参謀の処分
会議をしていた部屋には、僕とルド、それにゴードンだけが残っていた。クレイには、付き人のドゥアと共に亜人達の下に行ってもらい今回の会議の結果を伝えてもらうことにした。クレイには僕が後でそちらに向かうことを伝えておいた。ミヤとマグ姉には、僕が街での用事が終わるまで、待機してもらうことにした。
「さて、ルド。参謀の処分について決めたいのだが、意見を聞かせてもらえないか? それと、ここでは僕達しかいない。いつも通りで構わないぞ」
「そうだな。ロッシュもこの戦で随分と主としての風格が出てきて嬉しい限りだよ。まずは、今回の戦についてだが、公国にはまだ法律がないが、王国の法律に照らせば、今回は戦争という形態ではない。すなわち、身柄を確保した者について保護を必要としないから、こちらのルールで処罰してもいいだろう。王国も文句は出せないはずだ。もっとも、王国から参謀の身柄の引き渡しを要求してきていないから、向こうも参謀を捨てているのだろうが」
ふむ。さすがはルドだ。王国の法律に明るい者がいると心強い。まだ、僕達の勢力は王国に比べれば弱小だ。この参謀の処分が再び戦乱のきっかけにならないことだけが今は重要だ。かといって、参謀を釈放するということは考えることはできない。参謀によって、こちらは略奪の限りを尽くされる危険に晒されてしまったのだから。僕はふと思いついたことをルドに言ってみた。
「今回の参謀の件だが、戦に関することで罰を与えるのではなく、前回の食料強奪のときの罪で攻めたらどうだろうか? そうであれば、王国とて文句は出しにくいのではないか? もっと言えば、参謀としてではなく、ただの盗賊の一味ということにすれば、知らぬ存ぜぬを通すこともできそうだが」
「ロッシュ、考えたな。法律的にはこちらに分があっても、まだ王国の権威は強い。こちらにどんな言いがかりを付けてくるか分からなかったのが、ずっと悩みだった。そうだな。前のことで責任を追求すれば、王国には何ら関わりがなくなってくるな。それに、前回のことでも十分、大きな罪を問うことは出来るだろう」
僕は、前回の一件について、王国の法律ではどのような罪が適用されるのか聞いた所、ルドはあっさりと答えた。死刑だと。食料の強奪だけでも重罪には問えるが死刑とまではいかないが、領主に対して魔法を使用するのは、結果はどうあれ死刑になるというのが王国法だ。
ルドの話を聞いて、ゴードンも参謀を死刑にすることに異論を唱えることはなかったが、死刑の方法に関心があったようだ。
「ルドさんに伺いたいのですが、王都ではどのように死刑をなされているのですか?」
「ふむ。死刑の方法は色々とあるそうだ。実は、王都では表立って処刑というのはせず、獄中で行われることがほとんどだ。だから、王都の民達は処刑が行わたことさえ知らないでいる。僕も一度だけ見たことがあるが、それは薬で命を奪うという方法だったな」
ゴードンは初めて聞く話に興味津々と言った様子だ。それから、ゴードンから色々と質問がなされ、ルドはそれにいちいち自分の思いだせる範囲で答えていた。ただ、少し話が脱線しだしている気がしたので、僕は話を戻すことにした。
「なあ、ロッシュ。あのハイエルフに頼めないか? 参謀を死ぬまでエルフの里に閉じ込めることはできないだろうか? 処刑することは容易いことだが、参謀には苦しみを味わってもらいたいのだ。どうだろうか?」
僕は参謀に関してはルドの思い通りにしてやりたいと以前から思っていたので、ハイエルフのリリに打診をすることだけを約束した。ん? ということは、参謀については対外的にはどうするんだ? あ、逃げたことにするってことなのね。まぁ、エルフの存在を明るみにすることはできないから、それが妥当か。
しかし、ルドが途中から急に考えを変えたよう見えたような気がしたが。
「私は、最初は処刑することが最善だと思っていた。しかし、ゴードンさんと話をしていて思ったのだ。私は王国のルールに縛られ過ぎなのではないかと。ロッシュが作ったこの公国で、新しい方法があってもいいのではないかと思ったのだ。それで思いついたのがエルフの里だ。そう思ったら、急にその考えが面白くなってな。魔の森に閉じ込められる刑など、この公国ならではという感じがするだろ?」
ふむ。たしかに、ここでしかできない処刑の方法だ。魔の森からは人間だけで抜け出すことは相当困難だ。ましてや、エルフの里に閉じ込められたら尚更だ。ルドもすっかり、この公国の住民になってしまったな。いや、ルドはこの公国を誕生させた一番の立役者なのだから当然か。むしろ、僕のほうがまだ公国と言うのにまだ馴染めていないな。
僕は、部屋の外で待機している自警団の団員にミヤとその眷族を呼んでもらうことにした。どうやら会議室近くの部屋にいたようですぐにやってきてくれた。眷族だけだったけど。ミヤはどうしたのかと聞くと、眷族はすごく答えづらそうにしていた。まさか……。眷族はコクリと頷き、ああ、またか。どうやら、マグ姉と酒盛りが始まっていたようだ。あの二人はどうして、暇があると酒ばっかり飲んでいるんだ?
