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魔の森で畑作り

 僕は眠い目を擦りながら、エリスが出してくれる濃いめのコーヒーを飲んで、目を覚まそうとしている。王都?から戻ってから、一段と激しさを増したミヤ達の対応で、寝不足が深刻化している。なんとか自重してもらえるように家族会議を開かなくてはいけないな。これから、家族も増えることだし、子供の成長に影響があっては良くない。エリスに相談すると、すぐに協力してくれると力強い言葉をもらった。リードは残念ながら、もっと頑張ってくださいという始末。味方はエリスだけか……なんとか、説得を頑張ってみよう。


 僕はミヤを叩き起こし、寝ぼけたミヤをおんぶして、魔の森に向かった。村から畑の予定地は然程遠くない。ただ、道が悪いため、なかなか思う様に進むことが出来ない。ようやく起きたミヤに朝食のお弁当を渡し、食べている間にさっさと道を作っていく。道普請もお手の物で、すいすいと進んでいく。食料を大量に運べるように道は広めにしたいが、とりあえずは人が通れるだけで十分だから、速さ重視で道を固めていく。夢中でやっていたので、ミヤの存在をすっかり忘れていた。僕が振り返っても、ミヤの姿を見ることは出来なかった。まぁ、食事が終われば、追いつくだろうと思って、目的地まで道普請を休まずに進めていった。


 目的地に到達した頃に、ようやくミヤが追いついてきた。僕が戻らなかったのにかなりご立腹な様子だ。目的地ではすでに眷族達がテントを張って、待機していてくれた。もちろん、魔酒の用意もされていたので、さっきの不機嫌は何だったのだろうと思うくらい、ミヤは上機嫌となり、一人酒盛りを始めたのだ。こうなったら、放って置いても大丈夫だろう。


 畑の予定地を眺めると、土壁がところどころ壊れているところがあった。昨晩に魔獣に壊されたのだろうか? 今日から、フェンリルに警護を頼むから、被害は少なくなっていくだろうな。まずは、北の村側の方から始めていくことにした。土魔法で、土をひっくり返していく。草を抑制するためと土に空気を入れるためだ。土が柔らかいため、然程必要ではないかもしれないが、草の抑制をしておいたほうが、後々、草抜きの手間が減っていいだろう。


 僕が土をひっくり返している横で、眷族達が魔牛を引っ張り、耕し始めていた。村では、数頭もいれば十分に間にあうが、今回は急ぐため、魔牛は全頭出動で交代交代で隙間なく作業をしていく。そのおかげで、僕の土魔法で土をひっくり返す作業が、先行するようなことはなく、同じようなペースで畑が出来上がっていった。あとは、肥料を播いて、再び耕せば、畑の準備は完了だ。今回作った畑は、100メートル × 100メートルで1000枚分の面積になる。これだけの麦やジャガイモを作ることが出来れば、五万人以上の人を数カ月養うことが出来るだろう。種も大した量を使うわけではないから、食糧事情の影響は軽微だ。


 ここからは、僕の出番は少なく、魔牛に任せるところが大きくなる。その間に、壊れた土壁を補修しながら、補強も重ねて行っていく。ゆくゆくは、鉄を入れて、それなりの魔獣でなければ突破できないような壁にすることが出来れば、気軽に村人が耕作に来ることが出来るだろう。村では、冬場の仕事がないことが問題となっていたので、魔の森での農業が出来れば、その問題は一気に解決するのだが、果たして上手く行くか。


 畑の準備が終わったところから、種まきをすることが出来るのだが、僕が一度試してみたいことがあったのだ。これをやると、村人から仕事を奪ってしまうので、やらないことにしていたのだが、今回は特別にやってみてもいいだろう。僕は、今回は実験と割り切って、ちょっと特殊な方法で種まきをすることにした。


