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救援の準備

 軍の編成をライルに、物資等についてはゴードンに任せ、僕は村に戻ることにした。今回の準備をするためだ。必要な武器や物資はあらかた用意できるだろうが、正攻法に過ぎると感じていたのだ。クロスボウを主力にするのはいいが、やはり接近戦に持ち込まれた場合、こちらの不利は決定的だ。向こうの戦力は不明だが、王国最強と名高い王国騎士団や王弟直下の近衛兵などが相手となると、少しでもいい加減に事を進めるわけにはいかない。特に、今回は防御となる壁が存在しないのだ。そうなると、大事なのは、相手の不意を着く戦法になってくると思っている。そんな戦法を実現させるのが得意な者が村にいる。


 僕は屋敷に戻り、今回の作戦について、言える範囲で皆に伝えた。そして、僕の意志を皆に伝えることにした。


 「僕もこの救出隊の支援軍に参加しようと思っている。今回は、王国軍と白兵戦に展開する恐れがある。そうなれば、怪我人も続出するだろう。僕の回復魔法が役に立つと思う。それに、救出の成否によっては、ガムド子爵やクレイ達亜人の公国への態度が変わるやもしれない。それほど大事な作戦となるのだ。だから、皆にはまた心配をかけるが、僕が戦場に出向くことを許して欲しい」


 まず、声を出したのはミヤだった。


 「ロッシュがどんな選択をしようとも私は賛成してあげるわ。だけど、貴方の身を守るのは私よ。眷族たちもそれはよく分かってるはずよ。だから、おもいっきり、暴れてもいいわよ。貴方を傷つけるものがいたら、私達が後悔させるんだから」


 相変わらず頼もしい。ミヤがいれば、僕の身の安全は保証されたも等しい。戦場において、これ程心強いこともないだろうな。僕は、ミヤにありがとう、というとミヤは恥ずかしさを隠すためか、ふいっと顔を逸した。次にマグ姉だ。


 「どうせ、私達が反対してもロッシュはいくんでしょ。だったら、必ず成功させてきなさい。公国の未来がかかっているなら尚更よ。心配だけど、公国の主として、立派に振る舞っている貴方を見ているととても誇らしい気持ちになるわ」


 マグ姉が反対してきた時、一番厄介な相手だっただけに、拍子抜けしてしまった。やはり、王族というは、考え方が違うようだな。僕はマグ姉への認識を少し改めることにした。本人は否定していても、やはり国を治める王族なんだと。エリスは、どうだろうか。僕はエリスの顔を見ると、目があった。服をぎゅっと握っている。


 「ロッシュ様が戦場に出てしまうのは、とても心配です。だから、行かないでほしいと思っています……けど、苦しんでいる亜人を救い出せるのは、この世界ではロッシュ様しかいないと思っています。だから、救ってあげてください」


 エリスが頭を下げて、お願いしてきた。僕は公国の利害を大事にしていたが、エリスは純粋に自分と同じ亜人、それも苦しい境遇である亜人を救ってほしいという思いを持っていた。僕はエリスの言葉が、ずんと重く心に響いた。僕は、大事なことを見落としていた。僕は、何のために世界に来たのか忘れかけていた。ガムド妻子、レントーク王国の亜人だけではない、苦しんでいるものを救うという気持ちでなければならなかったのだ。僕はエリスの手を握った。


 「エリス、大事なことを思い出させてくれてありがとう。きっと、苦しんでいる亜人を救ってみるよ。今回がダメでも必ずいつか。僕はそのためにもっともっと強くなる。国を大きくする。皆を豊かにする。そして、亜人も人間も魔族も皆が飢えに苦しまない、そんな国を作り上げてみせる!!」


 エリスは、ポロッと涙を流しながら、お願いします、と小さな声で懇願してきた。マグ姉は、小さく拍手をして、すばらしいわ、と声を上げていた。リードは、結構淡白だった。


 「ロッシュ殿、親に会えずに育つ子供がかわいそうなので、生き残ってきてくださいね。それと、いつか巨大な食料保存庫を作るんですから、今は死ぬときじゃないですよ」


 うん、そうだね。何も言うことはないな。巨大な食料保存庫を作るってことは、ドラゴンと戦うってことだろ? そっちの方が危険なんじゃないか? まぁ、リードにはドラゴンのこと言ってないから、純粋に家具への探求心というだけか。僕は、頷き、最後はシェラか。シェラの顔を見ると、眠そうな顔をしている。さっき、起こされていたからな。女神という種族は、一日中寝ているのだろうか? いつか、神というのにお目にかかったら、聞いてみたいものだ。神はずっと寝ていられるのですか? と。なんて答えてくれるだろうか。など、下らないことをシェラの顔を見ながら考えていると、シェラもこちらをずっと何も言わずに見つめていた。


 「旦那様。私をすこし馬鹿にしたような目で見てませんでした? まぁ、私は寛大ですから、許しますけど。それと、私もその、なんたらに同行します。回復魔法も使えますし、いいでしょ?」


 なんたら、ってなんだよ。絶対、話し聞いてなかっただろ。シェラの言う通り、回復魔法はたしかに魅力的だが、個人的戦闘力のないシェラを戦場に連れていくのは危険過ぎる。僕は反対をした。すると、急にシェラが駄々をこね始めた。僕と離れ離れになるのは嫌だというのだ。それに対して、僕は、散々家に引き篭もって、僕と行動をともにしなかっただろ? というと、長時間離れるのとは意味が違うという謎理論を展開しだした。とりあえず、僕の側にいたいという気持ちは本当なんだろうということだけは伝わってきた。しかしなぁ……と思っているとミヤがため息混じりに、私と眷族でシェラも守ってあげるわ、と言うと、シェラはミヤに抱きつかんばかりに近づき、喜びを顕にしていた。