僕は眷族に参謀の処分について説明し、ハイエルフのリリにこのことを伝えてもらうために使者となってもらいたいと頼むと、すぐに了解して、出発していった。そういえば、エリスが弁当と一緒にお菓子を入れていてくれたな。大した量ではないが、持っていってもらおう。少しはリリの機嫌が良くなるかな?
とりあえず、参謀の処分についての話は終わり、僕達は、クレイのもとに行くことにした。街の外に出ると、テント街が出来ており、その中心に大きな人だかりが出来ていた。どうやら、そこにクレイがいるようだ。僕達が、人だかりに近づくと、亜人達が僕達の存在に気付いたのか、中心に向かう道が自然と出来上がった。さすがは兵として戦に出た人達だ。こういう動きに無駄がない。
クレアとドゥアの姿が見えた。二人を囲むように数人がいて、さらにそれらの者を大きく亜人達が取り巻いていた。その数人というのが、亜人の軍隊の指揮官か何かなんだろうな。僕の存在に気付いた、クレアが臣下の礼を取るかのように膝を折り、僕の前に跪いた。続いて、ドゥアも続き、その数人も不承不承と言った様子で続けた。その光景を見た、周りの亜人達にざわめきが起きていた。僕にはこの状況が理解することが出来なかった。すると、ルドが、小さな声で亜人達に挨拶をと耳元で囁いたので、僕は手を上げると、歓声が上がった。
「クレイとその余の者達、頭を上げてくれ。これでは話が出来まい。まずは話が出来る場所に移動しようではないか」
僕がそう言うと、クレイは何を思ったのか、ここで話し合いをしませんか、と提案してきた。僕はこの群衆の真っ只中では、緊張してしまいそうだが、僕は了承した。クレイとしては、亜人達に僕の姿を見せたいということなのだろうか。
すぐにテーブルと椅子が持ち込まれ、僕とルド、ゴードンにクレイ、ドゥアと四人の戦士? でテーブルを囲むことにした。着席しているのは、僕とクレイのみだ。僕は他の人に座るように促したのだが断られてしまった。今の状況をクレイに説明してもらうことにした。
「ロッシュ公。ご足労痛み入ります。まずは、ここにいる者達に貴重な食料を分けていただきまして、皆を代表してお礼を申し上げます。すでに先程の会議の内容については、ここにいるすべての者から同意を得ておりますので、お命じいただければ、すぐにでも新村の候補地に出発できます」
「君たちは既に公国の民なのだ。食料を分け与えるのは主として当たり前のこと。気にすることはない」
僕の言葉に周りからどよめきのような声が聞こえた。戦士? と見られる男からは、大粒の涙が流れていた。さすがは姫の旦那となるお方だ!! と叫んでいた。それに呼応するかの様に、周りも叫び声が起こった。随分と篤いお国柄なのだな。ゴードンは一歩前に出て、声を上げた。
「出発は明日の早朝にいたします。今夜は十分に英気を養って、明日に挑んでください。ロッシュ公よりわずかばかりですが、酒を皆に振る舞えと指示を頂いております。明日に影響しないようにですが、我が公国自慢の酒を楽しんでいただきたい」
再び大きな喝采が起こった。クレイも皆の喝采を聞いて、ご満悦のようだ。僕に何度もぺこぺことお礼を言っていた。これで、酒の在庫は随分となくなるだろうな。酒造責任者のスイからは在庫をなくしてほしいとお願いされていたからな。
僕達とクレイは再び街の方に戻ることにした。亜人達は今夜は酒を飲んで、大いに盛り上がることだろう。実は僕も参加したかったが、屋敷でエリス達が待っているので、早く帰ることにした。ゴードンもそわそわとしていたから僕と同じ気持ちなのだろうな。でも、ゴードンなら参加してもいいんじゃないかと思ったが、明日の準備でとてもそんな時間はないそうだ。そういえば、と思い、僕はゴードンに今回の戦勝を祝って祭りをしないかと提案すると、気色を浮かせた。
「よくぞ。お気づきになってくれました!! すぐに準備を進めましょう。今回、新住民となった方も多い。ここは祭りで公国の素晴らしさを大いに伝えましょう。これは忙しくなりそうですな。私は一足先に戻ります」
そういって、足早に街の方に向かっていった。クレイはゴードンのはしゃぎぶりに呆気を取られていたようだ。どうやら、ゴードンを少し恐れていたようで、随分とイメージが変わったと喜んでいた。




