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発見

 「外の奴ら。こっちに向かって掘り始めたぞ。こうなったら、ここで迎撃して、隙を見て逃げ出すしかないな。ゴブリンだったら、なんとかなるかもしれないが……」


 僕とシラーは、坑の方を凝視し、迎撃する体制を整える。僕はいつでも魔法を使えるようにし、シラーは自前の短剣を手に構えていた。坑を掘っている音が近付いてきて、ついに、壁に亀裂が生じ、土が僕達の足元に飛んできた。外からはぞろぞろと、魔獣が入ってきて、僕達と目があった。小さな体に二足歩行、目つきが鋭い……ゴブリンだった。


 ゴブリンで助かった。ゴブリンは、数こそ多いが非力で隙も作りやすい。これならなんとか逃げ出すチャンスもありそうだ。僕はシラーに攻撃を仕掛ける合図を出そうとした時、ゴブリンの一匹がこちらを指差し、何かを話していた。少し言い争いをしているような感じもあったが、だんだんと全員が頷き、指差していたゴブリンに何かを同意しているようにも見えた。


 一体、何を話しているんだ? 僕は合図を出し損ねてしまい、シラーを見ると、やはり怪訝そうな顔をして、首を傾げていた。すると、一匹のゴブリンがこちらに近付いてくる。僕達は、構え直し、ゴブリンに攻撃を仕掛けようとした。すると、ゴブリンが座り込み、頭を下げている様子だった。


 僕は頭の中がパニックになった。このゴブリンは一体何をしているんだ? 攻撃してくるのか? 訳が分からない。シラーも僕と同じようだ。もしかしたら、こちらの油断を誘うための作戦かもしれない。ゴブリンは非力故、こういうことに頭が働く種族だと聞いたことがある。


 お互いに何もしないまま、時間だけが過ぎていく。このままでは埒が明かない。僕は、攻撃を仕掛けようとシラーに合図を出そうとした時、ゴブリンの後ろの方に動きがあった。一匹の巨大なゴブリンがこちらに向かってくるのだ。他のゴブリンは、巨大ゴブリンを恐れているかのように、すっと道を開けるために退いていく。巨大なゴブリンは、僕達の方に向かって一直線に歩き、僕達の数歩手前で止まり、しゃがみこんだ。


 「あるじ……さま」


 僕はシラーの方を向いた。シラーは首を振って、ゴブリンを指差す。まさか、ゴブリンが喋ったのか? 僕は無言のまま……というか何を喋っていいか分からずにいた。また、ゴブリンが喋り始めた。


 「主……様」


 先程よりも聞き取りやすい声で、主様、と聞こえた。主様? どうゆうことだ? シラーが僕の耳元で、このゴブリンは僕が従属魔法をかけたゴブリンではないかと、言ってきた。僕は半信半疑で、ゴブリンの従属魔法を掛けると画面が見え、そこには、たしかに命令者の欄に僕の名前が書いてあった。ということは、あのときのゴブリンの女王か。しかし、どうゆうことだ? ここは、このゴブリンの巣だというのか? いや、それだけは違うと分かる。前に来たときに、鉱物をかなり掘っていったので、その形跡があるはずだ。それがないということは、違う巣なのだろう。


 「ここは、君たちの巣か?」


 僕は初めてゴブリンの女王に話しかけた。果たして、言葉は通じるのだろうか? すると、ゴブリンの女王は否定の意味なのだろうか、首を横に振っていた。それは否定の意味か? と聞くと頷いた。どうやら、意思疎通が出来るようだ。僕は、ゴブリンの女王にいくつかの質問をした。僕達に危害は加える気があるか、とか、なぜ言葉が話せるのか、などを聞いたが、はい、いいえで答えられるものは大丈夫だが、難しい質問は答えられなかった。とりあえず、こちらに攻撃の意志はないことを確認したので安心した。先程の戦闘の相手についても質問したら、もともとこの巣に住んでいたゴブリン達だったようだ。そうすると僕達は偶々、ゴブリン同士の戦いに巻き込まれてしまったということなのかな?


