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視察の旅 その22  燃える石

 オーレック領が公国に帰属し、全ての住民が二村への移住が決定した。彼らには牛の飼育を任せ、農耕用と食用及び乳牛の家畜として育ててもらうことになっている。公国内の牛の数は1100頭になったが、公国の人口に対して少ない気もするな。こればかりは時間がかかることだが、将来、必ず有用な事業になることは間違いないだろう。


 僕達が北の街道を北に向け出発するため、モナスと数人の村人が見送りにやってきてくれた。牛の健康を考えると少しでも早いほうがいいため、移住の準備を少しでも進めたいところだろうに、見送りにやってきた者たちに申し訳ない気持ちになる。


 「ロッシュ公。この度は本当にありがとうございました。我々に新天地を与えてくれて、牛の命まで救ってくれた。もはや、ロッシュ公がこの地に来たのは天命としか思えない。ここより北部は一層気候が厳しくなります。どうか、お体を大切にしてください」


 「礼を言うのはこっちの方だ。モナス達が公国に理解を示してくれたおかげで、牛という貴重な動物を導入することができた。ところで、これより北のことについて知っていることがあれば教えてほしいのだが」


 本当であれば、北の街道について早く聞いておくべきところだったのだが、住民の説得、牛騒動、移住の準備などで聞くタイミングを逸してしまっていたのだ。一応は、ガムドから情報をもらっているが、地元の人から聞いておいたほうがいいだろう。


 「ここより北の街道は、難所となります。山の腹に沿って道があるため急勾配な坂が多く、その距離も永遠と続くと行った感じです。ですから、もし準備が不十分ならば一度引き返すことをおすすめします」


 なるほど。ガムドの情報と一致するな。比較的、緩やか道などがないか聞いたが、存在しないと言う。しかも、途中に集落は存在することはなく、元子爵領の領都までは獣しか姿を現さないみたいだ。その話を聞いて、僕は考えてしまった。道がないなら作ってしまうか。しかも、最短で平坦な道を。そんな道が作れれば、物凄く簡単に元子爵領に到達できるではないか。幸い、シラーも一向に参加している。


 僕が考え事をしていると、モナスが思い込んだような表情をして僕に質問をしてきた。


 「ロッシュ公。お聞きしたいことがあるのですが、私達がいなくなった後、この地はどうなるのでしょう。我々は新天地で精一杯働かせてもらいますが、この地が廃れていく姿はあまり見たくないのです。どうか、この地を再び、人が穏やかに暮らせる土地にしてもらえないでしょうか」


 「心配しなくてもいい。この地は優良な鉱山があることは話でよく知っている。公国も今後発展をするためにも鉱山は必須なのだ。近い将来だ。近い将来、この地は人があふれるような活気のある土地にしようと思っている。それでは不満か?」


 「ありがとうございます。これで新天地でも安心して、公国に奉公をすることが出来ます」


 そんなに気張らなくてもいいのだが。僕もこの地に訪れたことは幸運と言ってもいい。公国にとって、これほど素晴らしい土地があるだろうか。もちろん、やることはたくさんある。この盆地の整備、人の移住、鉱山の開発、物流の整備、北の街道の拡張。それらすべてを終わらせれば、ここは鉱石の一大産地となるだろう。公国にとっては、最も重要な土地の一つとなるに違いない。


 「モナス。立派な牛が飼育されている姿を見るのを楽しみに待っているぞ。僕達はもう出発するが、モナス達も準備を早々に終え、出発するといい」


 僕達はオーレック領、いや、元オーレック領を離れ、北の街道を北に進むのだった。盆地には数人の自警団を残すことにした。それは、盆地の調査が主任務だが、アウーディア石の護衛を任せるためだ。これで、この地は石の効果が及ぶことになり、豊かな盆地へと生まれ変わるだろう。次に来た時は、その景色を見ることを楽しみにしていよう。


 盆地から北を見つめると、そびえ立つ山々を見ることが出来る。これを踏破しながら、山越えはかなりの苦労があるだろうな。しかし、僕達が進む道は……地下だ。僕とシラーとで、手分けをして掘り進めていく。将来的に物資が南北に運搬される時に使われる道であることを想定して、道幅は馬車が三台ほど通れるくらいを確保していく。


 「シラー。ここからは坑道を掘って進むことにするぞ。いいか? 鉱石を見つけても目移りすることなく、まっすぐ掘り進めるんだぞ? 二人で力を合わせれば、数日で元子爵領の領都にかなり近づけるはずだ」


 シラーは、二人で力を合わせて、という言葉にひどく喜んでいて、はい!! と力強く返事をした。


 僕とシラーはこういう坑道作りは慣れたもので、二人で協力し、魔力回復薬を飲みながらだが、一日で20キロメートル程を掘り進めることが出来た。幸いと言うか、掘り進めている場所には鉱脈の気配はなかったため、目移りをしないで済んだのは良かった。


