ドワーフが来た その2
「おい、いつまで遊んでるんだ? 工房が出来たから入っていいぞ」
遠くの方からギガンスの声が聞こえてくる。遊んでいるうちに随分と離れてしまったようだ。そのへんに落ちている怪しい骨で遊んでたから、手が少し臭うな。遊びが終わりだと分かると、ハヤブサはその骨をバリバリと食べてしまった。あの太い骨をたやすく食べてしまうとは。
僕とハヤブサは工房の方に向かった。先程よりも外観がきれいになっているな。この短時間でどうやったら、こうなるんだ? 既に扉が開いていたので中に入ると、内装はさらにきれいになっていた。レイアウトもかなり変わっていて、広さも若干だが変わっている。どういうことなんだ?
「気になるか? この工房は、それ一つが鍛冶の作品みたいなものだ。この柱は木に見えるだろ? 壁はレンガに見えるだろ? でも、実際は魔金属で出来ているんだ。魔金属に特性を与え、すべてで一つの工房になるように構成されている。だから、手を加えれば、いくらでも内装や外装を変えることが出来る。ただし、工房という枠組みを超えることは出来ないがな。これは、ドワーフの先祖から受け継ぐものなんだ。少しずつ手を加えて、より良くしていく世界で一つの工房なんだ」
この工房が鍛冶で生み出されたものなのか。信じられないな。まるで生きている建物ではないか。しかし、どうやって運んできたんだ?
「それはな、バラせばいいんだ。魔金属は特性を与えるとバラしても維持されるものだ。バラしたものを再びつなぎ合わせるだけでいい。そうでなければ、工房など短時間で作れないだろ。それはそうと、魔金属を分けてくれないか? 家を作るにしても、木だけでは面白くない。色々と作りたいのだ。家は外にいる連中にでも任せておけばいい」
やはりドワーフの鍛冶は面白い技術だな。しかし、魔金属あってのものなのだろう。そうすると、魔の森以外では使えない。なんと、惜しい技術なんだろうか。これを魔の森の外で使えれば、きっと民の生活は豊かになるはずだ。戦争だって、ドワーフの道具があれば……
僕が何かを考えているのかを察したのか、ドワーフが難しい顔をして、僕に話しかけてきた。
「ロッシュ。一応言っておくぞ。儂達、魔の森に住む者たちにはルールがある。それは、人間同士の争いに介入しないということだ。もし、ロッシュが人を殺す道具を作ってくれと頼んできても、儂は断るしかない。そういう依頼は受けられないんだ。悪く思わないでくれ」
そうだったのか。たしかにエルフも必要以上に介入することは基本的にはない。もっとも、今の所頼んだことはあまりないが。そういえば、リードにエルフの里に助力を頼むのは難しいと言っていたが、そういうことだったのかもしれない。だとしたら、ドワーフなりエルフなりが村になにか作ったり、与えたりしたら大なり小なり介入したことにはならないのだろうか?
「ふむ。厳密に言えば、その通りだ。そこは、ほれ、感謝の印というやつだ。何かをこちらが受け取っていながら、返さないのはよくない。それだけだ。それをロッシュがどう使おうがそれはこちらの知るところではない。まぁ、儂からは酒をたっぷりもらっているからな。礼もそれなりに期待してくれて構わないぞ」
分かるような分からないような。とにかく、僕がドワーフやエルフを戦争目的に頼るのはダメという解釈でいいのかな? それで良好な関係を築けるのであれば、僕は守る約束をしよう。僕の目的は戦争にあるわけではない。この公国をより豊かにして、寄る辺のない者たちを餓えから救うことにあるのだから。
「それを聞いて、安心した。儂らとこれからも良好な関係でありたいからな。ところで、儂らは一体何をすればいいのだ? 先程も言ったが、戦争に関係するものは作ってやれないぞ」
僕は、ドワーフには油絞り器のような農具を作ってもらうつもりだ。それに、今は水を確保できる場所に畑を確保しているが、徐々に村でも余地が少なくなってきている。もちろん、当面は大丈夫だろうし、他の場所でも農地を拡張しているから食料生産の点では問題ないだろうが、僕が心配しているのはアウーディア石の消費だ。
