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視察の旅 その13 シラーがやってきた

 浄化魔法を会得した僕は、さっそく居住区に向かうことにした。ルド達も興味本位だろうか、一緒に来ることになった。僕は何箇所も開けた井戸の一つの場所にやってきた。折角なので、ルド達に塩水混じりの井戸水を飲んでもらうことにした。皆、口に含んだ瞬間、吐き出すものがほとんどだったが、マッシュだけは無理して飲もうとしていた。流石に飲まなくてもいいのだが。


 これで、井戸水が飲めるものでないことを確認してもらった。僕の浄化魔法の効果がなければ、居住区の予定地の変更は余儀なくされるだろう。そうすれば、街に滞在している移住者の第一陣に待ったをかけなければならない。そうなれば、春の作付けの予定も狂ってきてしまうだろう。そうならないためにも、浄化魔法を成功させなければならないのだ。


 僕は、慎重にきれいな水をイメージして、浄化魔法を使った。ここで僕は大きな失敗をしてしまった。範囲を指定していなかったのだ。際限なく効果が広がり、目が届く範囲と思っていたのが見渡す限りの範囲を浄化してしまったのだ。目の前に大量の異物が積み上がった姿を見て、どうやら成功したみたいだ、と遠くなっていく意識の中で確信して、目を閉じた。


 僕は目を覚ました。あれからどれくらいの時間が経っただろうか。頭には柔らかい感触があり、それがすぐにシェラの太ももであることに気づいた。僕はその気持ちのいい状態をずっと続けたいと思ったが、周囲に視線を感じ、目を転じるとルド達が心配そうな顔をして僕を覗き込んでいた。僕はこの恥ずかしい状態を抜け出すために、すぐに立ち上がった。思いの外、体の調子は悪くないようだ。僕はシェラにどれくらいの時間が経ってしまったのか聞いた。


 「あれから十分も経っていないですよ。旦那様の持っていた魔力回復薬を口移しで飲ませてあげたんですよ。これで元気になりましたでしょ?」


 そうだな。とても元気になったよ。


 「そうか、助かったぞ。初めて使う魔法だけに勝手を間違えてしまった。まさか、気絶するほど魔力を使うとは思ってもいなかった。それで、効果はどうだったんだ?」


 僕は周囲を見ながら、誰かの反応を待っていると、マッシュが水が入ったコップを持ってきた。どうやら、これが井戸水のようだ。マッシュは笑顔で僕にそのコップを手渡してきた。もう、マッシュの顔を見るだけで成功か否かは推して知るべしだな。受け取ったコップに口をつけると、無味無臭の間違えようのない真水だ。


 居住区のエリアには数十という井戸が掘られている。その確認をお願いすると、その全てで真水が出てくることが分かった。ルド達も一安心といった様子で、中断していた作業に戻っていった。僕も仕事の続きをやろうとしたが、皆に止められて、今日一日は休むことにした。馬車に揺られながら、二村に戻ることになった。シェラがなぜか甲斐甲斐しく、僕を看病するように接するものだから、思う存分甘えることにした。シェラは終始ご機嫌だった。


 次の日の朝はゆっくりとしたものだった。僕が行こうとするのだが、皆が止めに入ってくるからだ。仕方なく寛いでいると、来訪者がやってきた。どうやら、ミヤが送り出した代わりの護衛役の吸血鬼のようだ。姿を現したのは、誰ということはない、シラーだった。ドワーフ以来だから、久しぶりという感じはない。


 「シラーが来てくれるとは思ってもいなかったな。しかし、シラーで良かった」


 僕がそういうと、シラーはわかりやすい笑顔で、本当ですか? と返してきた。


 「当然だろ。シラーがいれば、鉱物発見が簡単になる。二村が片付けば、山に入ることになるからな。シラーがそばにいてくれれば、これほど心強いことはないぞ」


 次は、シラーが落胆した表情となった。シラーの表情がコロコロ変わることに違和感を感じていたが、急いできたから疲れているのだろうぐらいにしか思わなかったが、シェラに怒られてしまった。


 「旦那様。女心に疎いにもほどがありますよ。これからは長旅を共にするのですから、鉱物目的なんて言わないで、ちゃんと女性として接してあげてください。その方がシラーさんも喜んでくれると思いますよ。ね、シラーさん」


 シラーはしどろもどろとした様子だったが、シェラの言葉を否定しなかったので、シラーがそれで喜ぶのならと思い、接し方を変えようと思った。といっても、どうしていいかわからないけど。とりあえず、朝食を共にするか。僕とシェラはすでに済ましてあるが、昼前に差し掛かっているので、早めの昼食の気分で食べることにしよう。


 「シラー。ミラは急いで帰っていったがどんな様子だった?」


 「それは大変な騒ぎでしたよ。なんでも、魔の森に愛の巣を作るって騒いでいましたから。仲間もほとんど連れて行かれて、家造りをさせられているみたいですよ。ミラ様からもロッシュ様の護衛をしっかりと頼むと言われていますから、片時も離れずに護衛させてもらいますね」


 そういっている間、シェラがクスッと笑っていたような気がした。


 「シラーさん。だったら、旦那様と一緒に寝室を共にしましょう。護衛も兼ねていいでしょ? きっと、楽しくなりますよ」


 シェラの言っている護衛も兼ねてって、何を兼ねているんだ? 護衛だけだろ? シラーも訳のわからないことをいうシェラに困っているだろうな。と思い、シラーの顔を見ると顔を真っ赤にしているだけで特に困っている様子がないな。分かっていないのは、僕だけなのか。シラーに何か別の目的があるというのだろうか。そうであるならば、拒む必要はなさそうだな。


 「シラーが良ければ、寝室も一緒で構わないぞ。といっても、ベッドは一つしかないが。なんなら、一つ追加してもらうように頼んでみるか?」


 「い、いえ。一つで結構です。で、でも本当によろしいんですか? 私もそ、その一緒のベッドで寝ても。シェラさんは気にしないんですか?」


 「あら? 私がいい出したことですから、気になんてしませんよ。むしろ、大歓迎ですよ。旦那様にはこれからも世界に人々を救ってもらわなければならないのですから。協力者は一人でも多いに越したことはありませんから」


 話が見えなくなってきたぞ。ただ、二人の間では会話が成立しているようだ。とにかく、シラーも同室で寝ることになるのか。寝物語に鉱物の話でも出来たら楽しいだろうな。シラーも納得したようで、スッキリとした顔で朝食を食べ始めていた。ふと、女性として接しろとシェラに言われてから、つい意識して見てしまうようになってしまった。


 シラーは、吸血鬼としたは小柄な体をしている。吸血鬼特有の桃色の髪をして、くりっとした黒目をしている。スタイルは申し分ないほど整っている。これほどの女性が近くにいたのに、全く気にも止めなかった自分が不思議でならない。今までのシラーとの出来事を思い出して、つい彼女に惹かれていく自分がいた。だが、シェラの前でそんな自分を見せるわけにはいかない。シラーの溢れるような胸元に釘付けになるのを回避しながら、必死に目を見て話すようにした。朝からこんな思いをしてしまうとは。


 シラーとの遅めの朝食を済ましてから、僕達は三村に向かって出発することにした。時間はあまりないが、三村に流れる河川に堤防の設置するのと併せて水田の開墾くらいなら出来るだろう。土魔法が使えるシラーがいるから、捗ることは間違いないだろうな。

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