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ドワーフの里 その2

 工房に入ると、何年も使われていないと聞いていたので埃っぽい場所を想像したが、意外にも整理整頓が行き届いており、道具もしっかりと管理されているような感じがした。僕が、そのことを感心していると、道具はドワーフにとって命より大事なものだから、いくらやる気がなくても、道具の手入れだけは自然と体が動いてしまうそうだ。僕が工房を隅々見て回っていると、火をおこしに行ったギガンスが大声をあげて叫んでいた。


 「しまった!! 久しぶりすぎて、魔鉄の在庫が全く無くなっていたぞ。これから採りに行くとなると、ちょっと時間がかかりすぎてしまうな。ロッシュ。すまないが、もう少しだけこの里にいてくれないか? これから魔鉄を採りに行ってくる」


 そういって、出かけようとするギガンスを僕は止めた。不審そうな顔をしていたが、僕が鞄から魔鉄を取り出すと表情が一変していた。僕から受け取った魔鉄を触ったり、音を聞いたりして、唸り声をあげていた。


 「これほどの純度の高い魔鉄は初めてだ。儂らでもこれほどのものを作るのに、どれだけの時間が必要となるか。ロッシュは、一体、どこで手に入れたのだ?」


 僕は、自分の魔法で採掘したことを説明し、ドワーフの里に来る前に採掘した魔金属を取り出し、見せることにした。様々な金属がある中で、ギガンスがミスリルを震えた手で持ち、僕とミスリルを交互に見て驚いた表情をしていた。やはり、ドワーフでもミスリルは貴重で、鍛冶をする時に、微量を魔鉄に入れるだけで劇的に性能が向上するらしい。それが、握りこぶしほどの大きさのものが目の前にあれば驚くのも無理はないそうだ。ということは、と思い、僕はオリハルコンを取り出し手渡すと、ギガンスはそれだけで腰を抜かしてしまった。


 ギガンスは一言、ロッシュは本当に何者なんだ、と呟いていた。それから、火が起きるまでの下準備や設計などを見て、魔鉄を炉にくべてからは、ギガンスは人が変わったように真剣な表情となったので、僕は静かに工房を離れることにした。実際に見て、やはり、ギガンスの腕は間違いなさそうだ。僕は、村へ移住してもらうことを決め、ミヤとシェラがいる野営地に戻っていった。そこでは、ミヤとシェラがドワーフ達と宴会をしていたのだった。


 僕も久々にゆっくり出来ると思い、その宴会に参加することにした。ドワーフ達は酒が入っているせいか、陽気でとても楽しい宴会となった。ただ、そのおかげで、僕が持ってきた酒樽はすべてドワーフの胃の中に消えてしまったのだが。このことはミヤには内緒にしておいたほうがいいだろうな。きっと、帰り道強請ってくるだろうから、今のうちに言い訳を考えて置かなければ。


 宴会が終わり、ミヤとシェラは僕と共にひとつのテントに入ると、急に甘えだしてきて、僕を簡易ベッドに押し倒すと、そのまま二人を相手にすることになってしまった。僕も久々に二人の肌のぬくもりを感じたせいでいつもより激しく燃え上がってしまった。


 次の日、近くから大きな声がして、僕は目を覚ました。テントから出ると、ギガンスが仁王立ちしていて、僕の姿を見ると、修理が終わったから工房に来てくれと言ってきたので、僕は工房まで付いていくことにした。工房のテーブルの上に、見たことのある油絞り器が置かれていた。しかし、壊れていていたであろう箇所が見事に修復されていて、黒光りするきれいな仕上がりとなっていた。僕は油絞り器のハンドルを回すとスムーズに動き、絞るための板がまっすぐと落ちていった。素晴らしい出来だ。是非、何か試してみたいものだが。


 ギガンスが油絞り器の横に何かの種が入った袋を置いた。これは試せということか? 僕は種を絞り器の器に種を流し込み、ハンドルを回し始めた。僕は、種を絞る時にハンドルが重くなると思って、力を徐々に強くしていったのだが、一向に重くなる様子はなかった。それどころか、空を切っているような軽さを感じる。それでも、板は下がっていき、種をぎっちりと絞り始めていた。油の受け皿には、徐々に油と言うか種の汁が集まりだしていたが、やはりハンドルは重くなる様子はない。


