休日
ドワーフの一件が片付き、僕は暇になってしまった。砦建設も始まり、報告では順調に進んでいるという。それに付随する街や村の建設も同時に始まり、亜人達は自警団の指示に従いながら、住居などを作り始めているそうだ。僕がその視察を予定しているのは春になってからだ。それまでに一段落をつけるとライルはおおいに張り切っていた。
造船も順調に進み、一月後に進水式をするようだ。僕も当然、呼ばれている。漁業をついに始められることが今から楽しみだ。新村開発も、居住区の開発が一通り終わり、商業区や工業区の開発予定を決めている段階まで入っているようだが、なかなか進捗は悪く、その前に春前の畑の準備に入ってしまうのではと心配されている。僕としては、そこまで急いでやる必要はないと思っている。公国にとっては、今年の最大の目標は食料生産量を増やすことにあるから。
村では、一年で一番寒く、雪が深く積もりってしまう時期になっているので、外を出歩くのも容易ではない。今、村で出歩いているのは魔の森の畑を管理に行っている者達だけだ。僕も顔を時々出しているが、生育はとても順調だ。ただ、魔の森の問題点を見つけてしまった。それは、温度差がないため、品質が少し低いことだ。といっても、収量は多めで、病気や虫の心配がないため、管理の負担が少なく、農地としてはかなり優良だろう。それでも冬の間だけの利用となってしまいそうだ。春から秋にかけては、村人は総出で畑に当たるため、魔の森に手を伸ばせないのだ。こればかりは仕方がないところだ。
さて、話を戻して、そんなわけで一月ほど時間が出来てしまった。時々、魔の森の畑に出たりはするが、一日を費やすほどではない。そこで、僕は嫁達と婚約者を集め、宣言した。
「僕は一ヶ月間、休みを取る!! 屋敷でごろごろするつもりだから、そのつもりでいてくれ!!」
僕の発言に一番喜んでくれたのは、エリスだった。
「ロッシュ様、やっとゆっくり出来るんですね。忙しくしていたので、体を悪くしないか心配でした。ゆっくり休んでくださいね。いろいろと新しい料理を考えたんです。ご飯の時は楽しみにしていてくださいね」
エリスの優しさはいつも胸にしみる。そういえば、結婚する前のほうがエリスの手料理をゆっくり食べていた気がする。この一ヶ月は堪能させてもらおう。だけど、もう少しで出産だ。無理だけはしないでくれよ。僕の心配をよそに、エリスは腕をまくり、すごく張り切っているのが不安があるけど。
ミヤも嬉しそうだ。どこからともなく酒樽を取り出してきて、テーブルの上に、ドンッと置いた。
「それを早く言いなさないよね。私がその一ヶ月を使って、ロッシュの酒量をあげてあげるわ。やっぱり、公国の主として君臨しているんだから、酒量も強くないといけないと思うの。貴方の潜在能力を引き出してあげるわ」
最近、ミヤの口からは酒の話しか聞かないんじゃないか? ミヤの潜在能力云々の話はともかくとして、いつも次の日を心配して、深酒は控えていたからな。たまには飲むのもいいだろう。ミヤともなんだかんだで一緒に飲むということはしてこなかったからな。僕が頷くと、ミヤは大はしゃぎになり、すぐに用意してくるわ、とキッチンの方に向かっていった。
意外だ。ミヤが率先して、コップを用意してくれるなんて。それくらい、喜んでるって思っていいのかな。だったら、いいな。そんな時に、マグ姉が出かける支度をしているのが見えた。こんな雪の中、何をしに出掛けるんだ?
