表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

167/411

合流

 公国軍三千人が、王都から十数キロ離れた場所で、救助隊が来るのを待つことにした。予定通りに事が進んでいれば、今日明日には救援隊が到着するはずである。僕はライルに、斥候を放ち、周囲を探るように指示を飛ばしたが、すでにライルは多くの斥候を放ったあとだった。それはそうか……。


 ここからは、いつ敵が現れてもおかしくない場所だ。王都から距離があるとは言え、王国の勢力圏内にいることは確実なのだから。僕は道中のことを思い出していた。どうも腑に落ちないことがある。それは、ここまで一人も人を見かけなかったことだ。村や町の形跡はいくつも見かけたにも拘わらずだ。ということは、もしかして、僕達は誘い込まれたのではないだろうか、と考えてしまったのだ。


 ライルに僕の考えていることを聞くと、ライルは腕を組み、じっと考えていた。しかし、結論は、多分大丈夫だろうというのだ。


 「ロッシュ公の考え通りなら、オレ達は袋のネズミだ。そうなったら、勝ち目はかなり薄くなる。正直言って、クロスボウを装備した三千人の兵と言っても、王国騎士団とは数が圧倒的に違う。しかも、白兵戦となれば、手も足も出ないだろうな。だが、それは考えにくいな。オレが以前王都に行ったときには、既にこの街道の街と村は空っぽだった。おそらく、町や村に住んでいたのは亜人だったんだろうな。町や村の貧しさはかなりのものだったからな。となると、考えられるのは、王都に連行されたからと考えるのが素直だと思うぜ」


 なるほど。急に変化したのなら疑わしいが、以前からだったとしたら合点がいく。僕はほっと安心をしたが、ライルは未だ怖い顔を続けていた。


 「だが、ロッシュ公の考えが当たっているなら、敵ながら見事な作戦だ。こういうことに高を括るって痛い目にあうのは面白くねぇな。とりあえず、オレらの周辺にも斥候を送ろう。兵がかなり減ってしまうが、囲まれたあとでは遅いからな。また、何かあったら報告するぜ」


 ライルと別れ、僕は陣中を歩き、皆の様子を見て回ることにした。ライルが日頃鍛えている兵たちは、落ち着いており、武器の手入れや食事などをして時間を費やしていた。ふむ、以前に比べると体も大きなっている気がするし、なによりも戦場だと言うのにこの落ち着きは大したものだ。今度、ライルの訓練を一度見てみたいものだな。


 すぐ近くでは、レントーク王国の元兵達がいたが、彼らは戦いの前に怯えている様子はなく、戦意は高そうだが、いささか興奮がしているようだった。同僚と話をしているのが聞こえたが、同胞の恨みを王国兵士を八つ裂きにすることで晴らすと叫んでいた。その周りにいた亜人たちも同様な感じで、少し危なっかしさを感じた。僕は、クレイのところに赴き、亜人達の様子を伝え、僕の危惧を伝えた。


 「ロッシュ様、彼らを許してやってもらえないでしょうか。彼らは、怖いのだ。王都で奴隷として一時でも過ごせば、恐怖が身に刻まれるのです。それを隠すために、大声を上げ、虚勢を張っているのです。彼らは、ロッシュ様に大きな恩を感じていますから、決して、暴挙に出て、ロッシュ様を失望させるような真似はしないはずです。ですから、ご理解をお願いします」


 それほど、王都での奴隷生活というのは過酷なものなのか。僕には全く想像がつかないが、クレイが言っているのだから疑う余地はないな。ふむ、ならばこの戦でその恐怖が克服できるといいな、と言うと、クレイは私もそれを望みます、と静かに答えた。僕はクレイの下を離れた


 とりあえず、救助隊と合流するまでは、このまま待機だ。僕は自分のテントに向かい、時間を潰すことにした。といってもやることはないので、横になって、この戦の展望を頭の中で思い描くだけだった。それも数分のことで、すぐに眠りに落ちてしまった。どれくらい経っただろうか、僕を起こす声が聞こえる。この声は……ミヤか。ミヤが起こしに来るなんて、珍しいこともあるものだな。と、ぽーっとミヤを見ていると、手をつねられた。


 僕が、何するんだよ!! というと、ミヤは、寝ぼけてないで!! と怒鳴り返されてしまった。そうだ、ここは王都の近くではないか。完全に、屋敷にいる気分だった。僕はミヤに謝り、要件を聞いた。すると、ちょっと待って、と言ってテントを出ると、ライルが入ってきた。


 「ロッシュ公。斥候からの報告だ。敵に動きがあったぜ。北門からかなりの人数の兵が北に向かっていったって報告だ。ガムド子爵が上手く動いてくれているみたいだ。それと、救助隊がその動きに乗じて、王都を脱出したそうだ。今、こっちに向かっている頃だろう。それと、亜人たちも動きを開始したみたいだが、こっちは動きが遅く、到着が遅れる見通しだ。向こうには指揮するものがいないから無理もないが」


 ついに動き出したか。こっちへの到着は日をまたぐ頃になるだろうな。幸い、今夜は月が明るい。逃走するにはうってつけの夜だ。しかし、救助隊はともかく、亜人達の動きが遅いのが気になるな。上手くいっているところに水を差さないか心配だ。僕はライルにレントーク王国の亜人の内、一部を割いて、亜人達の誘導をしてもらうことを提案した。レントーク王国出身のもののほうが、話は早くまとまるだろうからな。


