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フェンリルのハヤブサ

 僕達が、ドワーフを探す旅に出てからちょうど一ヶ月が経っていたようだ。留守番を頼んでいたエリスやリード、マグ姉は僕を暖かく迎えてくれた。エリスは、動くのも大変なくらいにお腹が大きくなっていた。リードはようやく大きくなってきたかなという感じ。しかし、驚いたのが、マグ姉も身ごもったというのだ。僕には、マグ姉が恥ずかしそうに報告する姿はとても愛らしく映った。しかし、今妊娠したということは、今年中に生まれるということだな。今年はとても忙しい年になりそうだ。


 僕はすぐにゴードンを呼びだし、ドワーフの扱いについて相談することにした。


 「ロッシュ村長。ご無事のお戻りで嬉しゅうございます。ロッシュ村長のいない間も全て予定通りに進んでおります。なんでも、砦近くに優良な鉱山が見つかったそうです。鉄が出ればいいのですが。今日はドワーフの一件でしょうか? ロッシュ村長の顔を見る限りでは、首尾は上々といったところですか?」


 「順調なのはなによりだ。僕の顔だけで分かるか。流石だな。ゴードンの言う通り、ドワーフに会うことが出来たぞ。腕も見せてもらった。やはり、素晴らしい技術を持っていたぞ。公国にはぜひとも欲しい技術であった。それでな、話はここからなんだが、いろいろとあって、ドワーフが村に来てくれるという話になったのだ」


 「なんと、それは素晴らしいですな。それほど高い技術を持っている者たちを抱えられるのは、なかなかないことですぞ。なんなりとお命じください。その者たちが満足するものを提供いたしましょう」


 うん。ドワーフが満足するものを与えるのは簡単だと思う。だって、酒だけだもん。鍛冶道具を手入れできる場所と酒があれば、多分、文句言ってこないと思うが、仕事をしてもらわなければならないから、工房をつくらねばならないな。といっても、ドワーフの工房は僕が見た限りでは少し独特なものを感じた。やはり、扱う金属が違うせいだろうか? こればっかりは、ギガンス達が到着してからではなくてはどうしようもない。今出来るのは、用地の確保と酒倉を建てておくくらいか。


 「今出来るのは、魔の森の平原にドワーフ達の居場所を作ってやることだ。だから、ゴードンには、住民に新たな移住者が来ることを伝えて、安心してもらうことだ。それと、採掘場に保管している魔金属や魔宝石を一旦村に移動してもらえると助かる」


 ゴードンはお易い事で、といって早速行動を始めてくれた。僕も行動に移ったほうがいいだろう。さっそく、魔の森に向かうべく、ミヤとシェラを誘ったが断られてしまった。なんでも、酒が私達を呼んでいるらしい。まぁ、二人には魔の森では苦労をさせてしまったから、休ませてあげるのもいいだろう。僕は、一人で魔の森の畑に向かった。ハヤブサを連れていくためだ。ハヤブサだけでも、屋敷で飼えないものだろうか。


 外は雪が高く積もっていたが、魔の森の畑までは村人がよく通っているのか踏み固められており、歩きやすかった。時々、滑りそうになりながらもなんとか、魔の森の畑にたどり着くことが出来た。魔の森は暖かくていいのだが、いちいち着替えなくてはいけないのが面倒だな。僕は着ていたコートを脱ぎ、一面の麦畑を見ながら、フェンリルの世話をしているククルのもとに向かった。

 

 「ロッシュ様。魔の森からお帰りになったのですね。畑はフェンリル達が毎日監視しているので、魔獣に襲われることもありませんでした。それと、フェンリルの子供が生まれました。気付かなかったのですが、いつの間にか、フェンリルの住処に赤ちゃんがいたんですよ。とっても、可愛いんですよ」


 それは見てみたいものだな。それにしても、フェンリルを畑の監視にしたのは正解だったな。ククルは贅沢な使い方というが、僕は、食料はもっとも重要なものだ。それを守るためなら何を使ってもいいと思っている。ハヤブサに会いに行くために、フェンリルの穴蔵に近づくと、ハヤブサがすぐに出てきたのだ。僕に体をこすりつけ、尻尾をすごく振って喜んでいるように感じた。


 僕は、ハヤブサを褒め、他のフェンリルは元気にしているか? と声を掛けてた。時々、返事みたいのをしていたからな、それをしてくれたら、可愛いものだな。


 「私を含めて、皆、元気にしているぞ。主」


 そうか、そうか、元気か。ん? んん? 僕は辺りを見渡し、誰かいないかを確認したが、ククルとハヤブサ以外いないな。僕は、恐る恐る、ハヤブサに話したのはお前か? と声を掛けると、そうだぞ、と当り前そうに返ってきた。僕は、恥ずかしながら、悲鳴をあげてしまった。だって、動物が話すなんて、怖いじゃないか。


 それから、いろいろと聞くと、僕と契約してから人の言葉が理解できるようになったようだ。ただ、話すのは時間がかかるみたいで、魔法で声を作っているらしい。その練習に時間がかかったみたいだ。そうか、そんな事ができるのか。すごいな、魔獣は。僕は、感心したようにククルに言うと、ククルは首を振っていた。


