるものだろう。


 僕は金属加工をなるべく省略しながら進んだ。意外と岩山が長いせいか、大した労力もなく坑道を掘り進めることが出来た。それでもシラーに追いつけないのだから、シラーの魔力の底がわからないな。遂には都近くまで出るまでシラーに追いつくことは出来なかった。


 しかし、これで温泉を引くための通り道は作り終えた。あとは、湯の受け皿を作らなければ。そこに巨大な浴槽を拵えることにした。ここに貯められたお湯が都中に張り巡らされる。そこから地中を通して、配管が各地に行くことになった。特に居住区がある三の丸、四の丸に配管が通されることとなった。


 温泉が都にやってくることが住民に伝わると、大変な騒ぎとなった。居住区に新住居を作っていた職人たちも住民たちの意向を受け、公衆浴場建設に全力が傾けられ、都には十をこえる公衆浴場が作られていった。僕はこっそりと城にも配管を通すことにした。


 城の地下部に大浴場が備え付けられることになった。地下ということもあって景色を眺めることが出来ないのは残念だが、内装工事が始まったら絵でも描いてもらうか。大きな山があるといいな。温泉の配管と公衆浴場の接続が完了し、あとは源泉を配管で接続すれば終了だ。


 僕達は再び、湯涌地を訪れて最終工事を施した。大量の湯が一気に配管に注ぎ込まれていき、みるみるとプールの水位が下がっていった。配管に湯が満たされるだけでも相当の量だ。配管からはゴボゴボと不気味な音が響き、やや不安な気持ちにさせる。


 僕達はしばらく見ていたが、なかなか溜まる様子もなかったのでそれから数日も通うことになった。ようやく配管に湯が満たされたのを確認し、とある公衆浴場の弁を開けると……勢い良く湯が流れ込んできた。辺りが湯煙に包まれ、周囲は一気に湿気が高まるのを感じた。僕は湯に手を差し込むと、やや熱い。


 「しかし、いい湯だ。これならば直接入っても問題ないだろう」


 周囲には僕の確認を待っていた住民たちが押しかけてきており、僕の了解を得るとそこいらで服を脱ぎだし湯に浸かっていく。僕はその勢いに負けて、最初に入る権利を放棄してしまった。僕には城があるではないか。それから各地の公衆浴場のお湯を確認して回り、全てが問題がないことを確認した。


 僕は城に戻り、温泉に浸かろうとしたが……まだ城の地下部の工事は終わっておらず、当然温泉もまだ開通もしていなかったのだった。僕は久しぶりに打ちひしがれてしまった。すると、シラーが僕のところに寄ってきて、どこかに案内してくれた。そこは都から少し離れた郊外。そこに、一軒の建物があった。


 「ご主人様には内緒で私達の別荘を作っていたんですよ。建物自体は前から完成していたんですけど、何か特徴が欲しくて、教えるのを我慢していたんですよ。今回、温泉が通ったので、ここにも引っ張ってきたんです」


 建物は、温泉街にあるような立派な建物ではない。しかし、どこか見覚えのある建物だと思っていたら村の屋敷に作りがそっくりなのだ。そして、見覚えがある場所に露天風呂が。濛々と湯気が立ち、僕は我慢が出来ずにその場で服を脱ぎ、温泉に浸かった。


 「ふぅ」


 なんと気持ちがいいんだ。諦めていただけに何倍も気持ちがいいぞ。僕が浸かっていると、当然のようにシラー、クレイ、オリバ、ルードが裸で入ってきた。しかも手には酒を持って。クレイは初めて入る温泉に浸かれたことが余程嬉しかったのか、僕にしがみついてきた。


 「ロッシュ様。本当にありがとうございます。こんなに素敵なものなのですね。私、本当に好きです」


 クレイの笑顔が見れて本当に良かった。オリバもルードも気持ちよさそうに浸かっている。今晩からここを寝所としよう。三村ではルドの屋敷ということもあって、我慢をさせられることも多かった。今晩はシラーたちと心ゆくまで楽しもう。

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