アウーディア石の効力を公国内に制限しているが、公国も以前に比べて、飛躍的に面積が増えている。どれくらいかと言うと、東西に40キロメートル、南北に20キロメートルくらいが元の面積だ。村とラエルの街を足した、元イルス辺境伯領だ。それが、今回の砦開拓やガムド子爵領が加わったことにより、東西130キロメートル、南北100キロメートル程になっている。約15倍だ。これだけ増えれば、当然アウーディア石の消費も大きく変わるだろう。だとすると、これから新規に面積が増えたとしても、なるべく今の領地で農地開発をするほうが将来的にも安心できるだろう。もちろん、石が手に入れば別だが。
そうなってくると、農地に出来る場所は尽く農地にしたほうがいいのだ。これで問題となるのは、当然、水だ。高台や山間地などは地下水が低く、井戸水を汲むのが簡単ではない。低地の河川から揚水する方が技術として簡単だろう。それは、水車を用いることだ。水の力を利用して、大量の水を恒久的に供給することが可能だ。水田のような大量に水を必要としない作物であれば十分だろう。
もちろん、すぐにではないがドワーフが来たことによって、その辺りの技術を導入するハードルは随分と下がったと思う。後は、技術を村の鍛冶職人に伝えることは出来ないだろうか。それが出来ることが一番いいことなのだが。
「技術指導? 無理だな」
随分とあっさりと断られてしまったな。やはり、安易に技術を教えてくれるわけがないか。いや、もしかしたらドワーフと人では技術に大きな隔たりがありそうだ。教えても無駄ということも考えられるな。将来的でもいいから、技術指導を考えもらえないだろうか。
「言い方が悪かったな。そういうことではなくてな、無理というは、そもそも儂らは魔金属を加工することに特化した鍛冶技術なんだ。お主らは違う金属だろ? そこに大きな違いがあるんだ。魔鉄の加工技術を違う金属で使うことは出来ないし、逆に、違う金属の加工技術を魔鉄には使えない。教えても、無駄なんだ。ロッシュも知っての通り、魔鉄は魔の森以外では使えないぞ」
そうだったのか。すこしでも、技術が伝わればと思ったのだが。だとすると、ドワーフにやってもらうことがなくなってしまうな。魔鉄が使えないのではな。
「儂らを見くびってもらっては困る。魔鉄でなくとも、鉄でも最高のものを作ってやるぞ。ただ、特性を付与するとか、そういうことは出来ないがな。その技術なら教えてもいいが、儂らも魔鉄ほどには熟練していないから、期待はするな」
それは有り難いな。少しでも技術が伝わることは必ず意味が出てくることだ。ドワーフの魔鉄ではない金属の作品か。早く見てみたいものだ。
「さっさと、魔金属を出してくれ。日が暮れてしまうぞ」
そうだったな。話が長くなってしまった。僕は鞄から魔金属を出せるだけ出した。オリハルコンだけは出し惜しんだが。そうだ、魔金属についてを伝えておかなければ。
「ギガンス。魔金属の調達についてだが、こちらがすべてやる方向でいいんだよな?」
「ん? ああ。それで頼む。儂らも得意だが、ロッシュのほうが品質が高いものを作れそうだからな。そっちの方が手間がかからなくて助かるぞ」
「そうか。今、村にある在庫は全てこちらに移動をしているところだから、しばらくすれば届くだろう。さっきの酒倉の数棟分の魔金属はあるだろうから、当分は大丈夫だろう。それに、ゴブリンが持ってきてくれるからな」
「ゴブリンが? なかなかおもしろい関係を持っているものだな。ロッシュは。まぁ、任せるから好きにやってくれ。魔金属を保管する建物も作ったほうが良さそうだな。忙しくなるのぉ。今夜の酒のために一仕事するか」
それから、僕はそとにいたドワーフの指示で木材を加工した。すでに設計は終わっていると言うから驚きである。ドワーフは鍛冶でありながら、大工仕事も得意なようだ。目の前で、建物がみるみる作られていくのは圧巻と言うか、少し不気味な感じもした。
僕はドワーフの里を後にし、一旦魔牛牧場に戻り、ドワーフの里に酒を届けてくれるように指示を出し、一路、屋敷へと戻ることにした。これで、村に新たな住人と施設が出来たのだった。久しぶりに、屋敷でゆっくり出来る時間ができそうだな。




