王国からの侵略 第一次攻防戦②
「そうね。相手の戦力次第と言ったところなんだけど、魔力を持たない相手だったら、眷族一人で一度に十人でも簡単に相手が出来るわ。そういう意味では、数千人程度でも相手に出来るわ。もちろん、こちらは無傷でね。ただ、言っておくけど、私達はロッシュの護衛を主とさせてもらうわ。それだけは譲るつもりはないから。私にとって、この村は大事な場所よ。けど、ロッシュの命よりは軽いの。眷族達もそのつもりで行動させるからね」
ミヤの言葉に声が出なかった。皆も同様のようだ。魔族だから僕達との価値観が違うのは仕方がないことだ。戦力として評価するのは難しくなったため、ライルは少し不満そうだった。ただ、僕個人としてはミヤの言葉がすごく嬉しかったし、すぐにでも抱きしめたい気持ちになった。
「ミヤの気持ちを尊重しよう。ライルも良いな? とにかく、現状でその大軍に対処しなければならないということがわかっただけでも良しとしよう。僕は、これから急ぎ街に赴き、壁を建設する。時間を考えれば、市街地を囲む壁だけで精一杯だろう。最悪、街の畑は放棄しなければならないな。とにかく、優先されるべきは、住民の命だ。全てを捨てても、これだけは守らなければならない。それを頭に置いて、皆行動をして欲しい」
ここで、ようやくルドが遅れてやってきた。マリーヌも一緒のようだ。ここまでの話をゴードンが説明し、ライルが補足して、ルドに理解をさせた。
「ロッシュ。今回の大軍は王国軍だと聞く。私が王弟を抑えることができていたならば、このような事態にはならなかっただろう。詫びのしようもない。本当にすまなかった」
僕はルドの肩に手をやったはいいが、言葉が出てこない。一言、気にするな、という言葉だけをかけた。この状況は、誰の責任でもない。もしあるとすれば、この村をここまで豊かにした僕にも責任があるということになる。僕は今回の状況で誰に責任があるかなんて、考えたくもなかった。
「ルド。今考えるべきは、王国軍に対処することだ。いいか? 街が今回の戦の最前線となる。そのための防備を固めるために、僕は全力を尽くすつもりだ。そのためには、準備の指揮を取る者が必要となる。それを君に任せたいと思っている。全体を俯瞰して、敵と遭遇するまでに準備をできるだけ万端に整えるのだ」
「私が指揮を……?」
少し考えたが、僕がもう一度頼むと、了承した。
「いいか? 僕が壁の設置が終わるまでは、ルドをリーダーとして接するように」
僕がそういうと、皆が頷いた。ミヤだけはそっぽを向いていたが。ルドが僕にお願いをしてきた。
「ロッシュ。いや、この戦が終わるまではロッシュ公と呼ばせてもらいます。皆もこれを徹底して欲しい。これは、公国の初めての戦になるやもしれない。内外にもそれを示すためにも、ロッシュ公を全面に出すつもりだ。ロッシュ公もそれでよろしいですね?」
それで、戦がすこしでも公国に有利に働くならば……僕は頷いた。すると、皆口々にロッシュ公と呟いていた。ルドは更に言葉を続けた。
「それでもロッシュ公。不肖ながら私がロッシュ公の代理を勤めさせてもらいます。それで役割を決めていただきたのです。軍と兵站の指揮者を決めてください」
それは決まっている。僕は、軍の指揮者としてライルを、兵站をゴードンに頼んだ。1000人の兵をライルの指揮下に置き、ゴードンの下には新たに輸送隊を組織してもらうことにした。荷車の量も少ないので、人力で運ぶことになるだろうから、村人総出で当たらなければならないだろうな。
「ゴードン、とにかく、街と村の間にある壁にとにかく物資を集めてくれ。それと、街の方に壁を設置するための鉄を大量に輸送してくれ。分厚い鉄で相手を絶対に通さない壁を作るつもりだからな」
僕はマグ姉に薬、特に傷薬を大量に作ってもらうことにした。シェラは僕以外で唯一、回復魔法が使えるので、街に臨時で設置する診療所を任せる事を告げ、ミヤには、眷族を全員引き連れて、僕と共に行動することを頼んだ。エリスとリードには、体のこともあるから屋敷に残ってもううことにした。最初は抵抗していたが、なんとか説得をして、分かってもらえば。
