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視察の旅 その5

 ロドリスとの話は続く。ロドリスは、話を終えるとコーヒーを飲んで一服している。コーヒーはまだ浸透はしていないが愛飲者が少なからず出てきているのだ。ロドリスはその一人で、僕が持参しているコーヒーを手渡すと泣くほど喜んでくれた。そのコーヒーを二人で飲んでいるのだが、ロドリスが恍惚とした表情で飲んでいるので話し掛けづらい。


 「ロドリス。実はな、二村での事業を見直すことにしたのだ。もともとは砦とラエルの街を結ぶ中継的な意味合いが強かったから、農業を専業で行おうとしていたのだが、漁村としての性質を伸ばしていこうと思うのだ。あそこには、船着き場としては最適な条件を備えているからな」


 「それはいいですな。そうなると、人手が足りなくなるでしょう。この街から五千人ほど移動させたほうがいいでしょうな。もっとも、こちらも鉱山開発と農業、それに物流のための人手が必要なので、五千人が限界だとなのですが」


 僕が、住民の移動の事を言う前に分かってくれたようだ。話が早くて助かる。僕も、もう少し人数が欲しいところだが、無理を言っても仕方がない。優先順位からすれば、この街の方が重要だ。それに、新たに加わる五千人で八千人もいれば十分に漁村としての開発を進めることが出来るだろう。船大工のテドと相談して、航路の開拓もせねばな。


 「実はな、二村にもう一つだけ産業を興そうと思っているのだ」


 これには、ロドリスも分からないと言った様子だ。僕が、牛の飼育だというと最初は何のことか分からなかったみたいだ。やはり、牛が浸透していないから、すぐには理解できないのだろう。僕が牛の飼育の目的を説明すると、なんとなく理解は出来たみたいだ。


 「それでな、牛は調達することは出来たのだが、残念ながら飼育に長けた者がいないのだ。それについてロドリスに聞きたいと思ってな。なにか、心当たりはないだろうか?」


 首を捻って、考えている様子だったがいい結果は得られなさそうだ。何を思ったのか、ロドリスが僕の視察のコースを聞いてきたのだ。僕は、これから砦に行き、その後は元ガムド子爵領に向かうため、北の街道を利用すると言うと、でしたら、と話を続けてきた。


 「今もいるかは確信はありませんが、北の街道を進むと山に囲まれた盆地に出ることが出来ます。そこでは、昔から牛の食肉として飼っていたと聞いたことがあります。そこでしたら、飼育に長けているものもいるかもしれませんな」


 ほお。さすがはロドリスだな。有益な情報を得ることが出来たな。牛についても重要だが、盆地が存在することのほうが重要だ。僕の頭を悩ませている問題があるからだ。それは、元子爵領にアウーディア石の効果を波及させることが出来ないからだ。子爵領は、公国内だが飛び地みたいな形になっているため、どの町や村からも距離がある。そのため、中継となる場所が必要となるが、北の街道は山道を切り開いたような道のため、中継地となる場所がないのではないかと、諦めていたのだ。


 ロドリスの言う盆地があれば、中継する場所としては申し分ない。そうすれば、元子爵領の食料の生産性を戻すことが出来るだろう。僕が喜色を浮かべ、ロドリスに感謝を告げると、まだ話の続きがあるのです、と興奮気味になっている。


 「牛の食肉文化がある変わった土地ですが、あそこは、王国内でも有数の鉱山地帯なのです。そのため、幾度となく北の街道の拡張工事が行われたのですが、結局は失敗に終わったため、十分に開発もされずに放置されていたのです。ですから、多くの鉱石が必要ならば、開発することをおすすめします」


 食肉文化は変わっているとは思わないが。この周辺は、鉱山がたくさんあるのだな。ルドが、東に王都を築くなら、この辺りだと言ったのは分かってきた気がする。優良な港になりそうな地形、見渡す限りの平地、近くに優良な鉱山。なるほど。たしかにこれほど都にするのに適した場所はそうそうなさそうだな。僕は村を出るつもりはないが、一考する価値くらいはありそうだな。公国の都を。


 結局、ロドリスとの会話は一日がかりのものとなった。夜になり、ルドとゴードンと合流した。ルドとゴードンは、実際に町並みを見てきたらしく、僕がロドリスとの会話で得られた情報と擦り合わせて、今後の街の開発について話し合うことにしたのだ。その時、僕は公国の都を作る話も出た。といっても、酒を飲みながら、長期的な話だったので夢物語みたいな話だったが。ルドとゴードンは、半ば本気のような感じだったが、僕にとっては、遠い未来の話だと思っているので、おもしろい話であったとしか思わなかった。


 翌日、僕達は砦に向かうべく街道を西に向かって進んだ。ミヤとシェラは二日間、飲み続けていたためか朝起きれないという失態をして、馬車の中に放り込まれた今も夢の中だ。砦と街までの距離は数キロメートルしかないため、すぐに到着することが出来た。


 僕の目の前には、砦があるのだが、砦というには少しお粗末な印象を受けるものだった。この砦は王国軍の侵攻を防ぐための最前線の防御施設だ。そのためには長大な壁を築き、侵入を防がなければならない。もっとも、王都に続く道は山に挟まれているので極端に道が狭いため、長大な壁を築かなくても、敵の侵入を防ぐことが出来る。そういう場所を選んでいる。


 しかし、目の間にあるのは防御するための壁はおろか、すぐにでも壊されそうな外壁があるだけだ。しかも、折角、道が狭い場所を選んだのだから、そこに壁を設置しなければならないのに、そのずっと手前に設置しているので、容易に侵入を許してしまう形だ。いくら、時間がないと言っても、狭くなった場所に壁一枚作るだけで違うだろうに。


 僕達はとりあえず、砦の中に入るために門に向かった。そこには、赤い髪を風になびかせて堂々と立っているライルがいた。威風堂々と言った感じだが、背景がこの砦ではなにやら違和感しかない。


 「ロッシュ公。よく来てくれた。ここまで砦を作ることが出来たぜ。これで王国軍が来ても、追い返してみせるぞ」


 まさか、この砦で完成しているというのではないだろうな? これは由々しき問題だ。僕はゴードンの方を向いて、愕然とした。ゴードンが感心したような顔をしているからだ。ルドもだと⁉ どういうことだ? もしかしたら、砦の中に何か秘密があるのか? 長大な壁ではなく落とし穴があるとか。そうでなくては、この地形を選んだ意味がない。


 しかし、落とし穴なんてどこにもないし、砦の中も滞在するための建物や武器庫などがあるだけだ。百歩譲って、敵が公国内に侵入しないで砦に張り付いてくれたとしよう。このレンガだけを積んだ壁でどれくらい凌げるというのだ? 一時間か? 二時間か? どうしてこうなってしまったのだ。僕は話がしたいと言うと、砦内にある会議室に行くことになった。


 「ライル。一体、これはどういうことだ? 砦の意味がまったくないではないか!!」


 「ロッシュ公、何言ってるんだ? まさに砦じゃないか。ゴードンさんだってルドベックさんもここが砦ではないと思っているのか?」


 ルドとゴードンは困ったような表情をしている。どうやら、ここを砦と思っていないのは僕だけみたいだ。これから、皆に僕の考えている砦の説明をすることになったのだった。 

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