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視察の旅 その6

 どうしてこうなってしまったのか。僕は、この砦を築こうとした意図を話し、設置場所についても道幅が特に狭い場所を選んでするべきであることの必要性を説明した。僕が長々と説明し、ようやく理解をしてくれたようで、ライルは肩を落とし、ひどく落ち込んでいるようだった。


 「なんてことだ。オレのしていたことが無駄だったとは。確かに、ラエルの街に王国軍が進行していると聞いて、ロッシュ公は長大な壁を築いていたな。結局はその手前で王国軍を防いでしまったから壁の有用性はわからなかったが、なるほどな。あの壁だったら、敵も打ち破ることに苦戦したはずだ。その間にダメージを負わせ、反攻の機会を伺うことが出来るってわけか」


 壁にそんな使い方があるなんて知らなかったぜ、とライルがぼやいていたのを聞いて、僕は訳が分からなかった。話を聞く限りだと、どうやら、王国には防御的な陣地を作るという発想がないようなのだ。陣地はあくまでも攻撃をするための兵を休ませておくところか、武器や食料を保管しておく程度のものらしい。たしかに、それだけの機能であれば、ライルの作った砦は豪華なものかもしれない。


 僕も話を聞いて、思い返してみると、王国内の街や村には防御を目的とした囲いの壁が存在しないのだ。いや、待てよ。王都にはあるじゃないか。外壁が。しかし、ルドに聞いてみると防御用では決してないようなのだ。


 「あの壁はあくまでも王都の境界を引くためのものだ。防御用としては作られていないと思う。ただ、見た目を重視したから、無駄に壁は厚いからもしかしたら防御用としては機能するかもしれないな。私は、ロッシュがラエルの街を壁で囲った時、都をここに定めるものだと思っていたんだが、まさか、そんな意味があったとはな」


 あの壁を見て、そんな解釈をするのはルドくらいのものだろうな。王国軍が明日にも迫った切羽詰まった時に、都風にラエルの街を作り変えているって思わないだろ。それどころか、本当に思っているなら、僕を注意すべきだろう。まさか、ここにきて、常識を覆されるとは思わなかった。とりあえず、初期の開発段階だったから良かった。このまま、開発が進めば、撤去に無駄な時間を使うところだった。


 僕はライルにこの周辺の地形図を出すように指示を出した。すぐにテーブルの上に地図が出され、そこにはしっかりと砦の予定地となるべき山に囲まれた道が描かれていた。僕はそこを指差し、壁を築く線を描いた。道を含む平地部とその両隣にある高台に重厚な壁を築くことを提案した。そのための資材の量をゴードンに計算してもらった。なんとか、街から集めれば用意できる量らしい。


 僕は、この砦を放置して元子爵領に行くわけにはいかず、壁だけでも築いていこうと考えたのだ。ライルにすぐに必要な資材を予定地に運び込むようにしてもらった。その間に、僕はレンガ風の壁材を作るために、予定地に向かうことにした。ミヤとシェラは夢の中にいるため、砦に置いていくことにし、ルドとゴードンには資材の調達を任せ、残る自警団を連れ、目的地に向かうことにした。


 砦から目的地までは一キロメートルしか離れていないが、やはり敵の侵攻を防ぐことはできないだろうと改めて思い、ため息をついた。目的地についた。思ったよりも道は広いように感じたが、一キロメートルほどの壁を築けば、この街道から侵入するためにはこの壁を破らなければならない。もっとも、山から攻めるという方法もないことはないが、とても人が通れるような山肌ではないので、少人数だけを警戒していれば良さそうだ。


 僕は土地を均す意味も兼ねて、土魔法を使い、土を極限まで圧縮し、石のように固くなったレンガ風の建材を積み上げていった。レンガと言っても、一メートル四方の大きさのものだ。高さは地面から十メートルになるように。それをひたすら、山にぶつかるまで続けていく。やはり、土魔法はイメージがしやすいな。作業がどんどん進めることが出来る。魔力回復薬を飲みながら、進めていくと、ライル達が資材を持って、こちらにやってきた。


 持ってきてもらった資材は、鉄だ。ラエルの街同様に壁に鉄板を仕込むのだ。といっても全体ではないが。街道部分だけどうしても懐が広がっているため、敵の攻撃を多く受けてしまう。そのための補強というわけだ。それに、街道を壁で塞いでは往来ができなくなってしまう。そのために扉を設けなければならないが、鉄で作ってしまおうと思っている。


 そうすれば、脆弱な部分を作らないで済むのだ。鉄扉は、両開きにし、閉じる時は枠に木を差し込んで施錠をするようにした。夕方には大方の作業が終わり、用意してもらった資材はほとんど使い切ることが出来た。そのおかげで、強度を確保した難攻不落の壁を建造することが出来た。この壁があれば、侵攻を食い止めることが出来るだろう。あとは、この壁を外壁として砦を移築してくれば、十分に砦として機能することが出来る。


 ラエルの街とほぼ同じものだが、見方が変わったせいだろうか、ライルは完成した壁を見て、深く関心をしていた様子だった。


 「なるほどな。立派な壁だ。しかし、こんな壁を突破しないといけない王国軍を不憫に思うぜ。本当に難攻不落の壁となるかもしれないな。いい勉強になったぜ。ロッシュ公、ちょっと相談なんだが……」


 ライルからは、壁の構造について改良したいことがある、という相談だった。壁の中に空洞を作って、その中にクロスボウ隊を配備したいそうだ。当然、壁にはクロスボウを発射できる穴が開いているのだ。それは面白そうだが、空洞を作る分、壁が薄くなってしまう。その代用は鉄しかない。土では薄くすると、どうしても強度を確保することが出来ないのだ。


 「ライルの考えは面白いが、今は無理だな。鉄が足りないのだ。現状でも十分だと思うが、鉄を確保できたら改良を加えてみよう。王国軍はここからの侵攻を諦めるようなものにしていきたいものだな」


 ライルは、ああ、と言って不敵な笑みを浮かべていた。戦をした時の想像でもしているのだろうな。ライルは、この後も砦の移築のするためといって砦に戻っていった。僕達も日が沈む前に、街に戻ることにした。再び、宿を用意してもらうことに多少なりとも申し訳ない気持ちになったが、ロドリスは快く受け入れてくれたのだった。


 今夜はロドリスとルド、ゴードンで夕食のテーブルを囲むことにしたのだった。その際に、ロドリスから不穏な情報を聞くことになった。


 「ロッシュ公。昨日からですが、こちらを伺うような人影が目撃されております。今のところは被害の報告はないのですが、こちらから接触しようとすると逃げてしまうとか。もしかしたら、山賊の類かもしれません。明日の元子爵領への視察を延期してはいかがでしょうか?」


 嫌な情報だな。山賊か。確かに、僕達は明日出発するのは危険かもしれないが、それよりも山賊がいる可能性を放置することも出来まい。被害が出る前に、その人影の正体を確認しなければならないな。となると、ライルの協力が必要だ。僕は、ロドリスにライルを至急呼び出すように指示を出した。砦ならば、大した時間もかからずにやってこれるだろう。


 僕達は急いで夕食を口にして、ライルの到着を待つことにしたのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点]  これまでも主人公の馬鹿さ加減とそれを指摘しない周囲は酷いものでしたが、今回は過去最低の馬鹿回です。  ご自身がモデルですよね?
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