ふと、リードを見て、エルフに援軍を頼めないかを聞いたが、エルフの里は人間界には不介入を貫いているので無理だと言われた。でも、最悪、エルフの里は、僕を受け入れることは出来るでしょうと言っていた。
これで、後はルドに任せておけばいいだろう。村のことはゴードンが一番熟知しているだろうし、兵の扱いはライルに任せておけば安心だ。僕は、シェラと共に街に急ぐことにした。一刻も早く、壁を設置しなければならない。僕は、ルド、ライル、ゴードンの肩を叩き、頼んだぞ、と声をかけた。エリスとリードを抱きしめ、行ってくると言った。
ミヤは眷族を連れてあとで街に行くと言って、屋敷をすぐに飛び出していった。僕とシェラは、馬に乗り街に駆け出した。シェラは僕の背中に抱きつき、話しかけてきた。
「私はもはやこの世界の女神ではありませんから、今回の戦は旦那様に全力で応援します。でも、複雑な気分ですね。この世界の人々はこれ以上ないほど争ったと言うのに、なぜやめることができないのしょうか。私は、旦那様をこの世界に送り、争いで疲弊した人々を救えるものだと本気で信じていたんだですよ。私の行動は全て無意味だったのではないかと思い始めました」
「僕は女神の行動について、何も分からないけど、シェラの行動は決して無意味だとは思わないぞ。農業をしているとな、良い結果のときもあれば、悪い結果になることもあるんだ。良い結果になるに越したことはないが、悪い結果でも得るものが多いから、決して経験をして無駄ということはないんだ。でもな、一番の無駄は、種まきの労力を惜しむことだ。それからは何も生まれないんだ。だから、行動したことが決して無意味ということは絶対にない。そうやって、僕達、人は成長していけるんだ」
シェラは僕の背中でありがとう、と言って強く抱きしめてきた。少し苦しかったが、いい感触が……などと思うゆとりは今日はなかった。街に到着し、僕は建築材の保管庫にまず向かった。ここには、木材の他、鉄が大量に備蓄されているのだ。ゴードンが鉄を手配している間にも、できるだけ壁の設置は進めたい。保管庫には、思ったより鉄の備蓄がされていた。すると、保管庫の管理をしている者が僕達を怪しんだのか、声をかけてきた。
「おい、お前たち、ここでなに……ロッシュ公!! かような場所でどうなさいましたか?」
僕は、備蓄している鉄を郊外の方に運び込みたいことを言うと、管理人は、お任せを、といってすぐに保管庫を飛び出していった。置いてけぼりを食った僕達は、しばらく、保管庫にいると、朝方だと言うのに、大勢の者が集まり、荷車に次々と鉄を積み込み始めた。先程の管理人に、運び込む位置を伝えると、気合が入った様子で了承した。
僕達は、運び込みに時間がかかると言うので、ゴーダのところに顔を出した。ゴーダは、ルドの下で住民の取りまとめの仕事をしている実質的な街の運営者だ。戦については、ゴーダが耳にしていたが、詳細を知らなかったため少し混乱気味だった。僕は、かいつまんで状況を説明すると、住民の避難の方法や戦闘に参加できる者の選抜方法などについて、相談をしてきた。僕はすでにライルやルドに一任しているから、そっちに相談してくれと頼むと頷き、ルドに指示をもらうために街を離れていった。ちょうど、ルドも街に向かっている最中だから、途中で出くわすことになるだろうな。
そろそろ運び込みが終わった頃だろう。僕は、先程指示した場所に向かうと、なるほど、鉄がうず高く積み上げられており、まだまだ届きそうだ。これならば、目標の二割くらいは達成しているだろうな。とにかく、壁は長い。市街地を囲むだけでも数キロメートルにも及ぶ。僕は鞄から、ありったけの魔力回復薬を取り出し、シェラに預けた。これを使い切るまでに設置が終わればよいが……。




