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ロドリスとの会合 その2

 しばらく経ってから、落ち着きを取り戻した三人は再び会議に挑むべく顔を引き締めて、席に着いた。ところが、誰かのお腹が盛大に鳴りはじめた。僕は、少し笑って、昼食の用意をしてもらうことにした。今回用意してもらったのは、客人用の普段、皆が食べている料理を少し豪勢にした程度の料理だ。この料理を前に、二人の亜人が目を見開いたまま微動だにしなかった。もしかしたらマナーを気にしているのか? さすがはロドリスは動じていないな。うん、ロドリスも微動だにしていなかった。


 「三人ともどうした? 温かいうちに食べたほうがいいぞ。それとも食べられないものがあったか?」


 微動だにしなかった三人だが、僕の言葉でようやく動き出したように、手を動かし口に食べ物を入れると、瞬く間に全部を平らげてしまった。素晴らしい食べっぷりだ。見ていて、これほど気持ちの良いものはないな。もっと食べるかと聞くと、ロドリスは辞退し、二人は口に頬張りながら、こくこくと何度も頷くだけだった。すぐに用意させ、満足するまで食べさせることにした。


 食べ終わった後、二人に美味かったか? と聞くと、こんなに美味しい食事は初めて食べたと言っていた。いつもの食事を教えてくれたが、それからすれば、今日食べたものはかなり贅沢なものに映ったであろう。満腹になったせいだろうか、先程まで恐縮しきっていた二人の表情から、かなり明るい表情に変わっていた。


 少し食休みを挟んだ後、会議の続きを始めることにした。昼食後の会議からはルドとゴーダが参加することになった。実際に村や街作りの管理をする二人がいてくれたほうが話がわかりやすいだろう。僕はロドリスにルドとゴーダを紹介し、ルドが受け入れについての話をすることにした。


 「私はルドベックだ。これからロドリスさん達三万人の亜人について説明する。公国は、ここより西に100キロメートルほど離れた場所に砦を築く予定だ。これは、王国からの侵攻を防ぐためのもので、公国民の安全を守るために必要なものだと思っている。それに伴って、近くに物資集積のため都市を建設しようと考えている。ゆくゆくは物流の拠点にしていくつもりだが、それは今はいいだろう。ロドリスさん達には、その都市に入ってもらう予定だ。ここまでで何か質問はないか?」


 すると、ロドリスが手を上げ質問をしてきた。


 「場所から考えるに、私達が住んでいた村に場所が近いようですが。そこに都市を構える予定なのですか? しかし、そこだと、三万人という数の人を住まわせるのには適していないと思うのですが」


 その点はルドも分かっているようで、すぐに頷いた。


 「さすがに地元の人だからよく分かっているな。だから、もう少し拓けた場所を選んである。ロドリスさんの住んでいた村のやや東に移動したところだ。ロッシュ公は、農業を重視しておられる方だ。住むだけではなく、農地を大きく広げられる場所でなければならない。そして、砦に近い場所ということになる」


 ロドリスは考えるようにじっと目を閉じていた。そして、開くと再度ルドに質問をしていた。


 「確かにその場所は拓けていますが、低地のため氾濫が多いのです。私達の先祖も何度も居住を考えていましたが、何度耕作しても氾濫でついに断念して、今の場所に移った経緯があるのです。ですから、ロッシュ公に異を唱えるわけではありませんが、その場所での都市建設はおすすめできません」


 僕とルドは顔を合わせ、互いに頷いた。ここからは、村の技術に関わることなので、僕はルドに話す許可を与えたのだ。


 「ロドリスさん達には言うが、公国では短期間で氾濫を抑制する方法をあるんだ。それは、ロッシュ公の魔法で堤防を築く方法だ。村に行ってもらえば、全てが分かるはずだ。だから、氾濫の有無は土地を探す際に問題とはならないんだ」


 ロドリスは小さな声で信じられないと呟くだけだった。


 「それでしたら、あれほど素晴らしい土地はないでしょう。平地がどこまでも広がり、大きな川が何本も連なっており、農業には最適な場所でしょう。先祖が渇望していた土地に我らが住むことになるとはなにやら感慨深いものがあります。それで、我らはどういった仕事をすればいいのでしょう?」


 「それはこれから説明する予定だった。その前に、新たに作る都市とラエルの街の間に二つほど村を作るつもりだ。街と都市の中継的な役割だ。二千五百人程度の村だ。それをロドリスさん達亜人に入ってもらうつもりだ。その人数調整はこちらでやるつもりだが。気をつける点があれば、何でも言ってくれ」


 「もちろんですが、差し出がましいことを申しますが、私達は、違う村の出身者が寄り集まった集団ですから、村別に割り振ればいいのではないでしょうか? それでしたら、私共でもすぐに取り掛かることができますが」


 僕はなるべく従前の組織をそのまま継承するというは、したくないと思っている。権力構造をそのままにすれば、小さな村程度の組織では結局の所、柔軟性を欠いてしまう。そのため、なるべく、バラバラに散ってもらうことが好ましいと思っている。もちろん、家族や親族は一つの単位として考えるが。あとは微調整していけばいいだろう。


 僕はロドリスに考えを言うと、従いますとだけ言ってくれた。とりあえず、この話はこれで終わりだ。あとはいつから入植するかなど、細かい話がルドとゴーダ、そしてロドリスとの間で話し合いがなされ、夕方になってしまったので、ロドリス達には、ここで一泊してもらうことにした。言うまでもなく夕食を共に過ごし、その時、酒が振る舞われたが、ロドリスは狂喜乱舞して、大事そうに酒を飲んでいた。二人の亜人にはまだ口に合わなかったようだが、お菓子には食らいついていた。


 僕は、その日に屋敷に戻り、ルドとゴーダにその後の相談を任せることにした。


 「ロドリス。見送りは出来なさそうだが、無事に帰るのだぞ。公国は、ロドリス達を歓迎することを皆に伝えてくれ。これかは町や村づくりで大変なことを続くだろうが、皆が飢えに苦しまない世界を作るために共に頑張っていこう。それと、皆に少ないが土産を持って行かせよう。ロドリスは酒が気に入ったようだから、酒をもたせよう。二人には菓子がいいか? すぐに用意させよう。次に会うのは、春になるだろう。これからロドリスの力は必要となる。元気でいろよ」


 ロドリスは涙ぐみながら、ありがとうございますと何度もこぼしていた。二人の亜人も何度も頭を下げ、僕に感謝を告げていた。僕は、ルドに近づいた。


 「ロドリスには、春と言ったが必要とあれば、いつでも僕を頼ってくれ。特に堤防は、今は必要ないと思うが、知らない場所だけに何があるか分からない。とにかく、逐一、僕に知らせて欲しい。こっちは、魔の森の畑で作物ができ次第、そちらに順次送るように手配だけはしよう。よろしく頼むぞ」


 ルドは、もちろんだ、と小さな声で答えた。僕は、雪が降っていたが慣れた道を迷うことなく進み、村の屋敷に戻っていった。これで、しばらく時間が空いたと考えた僕は、ゴブリンの女王に会いに行こうと考えたのだ。宝石や貴金属を大量にもらっているお礼をしに行くついでに、ドワーフの居場所を聞き出すつもりだ。

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