 結局は、僕、ミヤと眷族、そして、シェラが今回の作戦に同行することになった。マグ姉には、少ない時間ながらも薬の製造をお願いし、僕は、スタシャの屋敷に向かうおうとした。僕が玄関を出ると、ホムンクルスのアルビノが玄関前で突っ立ていた。本当に、何をするでもなく突っ立っているのだ。僕は疑問に思い、近づくと、アルビノはこちらを見て、一言、スタシャ様がお待ちです、と言ってきた。僕もスタシャの下に行くつもりだと言うと、では一緒に、と言って僕の後ろにピッタリと付いて来た。


 アルビノが、触るか触らないかの微妙に気持ち悪い距離を保ちながら歩くのを僕は耐えながら、スタシャのいる錬金工房に向かっていった。スタシャはいつものように、テーブルに着き、優雅に紅茶を飲んでいた。僕と目があると、口元をニヤッとさせて、ゆっくりとカップをテーブルに置いた。


 「早かったな。呼びに行って、すぐに来るとは。さては、私によっぽど会いたかったのだな。よしよし、あとで抱きついてやろう」


 最近、スタシャとの距離感がどうも測りづらい。親しくなりたいのか、そうではないのか、はっきりして欲しいところだ。とりあえず、近頃はかなり協力的だから、優しくしておいて損はないだろう。僕は、スタシャの頭に手を乗せ、髪の上で手を滑らせた。しかし、僕の手は、スタシャに払いのけられた。


 「何をしているんだ。馴れ馴れしい。私は、少しロッシュを甘やかしてしまったようだな。いいか? 私がやるのはいいが、お前からはダメだ。それが、私とお前との関係だ。これをしっかりと頭に入れておけよ」


 なんだろう。すごく腹立たしいことを言われているのに、子供の容姿だと可愛げのある言葉に聞こえてしまう。僕は、自然と笑顔となり、はいはい、とスタシャの言葉にいちいち相槌を射った。


 「くっ……なにやら、馬鹿にされている気がするが。まぁ、いい。今回呼んだのは他でもない。また、王国とやりあうんだろ? 私にも協力させてくれ」


 どうして、それを知っているんだ? まだ、一部の人にしか知らせてないはずだが。


 「僕もその件でスタシャに頼もうとしていたのだ。それで、錬金工房に行こうとしたところで、アルビノに出くわしたんだ。それで、王国軍になにか、不意を突くようなものがないかを聞きに来たんだ」


 「うむ。私にそれを聞きに来るとは成長したではないか!! 私はとても嬉しいぞ。ぜひ協力させてもらおう。奴らが、村に攻めてこなかったから何も出来なかったからな。とびっきりの物をお前にくれてやる。付いてこい」


 僕は、スタシャの後を付いていき、倉庫に向かった。倉庫は相変わらず、山のように何かが積み上がっていた。見るからに怪しいものばかりで、瓶詰めの動物などもあって、とても長居したいとは思えない場所だ。倉庫の一角に向かうと、そこにも色々なものが積まれていた。スタシャが、山の中から取り出してきて、僕に手渡してきた。僕がそれを見ていると、また、スタシャは山の中の物色を始めた。そうやって、僕の手には収まりきれないほどの物が積まれていた。


 僕はそっと、それを地面に置いて、観察していたが、よく分からない。玉やら矢というのは分かるが、この瓶の中身は何だ? 考えていると、スタシャがしゃがみこんで、一つを指差した。輪っか? みたいな形状のものだ。スタシャが言うには、剣に装着すると、刃に稲妻を帯び、触っただけで感電してしまうというものらしい。おお、これは素晴らしいな。これなら、接近戦でも相手を怯ませて、戦意喪失状態まで持っていけそうだ。


 次は、瓶か。なるほど、この瓶を割ると煙が出るというものか。いわゆる煙幕というやつだな。なるほど、これを使えば、逃げる時間を稼げるだろう。ん? 違う? しびれガスだと? これを吸うと、一定時間、体の自由を奪ってしまうというのか。なんと、恐ろしい。これはもう戦場の状況を一変させるものではないか? そんなことはないだと? 効果が狭いため、集団にならないと効果が薄いというわけか。なるほど、一長一短というわけか。


 どんどん行こう。二本の矢だな。色が違うだけで形状は同じように見える。ふむ、一本はあらゆるものを貫通する矢で、もう一本は閃光を起こす矢か。なるほど、どちらもすごそうだな。貫通はなんとなく分かるが、閃光とは。なるほど、上空目掛けて放つと、閃光の光で目が眩むと。特に夜間の使用が効果的なのか。これも使い方では、相手を怯ませることができそうだ。


 最後は、玉だな。これは、一体。ほう、玉に魔力を込めると、幻影が起こると。幻影? 巨大な僕が映し出されるようだ。これは、祭り用に開発したが、あまりに魔力を消耗するからお蔵入りになっていたらしい。今回の戦で、僕を大々的に宣伝することが大事だとスタシャは興奮していたが、これは使わないようにしよう。そもそも、宣伝のために貴重な魔力を使いたくないし、多分、これ使うと、僕は気絶すると思う。


 とりあえず、使えるものを荷車に詰め込み、アルビノに屋敷まで運び込んでもらうことにした。スタシャには、オリハルコンのかけらを褒美に与え、錬金工房を後にした。これで、準備が整った。


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