 次の日も同じような要領で掘り進めていく。丁度、盆地と元子爵領との中間地点である30キローメトル地点に到達した。ここで、僕はアウーディア石を設置しようと考えているのだ。この辺りには、人が住めるような場所も乏しく、とても村を作ることは難しいだろう。そうなると、石の範囲を元子爵領まで広げるとなると、ここに設置をしなければならないのだ。


 僕は設置場所を作るために、周囲を見渡し手頃な場所を探していると、坑道の表面に光沢のある石が広がっているに気がついた。僕は鉱石かと思い、試しに一部を取り出してみた。黒く光沢があり、持ってみるとかなり軽く感じる不思議な石だ。これ……石炭じゃないか? 火を点けて試してみるか? いやいやいや、こんな坑道で火はダメだろ。


 しかし、ここから外に出ることは難しいだろうな。シラーにも聞いてみたほうがいいな。僕が持っている石炭? をシラーに見せると、燃える石と表現していた。どうやら、石炭で間違いなさそうだ。そうなると、この光沢のある石は全て石炭ということか。なんという量だろうか。たまたま、石炭の鉱脈にぶつかっただけかも知れないが。僕が石炭を眺めてると、シラーが横から話しかけてきた。


 「そんな物を見つめて、どうしたんですか? ただ燃えるだけの石なんて、珍しくもないし、使い途もないじゃないですか。それより、早く先に進んだほうがいいんじゃないですか?」


 「何を言っているだ、シラー。これは燃える石ではなく、石炭と言うんだ。これがあれば、製鉄が容易になるんだ。今は木炭を使用しているが、石炭が容易に手に入るのであれば、こちらの方が余程効率的なんだ。まさか、こんな場所で石炭に出会えるとは思ってもいなかった。前言撤回だ。この石炭がどの程度あるかを調査してみよう」


 石炭と聞いても、シラーはあまり興味がわかないようだ。それでも鉱石を掘るということでちょっとはやる気が出たみたいで、僕達が立っている場所を中心にドーム状に採掘を開始した。ここの石炭の埋蔵量は相当なものかも知れない。掘っても掘っても石炭が出てくるのだ。気づけば、かなりの空洞が出来上がっていて、足元には大量の石炭が山のようになっていた。


 僕が石炭の山を眺めていると、シラーが血相を変えて、こちらに向かってきた。そうかと思うと、僕の手を強引に引っ張り、その場から離れるように移動していった。僕達が元の掘っていた途に戻った途端、石炭を掘っていたドーム状の空洞が悲鳴をあげ始め、ものすごい轟音と共に崩壊を始めたのだった。


 崩壊が止まってからも、周囲は土煙に覆われ、視界が全くない状態だった。それでも、僕の目の前の空間に微かにだが光が指しているのだけが分かった。どうやら、地表からかなり浅いところを掘っていたようだ。僕達が掘っていた坑道はかなり深いところにあるのだが、石炭がある場所は上に向かって掘り進んでいたため、崩壊を引き起こしてしまったらしい。


 「シラー、ありがとう。あの場にいたら、僕も崩壊に巻き込まれて、ただでは済まなかっただろう。しかし、よく分かったな。僕は全然気付かなかったけど」


 「気になさらないでください。発掘にはよくあることですから。崩壊する前の雰囲気っていうのがあるんですが、それは多分経験を積まないとわからないことだと思います。私も昔は父や母に同じように引っ張られて助けられていましたから。ロッシュ様もそのうち身につくと思います。それまでは、私がしっかりとお守りしますからね」


 さすがは家業が鉱石発掘なだけはあるな。僕にはわからない、感覚的なものを身に着けているんだな。しかし、公国も鉱山開発をどんどん進めていくが、こういう安全対策も考えなければいけないな。地下でも自分の位置が分かるような方法があれば、少なくとも崩壊をするような場所を掘らずに済みそうなものだが。村に戻ったら、考えてみるか。


 土煙が収まり、僕の前の視界は大きく広がった。そこには、大量の巨大な土塊が転がっていたが、土魔法で取り除くと、明るい日差しが降り注ぎ、上を見ると青空がどこまでも広がっていた。なんとか、瓦礫の上に這い出てみると、大きく開けた土地が目の前に広がり、崩壊した場所は大きくえぐれおり、表面には大量の石炭が見え隠れしていた。ここなら、人が住めるかも知れないな。


 僕は偶然だが、山中に開けた場所を見つけ、さらには大量の石炭が眠る場所を掘り当ててしまったのだ。

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