 「あるじ……さま、みつけた。おいかけて、ここにきた」


 んん? 今なんて言った? 僕を追いかけてって……まさか、ずっと追ってきてた魔獣ってゴブリンの女王達だったの? ゴブリンは、うれしそうに頷いていたから間違いないのだろう。ということは、この巣の戦闘って僕達が逃げ込んだから起こったってことか? 僕は少し頭を抱え、とんでもないことをしてしまったと悩んでしまった。シラーも慰めてくれたが、僕のせいで命が失われしまったことを受け入れることが出来なかった。


 「たたかう……しゅくめい。きにするな」


 ゴブリンにまで心配をかけてしまったようだ。僕は、この気持ちをひとまず切り替えて、ゴブリンの女王にここまで来た目的であるアウーディア石のかけらを見せた。僕がこれを探しているというと、かけらをひとつまみし、匂いを執拗に嗅いでいた。


 「こっちに……ある」


 そういうと、先ほどの広い空洞の場所の一角に案内された。


 「このさき、ほれば、みつかる」


 僕はシラーの方を見ると、少し難しそうな顔をしていた。


 「たしかに、こっちから強力な匂いを感じますね。この女王が言っているのは間違いないでしょう。しかし、悔しいです。ゴブリンごときに先に発見されて、ロッシュ様の役に立たれてしまうとは」


 何やら関係のないことで悩んでいたので、あまり気にしないことにした。ここを掘り進めば、アウーディア石に辿り着けるのだな。食料がいくらもない状態では、大して時間を掛けることは出来ない。すぐにでも掘り進めなければ。僕はそう思い、魔法をかけようとすると、他のゴブリン達が僕を後ろに下げ始めた。僕は抵抗したが、体を持ち上げられてしまったので、為すすべもなく胴上げされていると、ゴブリン達が一斉に魔法を使い、掘削をし始めた。一匹一匹の掘る量は微々たるものだが、人数が多いため、僕よりも早く掘り進んでいく。胴上げされながら、僕は唖然としてしまった。


 僕とシラーは、ゴブリンの巣でお茶を飲んでいた。目の前には、こんがりと焼かれた骨付きの巨大な肉、怪しいが美味しそうな艶がある果物などが所狭しと並んでいた。どうやら、ゴブリンが僕達を歓迎しているようだ。女王も掘り終わるまで、しばらくここで待ってくださいと懇願までしていたので、僕達は落ち着かない場所で、接待を受けていた。


 こうやってゴブリンに接してみると、人懐っこい感じで魔獣と数えられることが信じられなくなる。社会性もあり、規律がしっかりとしている様子だ。料理も単純なものが多いが、味付けもされており、食べれるものだった。器なんかも、ちょっととした細工が施されており、文明のようなものも感じられ、人間の生活にかなり近いものがあった。シラーもゴブリンの生態にかなり興味が湧いているようで、ゴブリンを捕まえては色々と質問していたが、意思疎通は女王だけしか出来ないようだった。


 長いことゴブリンの巣に滞在することになってしまった。僕達はすっかり寛いでしまっており、ここに来た理由も少し忘れてしまうほどに、連日宴が行われていた。それが終わりを迎える時が来た。女王が、アウーディア石と思われる鉱物を発見したと報告してきたのだ。ちなみに、女王は僕達と過ごしている間にかなり言葉を覚え、すこしただたどしいが、難しい質問にも答えられるほどになっていた。


 僕達は、ゴブリン達が掘り進めた坑道を突き進んでいくと、ポッカリと空いた空間に出た。前のときと同じような人工的にくり抜かれた様な空間だ。そこには、きっちりと魔宝石と魔金属が埋め尽くしてあり、アウーディア石と思われる原石が姿を見せていた。僕が持っている石を出すと、その原石が共鳴するかのように淡い光を放ち始めた。これで確信が出来た。ついに……ついに発見することが出来た。僕はつい、嬉しさのあまり、シラーに強く抱きしめてしまった。すぐに、シラーの荒い息遣いが聞こえ始めたので、苦しいのかと思い、すぐに離したが。


 僕は慎重に石を採掘した。思ったよりも大きく、抱えるのが一苦労なほどの大きさだった。ゴブリン達がその石をせっせと巣の方に運んでいってくれた。ゴブリン達がいてくれて本当に助かった。僕達はせっかくなので、採れるだけの魔宝石と魔金属を巣の方に持ち帰った。

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