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山上の貯水池

 収穫の合間を縫って、水田に使うための貯水池の設置をすることにした。この時期を逃すと、来年の水田の面積を増やすことが難しくなるのだ。なんとか、無理をしてでもやらなければならない。といっても、場所の選定は既に済んでいるので、堤防を作る要領でやれば貯水池を作ることが出来る。今回の貯水池は、川の上流にあたる山の方に作る予定だ。丁度、滝がある場所があるので、その周囲の崖と崖をつなげて、大きな天然の貯水池を作る計画だ。深さは浅く作り、更に低地に貯水池をもう一つ作るつもりだ。一つでも十分に水を確保することは出来るだろうが、この世界の気候はまだ理解が乏しい。期待した雨量を確保できないかもしれないことを考える必要がある。


 僕は、屋敷で暇をしているシェラを連れ出すことにした。彼女ほどこの世界に詳しい者はいない。道中に色々と話を聞けるだろう。ライルにも付いてきてもらおうとしたが、どうもレイヤの方にかかりっきりになっているようで他の団員が行くことになった。僕が、ライルが付いてくるのを断ったのだ。今回は危険な仕事ではないし、ライルとレイヤが最近一緒にいる時間が多くなっていると噂になっていたので、気を利かせたつもりなのだ。僕にとっては、二人は村で重要な人物だ。仕事はともかく、幸せになってもらいたいと考えているんだ。


 僕がシェラの居室のドアをノックすると、中からシェラが現れた。今まで寝ていたようで、寝ぼけた様子だった。格好もほぼ全裸だったが、全く恥ずかしがる様子もなかった。服の上からもすごいと思っていたが、……どこを見ていいか分からず、すぐに後ろを向いたが、どうしたの? なんて変なことを聞いてくるから、顔を戻すと服を着替え終わっていた。なんて早い着替えなんだ。シェラの特技を一つ発見したようだ。


 「シェラ。この名前に慣れたか? 実はな、山の方に一緒に来てほしいんだ。貯水池を作ろうと思っているんだ。やることがなかったらでいいんだが」


 「ええ。ロッシュが私のために考えてくれた名前ですから気に入っていますよ。もっとも、呼んでくれるのはこの屋敷の人達ですから、あまり慣れてないかもしれませんね。貯水池ですか? もちろん、付いて行きますが、私、要ります?」


 「正直にいえば、貯水池とシェラはあまり関係ないかな。山の奥の方に行くから話し相手が欲しいんだ。シェラとはあまり話したことないだろ? この機会に話が出来たらと思ったんだ」


 シェラは嬉しそうに、すぐに準備しますね、と部屋の中に入っていった。僕も準備をしなくてはな。数日もあれば終わるだろうが、準備は万全に越したことはない。マグ姉を呼び、準備を手伝ってもらうことにした。かなりの大荷物となったが、僕には収納力がものすごい袋があるので、身軽な格好で出発することが出来た。食料などの物資は、同行する自警団の団員が荷車に乗せて運ぶことになっている。僕の袋には予備の食料も入っているので、準備万端だ。こっちの準備が終わった頃にシェラも準備を終わらせたようだ。


 僕達は出発することにした。マグ姉には、エリスとリードのことをお願いした。ミヤは最近部屋に篭って、魔力糸を作っているようだ。また、夢中になってしまったようだ。こうゆう時はそっとしておくのいいだろう。シェラとは道中会話をしていたが、天界でのことは思い出せなくなってきているみたいだ。神の力を失ったことを関係しているかもしれないと言っていた。まぁ、天界でのことを聞いてもあまり有用な感じはしなかったので、興味はなかった。それよりもこの世界についてだ。


 シェラはこの世界に詳しかった。話は、目的地に付くまで続き、有益な情報を得ることが出来た。といっても、まだ整理が出来ていないから、またシェラに聞くことにしよう。ただ、興味深かったのは魔の森の存在だ。どうやら、この世界は魔の森に覆われていたようだ。人間が住み着くようになってから、魔の森が消えていったらしい。今は村の南に広がるだけになってしまい、縮小は止まっているようだ。今の魔の森に住んでいる種族はかつて人間によって迫害を受けた者がほとんどらしい。魔界に逃げた種族も多かったらしいけど。


 目的地に着いた。滝があり、周囲が崖に覆われた理想的な場所だ。場所もかなり開けているので、崖を結ぶように土を盛り上げれば、相当の水を蓄えることが出来るだろう。僕は、周囲の崖を調べていると、上質な石が眠っていることに気付いた。この石を使って壁を作ったらかなりの水圧でも耐えることが出来るだろう。あとは、蓄えた水を直接水田に引っ張るための水道を作る必要があるが、今は、貯水池のみにしよう。


 早速、崖から石を取り出し、崖を結ぶように積み上げていった。五メートルほど積んだ後、隙間を埋めるように砂を入れた。とりあえず、一箇所目はこれで終わりだ。意外と簡単に終わってしまったな。石の発見があってよかったな。土だと、これほどの高さを確保することは難しかっただろうな。シェラが作業を終わらせた僕に近付いてきた。


 「ロッシュ。手際が良いですね。本当にロッシュにこの世界のことを頼んで正解でした。私も出来る限り協力するので、世界を救ってくださいね」


 僕はシェラの素直さを感じて、すごく胸が高まった。でも彼女は、女神様なんだ。僕がシェラに恋愛感情を持つことはきっと良くないことなんだろう。僕は、自分の気持ちを抑えて、深呼吸してから、ああ、と返事をした。予定ではもう一箇所だったが、十分なサイズのものが出来たので、止めることにした。その時間を利用して、村に向かって坑を掘ることにした。


 坑は村に向かって一定の勾配を持つように掘っていく。もちろん地上部は起伏があるので、露出してしまうところも出てくるだろう。そうゆうところは、石で途を作っていくことにしよう。とりあえず、適当な場所に坑を掘って、村がある方角に向けて坑を開け始めた。貯水池を作った場所は、村より標高がかなり高い位置にあったため最初に深堀してからすすめた。そのため、露出する場所がなく、地中をずっと突き進むことが出来た。途中で土中の鉄をかき集め、水道を鉄で補強したりしていたが、具合は良さそうに見えたが、鉄が明らかに足りそうにないな。


 今年の夏は坑を掘り続けたおかげなのか、村までの距離を休憩無しで掘り進めることが出来た。シェラも心配してくれたが、僕の体には全く異変がないどころか絶好調だ。まだまだ突き進めそうだ。ついに、村が見えるところまで出ることが出来た。


 とりあえず、貯水池の設置は終わり、シェラと共に屋敷に戻った。なんで、こんなに調子が良いんだろうか? 不思議だ。その日に僕はゴードンを呼び出し、貯水池の利用についての相談をすることにした。


 「ロッシュ村長。随分と早く貯水池を完成させてしまいましたな。それもかなりの大きさだとか。実は前々から考えていたんですが、それほどの大きさなら出来るかもしれませんな」


 ゴードンが言いたいことは、よく分かっているつもりだ。ただそれをするためには問題もある。


 「ゴードン。水道を村に引張るということだろ? たしかに、あれだけの貯水池があれば、村の者が使っても枯れる心配はないだろう。だが、枯れ葉や泥が混じっているだろうから、それを取り除く必要がある。その問題を解決しなければ、引っ張ることは出来ないぞ」


 「もっともですな。しかし、村に導入していただきたいですな。実は、風呂と言うのに興味があるんですよ。豊富な水があればそれも可能だと思うんですが、さすがに難しいですかね」


 風呂の導入は一旦は流れたかのように見えたが……



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