シェラの仕事探し
仕事がようやく一段落して、農作業が麦の種まきを残すところになった頃、僕はシェラを呼び出し、話をすることにした。それは、シェラの仕事のことだ。シェラは、アウーディア石の制御で自らの神の力を失ってまで活躍してくれた。シェラの活躍がなければ、近い将来にこの村の農業は衰退して、皆が飢えに苦しむようになっていただろう。そういう意味では、感謝しきれないほどだ。しかし、だからといって、居室で寝て起きての繰り返しというのはどうだろうか。僕はその辺りのことを話すためにシェラを呼び出したのだ。
シェラが居間に来た時は、どうやら寝起きだったようで、まだ眠たそうな目を擦っていた。僕はマグ姉に頼んで、濃いめのコーヒーを作ってもらった。シェラは当然そうに受け取ったコーヒーをすすって、のんびりとした表情になっていた。
「なあ、シェラ。ちょっと聞きたいことがあるんだが。仕事をやってみる気はないか? かなり眠そうにしているが、もう昼だぞ。こんな生活は良くないと思うんだが。もちろん、仕事探しは僕が一緒になってやるから、どうだ?」
シェラはきょとんとして、じっと僕を見つめたまま考えているようだった。僕も目を逸らさないようにしていたが、澄んだ瞳を見続けるとどうしても恥ずかしくなってきて、目を逸らしてしまう。
「ロッシュが仕事をしたほうが良いというのなら、考えなくもないですよ。ただ、私はなにも出来ないと思いますよ。知っての通り、神の力を失ってしまいましたから。それでもいいのであれば……」
シェラが前向きのことを言ったぞ。よし、早速行動開始だ。僕はシェラに外に出ようと促すと、準備をしてくると言って居室に戻っていった。待つこと、一時間。さすがに準備に時間がかかり過ぎじゃないか? 居室に行くと、シェラがベッドで可愛い寝息を立てて、寝ていた。とりあえず、そのままにして僕は居間に戻った。
シェラが寝ていることを言うと、マグ姉が少し怒った様子で起こしてきましょうかと言うので、僕は止めた。
「シェラにはアウーディア石の件を解決したら、自由に行動させるという約束をしているんだ。アウーディア石の件で約束は果たされたから、僕が約束を破るわけにはいかないんだ。だから、シェラが寝たいといえば、僕は寝かせてやらないといけないんだよ」
不承不承ながらマグ姉は引き下がってくれた。次の日は朝からシェラが起きてきてくれたので、仕事探しをすることにした。気にいる仕事があるといいが。
とりあえず、村の仕事といえば農業だ。これが出来れば、問題は解決だ。といっても、農業の仕事はやる気があればなんとかなるものが多い。畑に向かう道中、シェラからどこに向かうか聞かれたので、畑で農作業を……といいかけると、即座に拒否された。
「ロッシュ。私に農業の仕事が務まると思っているのですか? 農業というのは、毎日行うものでしょ? その時点でダメだと思うの」
こうもきっぱりと断られると気分が良いな。それに、自分をそこまでポンコツ扱いを出来るなんて、なかなか出来るもんじゃないよな。じゃあ……と考えたのが服飾店だ。シェラがこの村に来てから、一番興味を示していたのが服だ。生地やデザインにもかなりこだわりがあるところを見ると相当好きだと思うんだ。好きこそ物の上手なれだ。結構期待して、服飾店に向かった。
途中で、シェラから次はどこに行くのですか、と聞かれたので、服飾店の理由を言って薦めてみた。しかし、それも即座に断ってきた。
「私は服を着たり見たりするのは好きですけど、作るのは全く興味ないですよ。それに、絶望的に不器用だと思うんです。とても、針仕事が出来るとは思えないんですよ」
