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街の設計と戻ってきた日常

 ルドとの防衛拠点の相談は早朝まで及び、大方の見通しをつけることが出来た。村とラエルの街は一本の街道で結ばれており、村に行くためには必ずラエルの街を通過しなければならない位置関係にある。そのため、ラエルの街を防衛拠点とすることで村を守ることが出来るというのだ。街には二重の壁を設けることになっており、住居や物資倉庫などが集中するエリアを内壁の中とし、外壁の中は農地を広げる予定である。実際に防衛のための壁として機能するのは内壁で、外壁は領地の境界線的意味合いしかない。


 ラエルの街には大きな河川があり、氾濫を多発する箇所が多い。そこを中心に堤防を設置し、水田を広げていく。河川は水量がかなり豊富にあるため、農業用水もそこから取り出す予定だ。住居の区割りは既に終わっているので、住居の建て直しを進めていき、村から職人を派遣して、店を構えてもらう。


 防衛拠点を作る関係で、常備軍の設立も検討されたが、現状脅威が差し迫っているわけではないので見送られた。ただし、士官だけは必要だろうということで、200名規模の士官候補を養成することになった。その中には、ルド傘下の元兵が多く入り、自警団からも数名を残し、士官候補となった。自警団は新規に募集をして、村とラエルの街に常駐できるように自警団分署も設けることにした。分署は街の方に設置されることなったが、住民から少し不満が出た。村のほうが中心っておかしいだろ? って話だったが、僕が領地の中心はあくまでも村と鶴の一声で収まった。


 相談をしている中で、街の代表について一悶着あった。僕はルドに頼もうとしたが、調査隊の指揮をし続けたいという気持ちを変えるつもりがなく、頑なに固辞し続けた。調査隊の存在は、今後の村運営の上でも重要となるし、ルドがいれば、たしかに安心も出来る。そうすると、考えられる人選はと考えると、ゴードンがまっ先に頭に浮かんだ。皆もそれで良いだろうと納得したが、後日、ゴードンに頼むと高齢を理由に断られてしまった。


 しばらく街の代表者が宙に浮いた状態だったが、ゴーダがそれを務めることで決着した。ゴーダの報告書を初めて目にした時、素晴らしい文章であることに驚いた。配慮が町の住民の細かいところまで行き届いており、それでいて丁寧であることが伺えた。僕はゴーダを呼び出し、代表をお願いすることにした。これには、ゴードンも表には出さなかったが、すごく喜んでいたことを後日知った。


 「ルド、とりあえず計画はこれで終わりでいいな? 僕はこの計画に沿って、近い内に壁の建設に取り掛かろうと思う。ただ、村の方も貯水池を冬までに作らなければならないから、すぐにと言うわけにはいかんのだ。だから、住民には秋の作付けに専念してもらうのが良いだろう」


 「こっちもやることが山積みになっているからな、その方がありがたい。村から協力者を募りたいと思っているが、その辺りはロッシュにお願いしてもいいか?」

 

 僕達は、今後の計画の実施について簡単に打ち合わせをした後に、解散となった。僕は眠い目をこすりながら、ライルと共に村へ戻っていった。村に戻ると、ライルとは別れ、屋敷に向かった。屋敷に入ると、マグ姉が迎えに来てくれた。いつもはエリスが来てくれるので、未だに慣れないな。ゴードンから報せがあったようで、数日で、儀式をするための準備が終わるというものだった。随分と早く済むものなんだな。でも、ありがたいな。


 僕が居間の方に行くと、エリスとリードはゆったりと寛いでいた。


 「二人は体調は大丈夫なのか? もう少し休んでいたほうが良いんじゃないか?」


 二人は顔を合わせ、ちょっと笑っていた。


 「ロッシュ様。前にもいいましたけど、私達は病気ではないのですから、休んでばかりもいられませんよ。あの時は、気持ち悪かったりしましたけど、今は元気なくらいですよ」


 リードもエリスの言葉に頷いて、だから心配いりませんと付け加えてきた。


 「ロッシュ様、そんなことより街ではどうでした? いろいろと大変だったみたいですが」


 エリスとリードは街での出来事の話を聞きたがった。マグ姉も同じみたいで、キッチンでの作業を中断して居間にやってきた。ふむ、少し眠いが話すか。僕は、戻ってきたマグ姉にコーヒーをいれてもらうように頼むと、わざわざエリスが、わたしがやります、といってキッチンの方に向かっていった。マグ姉も少し心配だったのか、手伝いに、といってエリスの後を追った。