 これには、ライルは難色を示した。やはり、ライルもレントーク兵の暴挙を危惧しているようだ。僕は、クレイの言葉を信じ、ライルを説得し、なんとか、ライルの部下を数人つけることを条件に了承してくれた。僕は、すぐにクレイを呼び出し、亜人達の誘導を速やかに行うように指示を出した。これには、クレイは喜び、私が行くと言って聞かなかった。周りは反対していたが、僕は賛成することにした。危険は重々承知だが、時間との勝負であることを考えると、クレイがもっとも適任だ。残りのレントーク兵はクレイの付き人のドゥアに後を任せることになった。


 クレイは数人の部下とライルの部下を引き連れ、亜人のもとに急行した。これで、幾分早くこちらに到着するだろう。こちらも準備をしなければな。急な状況に対処するため、千人のクロスボウ隊を王都側の方に配置させ、残りの者達で、この場を撤収する作業に取り掛かった。武器や食料を各々に携帯させ、その他を荷車に積んでいく。最悪のことを考え、放棄しても良いものとそうでないものを区別することにした。こうすれば、荷車を敵の足止めに使うことも出来るだろう。


 僕らの撤収の準備を終わり、救助隊を待つだけとなった。すると、ライルがこちらに走ってきた。


 「ロッシュ公。敵が動き出した。救助隊に向かって、追手を差し向けたぞ。数は百名程だ。救助隊は妻子を連れているから、追いつかれるのは時間の問題だろう。くそっ、思ったより早すぎだ。クレイ様とはまだ連絡はつかねえ。どうする? こっちから迎えに行くか?」


 選択肢はないな。荷車を先に公国に向け、出発を開始してもらい、僕達はすぐに救助隊の応援に駆けつけることにした。救助隊とは目と鼻の先にいるはずだ。僕達は、急ぎ向かっても、救助隊を発見することが出来ない。どこかですれ違ってしまったか? いや、ここは一本道だ。すると、救助隊を探しているもう一つの団体を発見した。王国兵だ。どうやら、向こうはまだ気付いていないようだ。


 「ライル。追っ手はあいつらだけか?」


 僕の問いにライルは頷いて返した。ならば、ここで足止めをしてもらうしかないな。僕はライルに王国兵をクロスボウで狙撃することを命じた。とにかく、奴らを一人でも王国に帰すわけにはいかない。帰せば、応援を呼ばれ、それだけ逃走が困難になるからだ。ライルは、クロスボウ隊千人に命じ、百人の王国兵を狙撃した。夜陰にも拘わらず、狙撃は見事に成功し、百人の王国兵は一瞬にして沈黙した。


 王国兵に近づき、息が絶えていることを確認すると、すぐに来た道を引き返すことにした。王国兵がここにいるということは、救助隊は先に行っているはずだ。しかし、救助隊とはすぐに合流することが出来た。どうやら、岩陰にずっと身を潜めていたというのだ。僕達の存在を確認できなかったので、表に出てこれなかったというのだ。とても正しい判断だ。


 僕は、救助隊が連れてきた者に挨拶をしようとした。救助隊が僕の前に連れてきたのは三人。三人? ガムド子爵の妻子だけではないのか? この男は一体。救助隊の隊長が僕に紹介をしてきた。


 「こちらは、ガムド子爵の奥方と息女でございます。そして、もう一方は、ルドベック様の弟君、第二王子様です。妻子救助の際、大いに助けてもらいました。第二王子がいなければ、作戦を危うかったでしょう」


 第二王子? 死んだと聞いていたが。僕が、妻子に挨拶を交わし、第二王子というものにも声をかけた。


 「僕はロッシュだ。第二王子は、亡くなったと聞いていたので驚いている。それにしても、妻子救助の際、協力してくれたことには感謝しよう。第二王子は、これからどうするつもりなのだ? 公国に来るというのなら、我らとこれから王国相手に逃げねばならないが」


 「公国? 辺境伯風情が偉くなったものだな。まぁ、妻子を助けたのも何かの縁だ。王都にも興味はないしな。オレも一緒に行ってやろう。精々、私を守ることだな。それと、オレの身の回りを世話する女はいないか? いないなら、子爵の女にやらせるが」


 なんだ、こいつは。これほど、無礼なやつに会ったのはいつぶりだ? しかし、子爵の妻子を救助に協力してくれたものを無下にするわけにも行くまい。それに、言動がおかしくとも第二王子だ。ここに捨てていくわけにもいなないだろう。しかし、相手にするのが億劫だ。


 「ならば、公国へ案内しよう。第二王子。それと、女はやれない。そんな余裕などないからな。第二王子は武器は使えるのか? 使えないならば、妻子と共にいろ。それと、今後、僕の言うことに従わなければ、いつでも放り出されると思っておけ」


 第二王子は明らかに不満な顔をしていたが、ここで荒立てることは良くないと思えるほどの分別はあるようだ。大人しく妻子の側に戻っていった。


 「オレのことは特別に、ガドートスと呼んでもいいぞ。辺境伯」


 厄介そうなやつが加わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