視察の旅 その15 三村の責任者
僕は、あくびをしていた。朝方に眠ったせいで、昼前だと言うのに眠気が抜けない。シェラとシラーは目の前で一緒に遅めの朝食を摂っている。なぜか、皆、無言だ。特にシラーは起きてから、現実を直視できないのか、落ち込んでいるようにも見えるし、嬉しそうにしているようにも見える。おそらく、どちらもシラーの今の気持ちなのだろう。とりあえず、落ち着くまでは暖かく見守ってやろう。
食事をしながら、二人に今日の予定を話した。
「今日も三村で土木工事をする予定だ。シラーにも手伝ってもらうことになるだろうが、大丈夫か? シェラは……まぁ、適当にしていてくれ。浄化魔法みたいな有用な魔法が思いついたら、教えてほしい」
シラーは情緒不安定になりながらも、仕事はきっちりとやってくれるようだ。シェラは、適当に昼寝をさせてもらいますと、いつも通りの返答が来た。これから出発すれば、昼には到着することが出来るだろう。すでに、アンドル率いる第一陣が到着しているかもしれないな。そう思うと、逸る気持ちになってしまう。早く地均しをしてやらなければな。
僕達は三村に向かった。どうやら、第一陣はすでに到着しているようだった。司令室前の広場には人だかりが出来ていたのだ。僕達は人だかりを避けるように司令室に入った。そこには、ルドとマッシュ、マルゲルとアンドルが地図を前に話し合いを行っていた。話し合いには間に合ったようだな。ルドが僕を見て、話しかけてきた。
「ロッシュ公。ちょうどいい時に来てくれた。これから話し合いをするところだったんだ。アンドルが連れてきた第一陣は約三千人だ。ほとんどが建築か農業の経験者ばかりだ。開拓の基礎工事をするのにうってつけの人材だぞ。彼らをどのように分配するかを決める予定なんだ」
なるほど。それだけの人数がいれば、初期の工事はかなり捗るだろうな。公国は常に道具があっても人材が不足している状態だ。最初から、これだけの人数を投入した開発も初めてだろうな。ところが、話が進むと、三千人のうち、三村に残るのは千人ということになった。他は二村の開発に着手するみたいだ。僕が、人数を減らす理由を聞いた。
「その事か。移住者二万人のうち、経験者をかき集めて三千人だったんだ。だから、街の規模に合わせて按分すると三村の人数を減らすことになってしまうんだ」
そうだったのか。てっきり、第一陣は経験者の一部だと勘違いしていた。そうなると、三村において初期に投入される人員は千人ということか。まぁ、それでも多いと思うべきだな。残りの二千人についてはマッシュが二村に連れて帰ることになった。僕はその前にルドを呼び出し、二人で話し合いをすることにした。ルドは不思議そうな顔をしていた。
「ルド。実はな、三村のリーダーを決めなくてはならないと思うんだが。誰か、よい人はいないか? アンドルやマルゲルの手前、一応は民衆を率いて代表者を務めていた者たちだ。その者たちの前では聞きづらかったのだ。僕は、まだ彼らに三村を任せることは考えていないからな」
僕としては、アンドルやマルゲルに一任することは、一考するに値することだと思っている。二万人もの人を苦境の中、統率していたのは相当なものだ。きっと、街作りでもその能力を遺憾なく発揮してくれると思っている。しかし、一方では、彼らは新参者だ。そのような者たちへの信頼が構築されていない段階での、三村のリーダーに選抜は外聞が良くない。だからこそ、ルドに聞いたのだ。
「それならば、私にやらせてもらえないだろうか」
意外な答えだった。ルドには、ラエルの街を任せているのだから、僕は断ろうとした。しかし、それを察したのか、ルドが間髪入れずに話し始めた。