「ロッシュはゆっくりしていなさいね。私は、薬を作りに薬局に行ってくるわ。身ごもってしまったから、何ヶ月もしたら、動けなくなるでしょ? そうなる前に今のうちから薬を作っておきたいのよ」
それで忙しそうにしているんだな。だとしても、この雪で何かあったら心配だ。僕が連れて行ってあげたほうがいいだろう。
「大丈夫よ。迎えが来てくれるから。ロッシュがいない間もそうやって、なんとかやってこれたから心配はしなくてもいいのよ」
マグ姉の言葉は少し心に刺さった。確かに、屋敷にいない時間が長かったから、マグ姉の手伝いとか全く出来てなかったな。済まないことをしているんだな。
「違うわよ。ロッシュは私より公国の民のことを心配してあげなさい。貴方は私の夫だけど、私にはエリス達が助けてくれるわ。けど、公国の民は貴方の助けがなかったら、路頭に迷ってしまうのよ。だから、一番に考えてあげる人達を間違わないでね」
マグ姉は時々、大事なことを教えてくれる。元王女だからこそ見える視点だ。僕はそんな時はいつもありがとう、と一言言うのみだ。それだけで、マグ姉はいつも微笑んでくれる。今もそうだ。
「分かってくれたならいいわ。ロッシュの体は大切なんだから、休める時に休んでおきなさいね。でも、折角、ロッシュがいるんだから、早めに帰ってくるわね」
そういうと、マグ姉は僕に唇を合わせて、いってくるわ、といって屋敷を出ていった。すると、急に目の前にリードが現れて、唇を合わせてきた。
「見てたら、羨ましくなっちゃって。私も身ごもってからご無沙汰だから、もうちょっと構ってほしいです。だけど、私も今のうちにやっておきたいことがあるので、工房に行ってきます!! お昼になったら戻ってくるので、一緒にご飯を食べましょう」
そう言って、リードも屋敷内にある家具の工房に向かっていった。そういえば、リードに家具のための金属加工を頼まれていたな。明日以降でも、リードに聞いて作ってみるのもいいな。時間はあることだし、すこし拘ってみても面白いかもしれないな。
そろそろミヤの方の準備も終わる頃だろう。テーブルには、シェラとクレイがずっと着席した状態で待っていた。この二人も僕とミヤの酒盛りに付き合ってくれるというのかな? シェラは相変わらず眠そうだな。僕が宣言するために無理やり起こしたせいもあるが、さっきから一言も話さず、遠くを見てばかりだ。一旦、ベッドに戻したほうがいいかな?
「シェラ、ベッドに戻るか?」
そういうと、言葉を発することなくコクっと頷くだけだった。動く様子もないが、これは僕が連れて行くってことなのか? 仕方がないな。僕はシェラを抱き上げた。いわゆる、お姫様抱っこだ。それをした瞬間、周囲から声が上がり、シェラが眠そうな目を見開き、なにやらキラキラとして目でこちらを見上げていた。どうしたんだ? 急に目が覚めたのか? 周りを見ると、エリスとミヤ、クレイまでもが羨望の眼差しでこちらを見ていた。
すると、シェラが顔を真っ赤にして、降ろしてください、と言ってきたので降ろしてやると、スキップしながら自分の部屋に戻っていった。目が覚めたわけではないのね。とりあえず、自分で行ってくれるなら、いいか。と思っていたら、エリスとミヤにお姫様抱っこをせがまれてしまった。
仕方がないので、二人にやってやると、二人共すごく上機嫌になり、スキップしてキッチンに戻っていった。クレイも僕の袖を掴み、小さな声でお願いします、と言ってきた。そんなに恥ずかしいそうに言われると、こっちまで恥ずかしくなるじゃないか。クレイにも思いっきりお姫様抱っこをしてやると、なぜか何度もお礼を言われた。僕の常識では、そんなにうれしい事ではないはずだが。
それから、僕は上機嫌なミヤとクレイと共に酒を酌み交わし、エリスが腕をふるってくれた肴で美味しいお酒を飲むことが出来た。ミヤは終始ご機嫌だったので、無理に飲ませることもなかったので、ゆっくりと楽しい時間を過ごすことが出来た。お昼になってリードが合流したが、その時もお姫様抱っこをせがまれ、夜になってマグ姉が合流した時もお姫様抱っこをせがまれた。今日は、皆上機嫌で過ごせたのだった。
夕飯後からシェラも酒宴に参加して、お風呂で酒を飲み、今日一日酒を堪能することが出来た。酒の質もかなり上がってきていることも実感できたな。寝室に入ってからも、ミヤ、シェラ、クレイと共に酒を飲み明かしたのだった。もちろん、夜の行為も。まさに酒池肉林だった。