 「こんなのは初めて見ましたよ。だって、魔獣が人の言葉を話すなんて、あるわけないじゃないですか。これは凄い発見ですよ。ああ、だれかに発表したいです」


 ということは、ハヤブサが例外的ということか。なるほどな。意思疎通が出来るとなると、やはり、もっと身近にハヤブサを置きたいものだな。僕は、ハヤブサとククルに相談すると、ハヤブサはともかくククルが難色を示した。


 「正直に言いまして、難しいかと思います。今、フェンリルがうまく動いているのはハヤブサがいるから、というのが大きいですから、いなくなると群れを統率できるか自信はありませんね」


 やはりそうか。と思っているとハヤブサが急に立ち上がり、穴蔵の中に引き下がっていってしまった。落ち込んでしまったのかなと思ったら、そうではなかった。もう一頭の立派なフェンリルをハヤブサが連れてきたのだ。


 「主。これは私の息子だ。実力は私に次ぐくらいはあると思っている。だから、群れを息子に継がせて、私は主に付いていきたい」


 僕は、フェンリルのことは詳しくはないが、ククルは後継者を置いてくれるなら問題はないと言ってくれた。これで、ハヤブサは連れていけるが、大きな問題がある。魔素のない土地でハヤブサに問題があることだ。魔獣は、魔素がなければ、体調を崩したり、獰猛になったりするのだ。それを指摘すると、ハヤブサはかなり落ち込んでしまった。せっかく、ここまで話が進んでいたのに残念だ。何か、方法があればいいのだが。すると、ハヤブサが何かを思い出したかのように呟いた。


 「魔石があれば、なんとかなるかもしれない」


 魔石だと!? なぜ、ハヤブサがその言葉を知っているんだ? とりあえず、落ち着こう。僕も知らない顔をして話を聞くんだ。


 「魔石というのは、魔力を封じ込めた石らしいんだ。赤くてきれいな宝石のようで。それを体内に宿すと、魔素がない土地でも、魔獣は普通に生活が出来るって」


 まるで、誰かから聞いたような口ぶりだが。それにしても、それが本当なら凄い発見ではないか。一応、ククルにも話を聞いてみたが、初耳のようで、興味深げにハヤブサの話を聞いていた。ハヤブサも誰から聞いたかは覚えていないみたいだ。やって見る価値はあるか。僕は、鞄の中から魔石を取り出した。


 「これがその魔石だ。これについては詮索しないでもらいたいが、物は試しに使ってみるか?」


 僕があっさりと魔石を取り出すものだから、ハヤブサもククルも物凄く驚いていた。それはそうだろう。聞いたこともない石が目の前に出てくるのだから。ハヤブサはすぐに魔石を取り込みたい気持ちだったみたいだが、ククルは実験してみましょう、と大張り切りになり、ハヤブサで魔石の検証を行うことにした。やり方は簡単。ハヤブサを魔素のない場所に移動して、体調を崩し始めたら、魔石を取り込ませて様子を見るというもの。これで体調が回復すれば成功というわけだ。


 ハヤブサも取り込みたいのを我慢して、魔素のない場所にてくてくと移動することにした。実験は始まった。しかし、時間が経過してもハヤブサに変化はない。あれ? 意外と魔石がなくても大丈夫だったりするのか? と思っていると、ハヤブサが牙をむき出しにして、こちらを威嚇し始めた。どうやら、始まったようだな。僕はハヤブサに魔石を差し出すと、ハヤブサはすごい勢いで魔石を飲み込んだ。その瞬間、ハヤブサの体が一瞬、淡く光りだした。


 光が収まると、さっきまで威嚇していたハヤブサがいつもの調子に戻っていたのだ。ハヤブサに体調を聞くと、絶好調らしい。なるほど、成功のようだ。すると、ハヤブサが急に咳き込み、ぼろっと魔石を吐き出した。失敗かと思ったが、ハヤブサの様子に変化はない。僕は吐き出した魔石を見ると、量がいくらか減っていた。量が多すぎて、体が拒絶したということか? 今は分からないが、とにかく成功だ。


 ハヤブサは、僕とこれから一緒にいられると分かると、これ以上ないほど喜んで僕に抱きついてきた。ククルも何故か涙を流して喜んでいた。魔石の有用性がこんなところにあったとは。やはり、魔石を手に入れる方法を確立したいものだ。そうすれば、魔獣を家畜化することのハードルは一気に下がるだろう。


 それからは、ハヤブサに乗り、ドワーフの住む場所を更地にしたりして、そのまま屋敷へと戻った。ハヤブサを見た村人はそれは驚いていたが、僕が乗っていることが分かると、大丈夫なものと分かるのか普段の生活に戻るのであった。屋敷に戻ったが、流石に中に入れないので、軒下で寝てもらうことになってしまった。すぐに小屋を作ってやるぞ。


 それから、幾日経っても、ハヤブサの様子は変わらなかったので、魔石は間違いなく成功したようだ。さて、ドワーフはいつ来るのだろうか。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今話の最後に「さて、ドワーフはいつ来るのだろうか。」とありますが、前話の最後に「それから数日後、ドワーフ達が到着した報告が僕の耳に入った。」とあります。
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