「ラエルの街にはゴーダがいる。彼がいれば、あの街は十分に発展していくことだろう。僕は、この三村に将来性を強く感じているんだ。前にも言ったが、この辺りは公国の中心地として栄えさせるべきだと思っている。その入り口として、三村を機能させるんだ。いわば、公国の首都の礎となる場所となるはずだ。その開発に私も参加させてほしいんだ。頼む!!」
これほど、強くルドが僕に頼みごとをしたことがあっただろうか。僕は、二つ返事で了承した。ルドに任せておけば、安泰だろう。移住者は二村と三村に分かれて、居住することになる。幸い、アンドルとマルゲルがいる。彼らに移住者の管理を任せるべきだろう。そうなると、マッシュの下にマルゲルを、ルドの下にアンドルを付けることにしよう。こうすれば、円滑に街作りを進めることが出来るだろうな。
その決定について、ルドは一切口を挟むことにはなかった。僕達は司令室に戻り、僕の口から決定した人事を告げた。
「移住者が入る前に決めておかねばならないことがある。それは、三村の責任者を決めることだ。僕はルドベックに任せることに決めた。ルドベックは、僕が大いに信頼している部下だ。彼に任せておけば、僕も安心できる。アンドルとマルゲルには、ルドとマッシュの下について、移住者を安心させてくれ。二人の働きによって、開発の進捗に影響が出てくるだろう。よろしく頼むぞ」
アンドルは神妙な顔で頷き、マルゲルは泣き崩れ、ご期待に沿うように頑張らせていただきます、と掠れた声で答えていた。それから、マッシュとマルゲルは、二千人の移住者を連れて二村に移動を開始した。ルドとアンドルは、千人の移住者と共に居住区へ移動することになった。僕もそれに付いていくことにした。
居住区の予定地といっても、未だ平原が広がるだけの場所だ。この場所だけを見て、これから街が出来ていくと想像するのは難しいだろう。僕は、何本も立っている境界線を示す棒を目印に土地を更地に変えていく。区画が分かるように、境界線を一段下げてある。当面は、千人分の住居として200棟を作っていく予定だ。そのための土地をシラーと分担して更地にしていく。
その光景を移住者は歓声をあげて見守っていたが、ルドは容赦なく工事を始めさせたのだった。木材はすでに加工されているので、組み立てるだけで建物が完成するようになっている。これも製材所責任者のモスコの工夫なのだ。更地が終わった僕は、建物の基礎となる部分に土台を設置する作業を始めた。といっても、石を風魔法で整えたものをおいていくだけの作業だが。これによって、いくらか建築にかかる時間を短縮することが出来るだろう。
僕とシラーは残りの時間を使って、居住区の区画を囲むように道を作り、三村の中央にある大きな通りに接続するように敷設していった。これで、大まかな街の形が完成したな。あとは、ここの住民に開発を任せておこう。僕達は明日から元ラムド子爵領に向け、出発するつもりだ。ルドに、今後の事を任せ、連絡方法を確認してから僕とシラー、シェラは二村に戻ることにした。マッシュにも、マルゲルと協力して、より一層開発を進めるように頼んだ。
随分と長い滞在になってしまったが、有意義な時間を過ごすことが出来たな。明日から、元子爵領を目指し北の街道を突き進むことになるだろう。その前に、山里があると言われる場所に立ち寄り、牛の飼育が出来る者を探す目的がある。その者を見つけられることを願いながら、僕達は北に向かうのだった。
各街村の人口と責任者
村 2,500人 責任者 ロッシュ 補佐 ゴードン
ラエルの街 10,000人 責任者 ゴーダ
新村 25,000人 責任者 クレイ
一村 2,000人 責任者 デル
二村 3,000人 → 18,000人 責任者 マッシュ 補佐 マルゲル
三村 5,000人 責任者 ルドベック 補佐 アンドル
街 25,000人 責任者 ライル 補佐 ロドリス
砦 7,000人 責任者 ライル 補佐 ジェム
村と街名はおいおい付けていきます。