 絞りきったところで、種を見てみると、カラッカラに乾いた種のカスだけがあった。なんと、素晴らしい道具なんだ。これなら、女性の力でも難なく油を絞り取ることが出来そうだ。ギガンスは、この油絞り器には、ハンドルが重くならないように、加工し魔鉄に特性を加えたと言っていた。なるほど、魔鉄というのは、そういう使い方が出来るということか。まるで、ミヤの魔力糸と同じだな。


 待てよ。そうしたら、村で使えないということか。魔力を一定程度必要となると、魔鉄が一気に劣化するということだな。ギガンスに魔鉄が劣化しないようにする方法を尋ねると、特性を加えなければ可能だと言っていたが、特性を付けなければ、鉄で作った出来のいい絞り器と変わらないということか。まぁ、それでもいいか。絞り器の開発は現状、誰も出来ないしな。


 「ギガンス。とても素晴らしいものだった。これほどの腕があるとは、驚くばかりだ。昨日の話だが、村に来てくれるというのは本当なのか? 是非、歓迎したいものだが」


 「もちろんだ。酒があるところであれば、オレは行くぜ。オレだけじゃない、この里全員だ。酒は相当飲むが、その分の仕事はきっちりとするから安心してくれ。ただ、鍛冶をするためには、魔素がある土地でなければだめだ。話では、その村っていうのは、魔の森の近くなんだろ? だったら、魔の森で里を築くことになるだろうから、それでも構わないか?」


 僕は頷いた。村の近くの魔の森には、魔牛牧場や魔獣飼育のための施設、広大な畑があったりと実績があるので、ドワーフを受け入れるための里を作ることになんら抵抗はない。となると、問題はこれからどうやってドワーフを連れていくということだ。ドワーフ達に準備も必要となるだろうが、僕達には残された時間はそんなにないのだ。僕はギガンスに相談した。


 「それもそうだな。しかし、この里にはいいものがあるんだ。ずっと昔に作られたものだが、どんな距離でも瞬時に移動できる道具があるんだ。一度しか使えないものなんだが、こんな時に使うのがいいだろう」


 瞬時に移動できる道具って、凄い道具だな。一度しか使えない理由が知りたいものだが、ギガンスもよくわからないらしい。いつか、謎を解いてみたいものだな。ギガンスにその道具がある場所に案内してもらうと、そこにはドアが二つ置かれていた。どうやら、このドアからドアに移動できるみたいだ。まるで……。


 この一方のドアを、移動先に設置して、魔力をドアに付いている石に流すと設置完了となるみたいだ。そうすると、もう一方の方のドアに反応があって、設置されたことが分かる仕組みのようだ。しかし、この石、どっかで見たことがある石だな。とりあえず、これがあれば、里の移動も簡単に済みそうだ。


 僕達は、ギガンスと再会を約束して、里の皆と別れ、帰路についた。山を上ると、案内してくれたゴブリンが律儀に待っていてくれたみたいで、共にゴブリンの女王の下に戻っていった。途中、鉱山に寄ろうとしたが、酒がないことに怒ったミヤに猛反対を受け、泣く泣く諦めることになった。せっかく、酒樽の容量が空いた分、魔金属を採掘したかったのだが。ゴブリンの女王は僕達を歓迎してくれて、宴を設けてくれた。その席で、僕は女王にドワーフに会うことが出来、村に勧誘することが出来た旨を伝え、その感謝をすると、自分のことのように喜んでくれた。宴に出された食事を楽しみ、僕達は村へと帰った。


 僕達は村に戻る前に、魔牛牧場に立ち寄り、ギガンスに渡されたドアを設置し魔力を流し込むと、赤い石が淡く輝き出した。これで、設置完了のはずだ。あとは、向こうから来るのを待つだけだな。僕達はしばらく待ってみたが、ドアが開く様子がなかったため、眷族にドワーフ達が到着したら伝えてくれるように頼み、僕達は村へと戻った。


 それから数日後、ドワーフ達が到着した報告が僕の耳に入った。

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