 それは、風魔法を使ってやるのだ。麦の種まきは、いつもなら溝を切って、そこに種を播いていって土をかぶせていくというものだが、実際、そんなことをしなくても良いのだ。それをやるのは、収穫時の手間を少しでも減らすための工夫だ。今回は、バラ播きをしようと思っている。これなら、風で種を飛ばし、一気に風で地面に叩きつければ、種に土をかぶせる手間も省ける。さっき、実験したら、耕していないところでやったら、見事に種は粉砕したが、耕しているところだと、きれいに潜ってくれて、種も無事だった。


 一枚の畑に三キログラムの麦を播いていく。これを風で宙に浮かせ、上から下に風圧をかけていくと、きれいに播くことが出来た。最初の畑は、播きムラがないか慎重に確認したが、特に問題はなさそうだ。試しにやってみたが、何という早さなんだ。魔法の有能性をまた再認識させられてしまったな。魔力もまだまだ十分にあるな。どんどんやっていこう。


 麦は900枚の畑を播く予定だが、その殆どが、一日で終わってしまった。村人総出でも、何日かかるか分からない作業を僕一人で一日で終わらせてしまったのか。しかし、どうしても作業が間に合わない時以外は使うのはやめよう。便利だが、種まきは農業の基本的な部分だ。これを僕だけでやってしまうと、村人の農業知識にムラが出来てしまう。それは望ましくない。僕の魔力も無限じゃないしな。


 ジャガイモだけは、村人に頼むとしよう。魔法を使ってやろうと思ったのだが、ジャガイモだけはどうしても上手くいかない。形の問題なのか、重量の問題なのか、植える深さの問題か? といろいろと考えて試行錯誤したが、どうしても上手くいかなった。麦とジャガイモで、魔法の可能性と限界を知ることとなったのだ。


 村人は明日からゴードンに連れてきてもらう予定だ。そのためにも、畑はきっちりと準備しておかなければならない。僕と眷属は、最後の一枚となるまで、気を抜くことなく作業を続け、日が暮れるまでには全てを終わらせることが出来た。朝から飲んでいたミヤも、ようやく満足したようで、すやすやと眠っていた。


 僕はククルを呼び出した。フェンリルの畑の警護について相談するためだ。


 「ロッシュ様、警護のことですよね? 今日から、ハヤブサとフェンリルをここに放牧しようと思っています。実験施設には戻しません。ここから実験施設まで距離があるので、警護するためには、ここに拠点を置くのが良いと思います。幸い、実験施設はまだ魔獣はフェンリルしかいませんから、一層のこと、こちらに移築するほうが良いと考えています。明日から、とりあえずフェンリルたちの獣舎を移築して、順次、小屋や柵を作っていこうと思っています」


 そこまで考えていたのか。しかし、今夜一晩だけとは言え、屋根なしはすこし可愛そうな気がするな。とりあえず、土の坑を掘って、そこで寝られるような場所を作ってやることにしよう。藁なら村に帰れば、いくらでもあるから、段々と良い寝床も作ってやれるな。ククルもそうしてくれると助かります、というので、すぐに坑を掘って、数頭ずつ入れるくらいの空間をいくつも作ってやった。なんでも、フェンリルは殆どが夫婦になっているらしいので、家みたいのを作ってやれば喜ぶだろうと思ったのだ。


 案の定、つがい同士で、坑の中の部屋に入っていったので、これで雨露は凌げるだろうと思い、ホッとした。ハヤブサには特別に、大きな個室を作ってやった。まだまだ、土だけの殺風景な風景だが、徐々に豪勢にしていってやろうと思う。なにせ、リーダーだからな。ハヤブサも喜んでくれたみたいだ。


 なんとか、形にはなったようだ。これで、麦が実ってくれれば……。僕は、酔っ払って起きる気配がないミヤをおんぶして、ゆっくりと屋敷への帰路についた。もちろん、ミヤの宴会は夜からまた始まるのだった……。

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