またしても断られてしまった。服飾店はかなり良いと思っていただけに、断られると後が続かないな。どうしよう。とりあえず、手当たりしだいに行ってみるか。僕とシェラは、鍛冶工房や塩田、養魚場、木材加工などを回ったが、どれも不発に終わってしまった。手で何かを作る仕事というのがダメなようだ。仕方がない、行きたくはないが、錬金工房に向かった。
初めてシェラが興味がありそうな様子で、錬金工房を見学していた。スタシャも珍しく側で話を聞いていた。その時、シェラが何気に置いてある資材の名称を言うと、スタシャがかなり食いついてきて、珍しいものを次々と出しては、シェラと資材話に花が咲いていた。スタシャは、シェラのことをかなり気に入った様子で、工房で働く気がないかとこっちが打診もしていないのに勧誘を始めた。
結論から言うと、シェラは断っていた。理由は屋敷から遠いからだそうだ。そんな理由でと思ったが、何も言わずに工房を後にした。あとは、マグ姉の薬局くらいだが、今までのことを考えるとダメだろうな。一応、通り道だったので寄ってみることにした。
薬局にはマグ姉はいなかったが、弟子の子たちが常駐していた。気を利かせて、お茶を出してくれた。シェラも悠悠をお茶を飲んで寛いでいた。
「ロッシュ。ごめんなさいね。結局、私の仕事が見つからなかったですね。ロッシュのお役に立ちたいと思っているのですが……」
段々と落ち込み始めたので、僕は宥めていると、表が急に騒々しくなったので、見に行くと大怪我を負った人達が運ばれてきていた。どうやら収穫中に積んであった農作物の下敷きになってしまったようで骨が折れたりしている者が何人かいた。これはすぐに治療が必要だな。怪我人を運んできた人達に、薬局の中に運び込んでもらった。
僕は、すぐに回復魔法を掛け、怪我人を治療し始めた。怪我の箇所が多いせいか、結構手間取ってしまう。他にも重傷者がいるので早く回復させたいが……すると、シェラが僕の方に手を当ててきた。こんな時は、離れて待っててほしかったが。すると、思いもしない言葉を掛けてきた。
「なぜだか分かりませんけど、私にもその魔法ができそうです」
そういうと、シェラは他の重傷人のところに行って、回復魔法をかけ始めた。遠目から見ても、回復しているのが分かる。シェラにそんな特技があったとは意外だ。なぜ、今まで気づかなかったんだ? とりあえず、僕とシェラの二人がかりで治療を行えたおかげで、早く終わらせることが出来た。ここからは治療院の仕事だ。弟子たちは手際よく薬を怪我人に飲ませていって、ベッドに横にしていった。僕達はようやく休憩することが出来た。
「シェラ。回復魔法が使えるなんて驚いたな。なぜ、今まで気づかなかったんだ?」
「私もさっき気付きましたから驚いているんですよ。私が魔法を使えるなんて、どうしてなんでしょうか? もしかしたら、神の力を失った後にロッシュの回復魔法をシてもらったおかげかもしれませんね。神の力が入っていた器にロッシュの魔力が入ったってことは考えられそうですね。いえ、きっとそうなのでしょう」
僕は、そんなことがあるんだな。くらいにしか感想が出なかったが、シェラはなんかモジモジしながら恥ずかしそうに話していた。恥ずかしがるような内容だったか? ただ、回復魔法が使える人が僕以外にいたのは奇跡だな。
「なぁ、シェラ。回復魔法を使って治療院で仕事をする気はないか? 僕もそこで仕事をしているんだが、どうしても人手が少なくてな。なにせ回復魔法が使えるのが僕しかいないからね。どうだろう。一緒にやるっていうのは?」
「ロッシュとですか? 是非やります。その仕事が良いです」
即答に僕は唖然としたが、シェラがやる気を出してくれるんだから本当に良かった。今日の苦労も報われる思いだよ。
そして、シェラは治療院で僕と働くことになった。といっても、毎日というわけではないので、シェラのグータラ生活はもうしばらく続くのであった。




