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結婚式と収穫祭③

 収穫祭当日。僕は、遅めの朝を迎えた。ベッドに一緒にいるシェラはまだ、眠っているようだ。起こさないようにそっとベッドから出ようとすると、腕を捕まれ、ベッドの中に引き込まれた。


 僕とシェラが部屋を出たときは、すでに昼を過ぎていた。居間には、エリスだけだった。ミヤは酒を飲みに行くと言って昨晩から戻ってきてないらしい。マグ姉は、酒の飲み過ぎで体調を崩した者が続出したので、薬を届けるために今朝から出掛けているようだ。そのため、僕の目覚めを待っていたのは、エリスとリードのみだ。もっとも、リードは子供用の家具を改良すると言って工房に引き篭もっているようだけど。


 エリスは僕達のために昼食を用意しようとしたので、手伝いをしようとするとシェラが僕を椅子に座らせた。


 「私がやりますからロッシュ……いえ、旦那様は椅子に座っていてください。これからはこの家の者として、家事もやるつもりです。ですから、エリスさん。私に料理を教えてください」


 エリスも今までのシェラからは想像も付かないようなことを言ったので、ビックリしていたが、教え子が出来て気合が入った様子でキッチンの方に二人で向かっていった。僕はどうしようか悩んでいたら、シェラがすぐに戻ってきて、コーヒーを差し出してきた。僕はありがとうと言うと、シェラが少しはにかんだ様子でキッチンに戻っていった。僕は、コーヒーを啜りながら、この瞬間の幸せを噛み締めていた。


 シェラが出してくれた食事がお世辞にも美味しいとは言えないものだったが、シェラの愛情が入っていると思えば何でも美味しく感じられる……ぐほっ!! ちょっと、むせてしまった。


 「その、お味はいかがだったでしょうか? その、初めて作ってみたので、上手くは出来なかったのですが……。あの、その、もう少し頑張ります!!」


 健気にも頑張ろうとする姿に僕は目頭が熱くなっていた。あの仕事探しの時を思えば、何という進化なんだろうか。それだけでも、シェラと結婚して良かったと思うよ。ただ、すこし落ち込んでいるようだから、優しく慰めてやらないとな。


 「初めて作ったとは思えなかったぞ。見栄えは改善する余地はあるが……なによりもシェラの愛を感じられた料理であったぞ。エリスに色々と教えてもらうが良いぞ」


 シェラは、機嫌よく、ハイ!! と返事をして、僕の食べた食事の皿を持ってキッチンの方に向かった。見た目、味ともに残念だったが、シェラは今までやったことがないのだ。長い目で見てやろう。エリスがこっちを見て、ちょっと難しそうな顔をしたが、僕は手を合わせてお願いすると、小さくうなずきシェラの後に付いていった。エリスには苦労させてしまうな。


 口直しのコーヒーを飲んでいると、祭りの会場に向かっていたマグ姉が戻ってきた。マグ姉が僕の顔を見て、顔色悪いわよと言ってきた。


 「やっと起きたのね。昨晩はかなり激しかったみたいね。おかげで少し寝不足よ。会場で、みんな、ロッシュを待っているわよ。早く行ってあげると良いわ。私は、朝が早かったから少し眠らせてもらうわね。夕方くらいになったら合流するわ」


 僕はマグ姉に小さな声で胃薬を頼むと、訝しげな顔をしていたが、鞄から薬を取り出し僕にくれた。僕は、すぐに薬を飲み、ちょっと休むことにした。


 マグ姉はシェラのいるキッチンに立ち寄り、シェラに小さな声で何かを言って、自室に向かっていった。何かを言われたシェラは、顔を真っ赤にしていた。僕は気になった聞いたのだが、首を横に振るだけで教えてくれなかった。すごく気になるな。