 しばらくリードを二人になった。


 「ちょっと気になったことがあるんだが。聞いていいか?」


 そういうと、リードは少し首を傾げてから頷いた。

 「エルフってどうやって子供を産むんだ? 人間と変わらないのか? この辺りを知っておかないと、もしものときに対処が遅れるかもしれないから教えてほしいんだ」


 「ロッシュ殿らしいですね。普通、こういう話は遠回しに聞くものですよ。エルフは妊娠してから、一年ほどで出産することが多いですね。聞くところによれば、人間は十ヶ月ほどだとか。少し長いですね。それ以外は、人間の方法と変わらないですよ」


 それは良かった。出産方法が違ったら、リリに相談しなければならなかった。そんな話をしていると、エリスとマグ姉がコーヒーを持ってきてくれた。コーヒーは僕の分だけ。皆は、飲まないらしい。エリスとリードは妊娠している体にコーヒーはダメらしい。初めて聞いたな。マグ姉は、最近、ハーブティーに嵌っているようで、ハーブが入ったポットを持ってきていた。


 僕は、ぐっとコーヒーを飲んだ。濃い目に作ってきてくれたのか、舌に苦味が走った。そのおかげで、眠気が少しだが覚めた思いだ。さて、どこから話そうか。


 僕が石を手に入れてから、街がどう変化をしたかを話し、その街に住む人たちや食生活なんかも簡単に説明した。そこまでで、かなりの時間を話したが、皆は飽きる様子も無く真剣に聞いていた。僕は少し腹が減ったのに気付き、食事にすることにした。


 食事後、話を再開した。街の外では、王都や教団が活発に活動をして、周囲を脅かしており、その毒牙がこちらに向けられるかもしれない事を話すと、さすがに皆緊張した顔になった。僕は安心させるために、距離がかなり離れていることをいって、すぐに訪れるものではないことをいったが、あまり効果がなかったようだ。脅威に対して、こっちの取る手段として、ラエルの街を防衛拠点とすることになったことを説明すると、そっちのほうが安心するみたいで、緊張がいくらか緩んだ。


 その防衛拠点にする際の壁の設置や兵の士官を育てることにしたことを説明した。その辺りを説明した頃には、日が傾き始めていた。そろそろ夕飯の支度をしなければと、みんながキッチンの方に向かおうとしていたので、最後に、僕がロッシュ公と呼ばれることになったことを告げた。もちろん、イルス公国として独立することも併せてね。それを聞いて、まっ先に驚いたのが、マグ姉だ。


 「イルス公国ってどうゆうことよ。ルドベックの知恵ね。まったく、あの子は戦争でもしようとしているのかしら」


 「ルドはこの村にとって良かれと思って、知恵を絞ってくれたんだ。僕は、それについては賛成したんだから、いいんだ。それよりも、なんで戦争に結びつくのさ」


 「それは私の思い込みかもしれないわ。確かに公国を名乗ったほうが、移住者はかなり増えると思うわ。今の王国には何の魅力もないし、むしろ害しかないわ。辺境伯を名乗っていれば、そんな王国の下についていると思われるから、不審しか持たれないものね。その点では、独立した公国を名乗るのは悪くないわ。でも、ロッシュが思い切ったことをしたわね。これで、村長なんて生ぬるい状況には戻れなくなるんだから」


 「いやいやいや。僕は村長のままだよ。ルドにもその辺りは了承を取っているから」


 マグ姉は少し心配そうな表情になった。


 「ロッシュはともかく、周りはそうは思わないわよ。いろいろと面倒なことに巻き込まれることもあると思うの。でもね、私達が全力でサポートするから、何があってもロッシュはロッシュのままでいてくれればいいわよ」


 そういって、マグ姉はキッチンの方に向かっていった。エリスとリードはマグ姉の話を聞いて、何も言い出せない様子になっていた。


 「ロッシュ様は、これからはロッシュ公と呼ばれるんですか?」


 「村以外では、そう呼ばれることになるかな。村では今までどおりだよ」


 そういうと、エリスはニコっと笑い、分かりました、と答えた。その夜は、マグ姉のハーブを大量に使った料理が振る舞われ、眠くだるかったのが、かなり元気になったしまった。マグ姉もそれを狙ったのか、その夜、僕のベッドに潜り込んできた。


 「だって、私も欲しいもの」


 ……ついに、御神体を設置する日がやってきた。

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