 エリスとシェラが出かける支度が終わるのを待っている間に、僕はリードのところに顔を出した。いくつかの家具が工房にならんでおり、どれもが子供用品と思われるものばかりだった。僕が部屋に入っても、リードは集中して家具に向き合っている様子だったので、家具を物色することにした。どれもが、素晴らしい作りをしていて、どれが何のためにあるのかをあれこれと考えていると、リードが一段落ついたのか、話しかけてきた。


 「ロッシュ殿。いろいろと、昨晩はお疲れ様でした。昨晩は私、興奮してしまって、恥ずかしながら、今まで家具を調整してしまいました。大分、思うようなものが完成してきたので、近い内にお披露目をしますね。それはそうと、妻としてこれからもよろしくお願いしますね。ところで、何か用だったんですか?」


 「ああ、こっちもよろしく頼む。改めて、何か変わるというわけではないが、君とずっといられるのは幸せだよ」


 リードが少し恥ずかしそうな顔をして、私もです、と小さく返事をした。


 「部屋に来たのは、祭りに誘いに来たんだよ。もう、エリスとシェラは準備しているから、行くならリードも準備すると良い。マグ姉は夕方から行くって言っていたから、一緒に来てもいいが」


 「じゃあ、夕方にマーガレットさんと行きますね。徹夜だったので、ちょっと休みたいので」


 僕は頷き、また後でな、と声をかけて部屋を出た。居間では準備の終えた二人が待っていた。リードとマグ姉が後で来ることを告げ、三人で屋敷を出ることにした。僕達はエリスに合わせてゆっくりとした歩調に進んでいた。エリスとシェラは当然のように僕に腕を絡ませてくる。エリスはともかく、シェラからは初めてだったので少し心が高鳴ったが、昨晩のことを思い出し、心が落ち着いていった。


 祭りは夜通し行われていることもあって、居住区には人もまばらで、大抵の人は祭りの会場にまだいるようだ。僕達と似たような境遇の人達もチラチラといた。ぎこちなく腕を組んで歩いたり、手を繋いだりして、会場に向かっていた。同じ方向に進んでいるが、みんな一定の距離を取って、気を使い合っている。相手のことをしっかりと気にかけられるところが、本当に良い村だと思う。


 会場の近くに行くと、村人の何人かが通りで酔いつぶれているのが見えた。会場に近づくに連れ、酔いつぶれが増えていく。昨晩から相当飲んでいたんだろうな。実に楽しそうだ。僕が楽しそうな表情を浮かべている一方で、エリスとシェラは少し引きつった顔になっていた。シェラははじめての経験だろうから、祭りの楽しさを是非伝えてやりたいものだ。


 「シェラ。祭りは良いものだぞ。特に今日は収穫祭だ。一年で一番、盛り上がる祭りだろう。収穫祭というのは、一年の収穫を神に感謝をし、そして来年の豊穣を願うための儀式を兼ねている。そして、今までの苦労を村人と分かち合い、明日からの苦労を共に歩むことを誓うのだ。そのために、皆で酒を飲み胸襟を開け、理解を深めるのだ。ただ、酒を飲んでいるわけではないのだぞ」


 シェラは僕の話をこくこくと頷いて聞いていた。この調子だと、理解は早そうだな。


 「不思議ですね。私、女神だったのに、そんな祭りがあったなんて知らなかったです。真摯に祈れば、声は私に届いていたはずですが……」


 んん? まぁ、たしかに酒目当てで祭りに来ているのが大半だが……


 「きっと、最近始まったから、祈りが十分ではなかったのだろうな。それに、違う神に祈っていたのかもしれないだろ? シェラが知らなかったとしても不思議でもないだろう?」


 「いえ!! それはありません。この世界の神は私一人……とは言えないですが、少なくとも豊穣を祈る神で私を差し置いて他の神が出てくるわけがありません。それだけは断言できます!!」


 おお、さっきまでのしおらしい姿が一変して、元の女神に戻ってしまったようだ。神ネタはもう使わないでおこう。

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