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プロローグ

 日本のどこか、山奥のさらに山奥にある村に一人の爺さんがいた。名前は源吉。年は88歳。耳が遠く、すこしボケが入っている。まぁ、どこにでもいる爺さんだ。


 源吉の家業は、先祖代々その土地に根付いて、営んできた農業だ。初代から数えれば源吉で10代目である。古い家屋に住み、古い機械や年季の入った農具で日々、農業を勤しんでいた。


 そんな山奥の村にも、人口減少の波は訪れていて、過疎化が急速に進み、村には爺さん婆さんしかいなくなっていた。村役場は、村の存続を掛けて、外部から人を集めて、村の基幹産業である農業を斡旋していった。その甲斐があって、少しずつ村には若者が増えていった。それと同時に農業の近代化が急速に広まっていった。


 しかし、源吉は、農業の近代化というものを受け入れることに躊躇があった。たしかに、近代化された農業は、生産力も段違いだ。これからの時代ではますます必要になってくるだろう。クワ一本でやっていく時代は既に終わっていることも重々承知している。そこを分からないほど耄碌はしていないつもりだ。


 ただ、源吉は思うのだ。先祖代々続く農家で、後継者もいないのであれば、昔のやり方を命が尽きるまでやり通したい、と。


 儂の家の納屋には、江戸時代からの農具があるのが自慢じゃ!

 昔あっての今なんじゃ!昔を大事にしなくちゃいかん!


 そんな源吉は、細々とだが、農業を続けていた。婆さんも、3年前に死んでしまった。儂ももう少しで迎えが来るじゃろ。


 ある日の朝、源吉は布団の上で、目を覚ますことはなかった……


 源吉は違う場所で目覚めたのだ。真っ白い空間にぽつんと置かれた椅子に座って。


 「ここはどこじゃ……ん? 儂は椅子に座ってるのか。こりゃ、いかん! 腰が痛くて」


 腰の辺りを押さえ、痛みを緩和させようといつもの仕草をするが、どうも様子がおかしい。


 「痛くないぞ。それどころか、体が軽いようじゃないか」


 一人で自分の体を触り、いつもの体でないと確認することに夢中になっていると、正面の方から女性の声が聞こえてきた。


 「源吉さん、お目覚めはいかがかしら?」


 今まで気づかなかったが、目の前に、人が立っていた。目が悪いからぼやけて見えるが、このシルエットは…… 婆さんか? 


 「婆さんじゃないか! ああ、会いたかったぞ。お前が死んでから三年、一人で寂しくて寂しくて。やっとお前が迎えに来てくれたんじゃな! さあ、連れて行ってくれ。お前とまた暮らせるなんて、夢のようじゃわい」


 婆さんがため息をついているようじゃが、婆さんも儂にあえて嬉しいんじゃろ。儂にゾッコンじゃったからな。


 「……源吉さん。私は貴方の奥さんではないですよ。とある世界を管轄している女神です。というか、どこが似ているのです!? 」


 「はぁ!? よう聞こえんが、何を言っているんじゃ……婆さん」


 婆さんが何やら訳の分からんことを言っている。女神? 何のことじゃ? まさか、婆さんは女神に昇格してしまったのか? 考えられることじゃな。あれほど心が清い娘もいなかったからの。婆さんは、頭に手を当てているが、頭が痛いのか? あの症状が出たのか⁉ 儂が心配そうな顔をして婆さんを見ていると、婆さんが話を続けてきた。


 「もうこの話はいいです。話を続けますね。覚悟をしているようだから言いますけど、あなたは死にました。88歳で天寿を全うしました。本来、貴方のような方は、天国へ案内しているんですけど、今回は事情があって、ここにお呼びしました」


 儂はやっぱり死んだんじゃな。それでも、こうやって婆さんと会えたんじゃ。これ程嬉しいことはないの。しかし、儂に話があると言うが、まさか天国でも一緒にいようという話かの。とりあえず、話を聞いてみようかの。儂は婆さんに話を促すために、軽く頷いた。それにしても、婆さん、さっきからため息を付きすぎじゃな。


 「実は、私が管轄している世界が、危機なのです。戦乱が絶えず、その結果、土地が荒廃し、人心が荒み、国家が崩壊しようとしているのです。このままでは、世界は無秩序になってしまうでしょう。そこで、貴方には、その世界に赴き、農業を行い、民たちの飢えを凌いでほしいのです」


 なるほどの。大変な世界があったもんじゃな。そこで農業とはのう。そうか。新世界で儂と共に農業をやって暮らすということじゃな。死ぬとこうゆうことがあるんじゃな。


 「わかったぞ! 儂はその世界に行って農業をすれば良いんじゃな! なぁに、簡単なことじゃ! 婆さんの頼みじゃ、何でも聞いてやるぞい」


 婆さんはずっと怪訝な表情を浮かべていた。婆さんという言葉が気に食わないようじゃな。婆さんは婆さんじゃ。我慢してもらわねばな。それにしても、新世界というのはどうゆう場所なんじゃ? 日本とは違うのかの? そんなことを考えているのを察してくれたのか、婆さんが説明を始めた。


 「とりあえず、貴方が、向こうの世界に行くことは了承してくれた事を前提で説明をしますね。貴方が向かうのは、アウーディア王国の辺境伯領という場所です。そこの領主として転生させてもらいます。アウーディア王国は今は形骸化していますから、辺境伯と言っても名ばかりだけど、その周辺では通用するはずです」


 貴族というやつか。何かの歴史小説で読んだような世界なんじゃな。結構面白そうな世界そうじゃな。儂は話の続きを促した。


 「辺境伯領は水が豊富で、森に囲まれたいい所です。農業をするにはもってこいの場所ですよ。領内には村人が200人位は残っているはずですから、彼らを使って農業を始めて下さい。ただ、農業を始めれば分かるけど、ある程度食料ができると、山賊が現れるはずよ。それを退治するために、あなたには、女神権限で魔法スキルを授けます。あとで、ステータスを見て確認するといいでしょう」


 たった200人か。儂の住んでいた村と同じ人数じゃないか。婆さんは、そこの村長になれということじゃな。


 「よく分かったわい。儂はそこで村長として、村を豊かにすればええんじゃな。しかし、見て通り、儂は爺じゃ。いくらも仕事は出来んぞい。それに、外国語はちっともわからんぞ。それに、聞きたいんじゃが、なぜ、新世界に儂が行かねばならないんじゃ?」


 「言うのを忘れてました。いい質問ですね。貴方は、辺境伯領主で、年齢は13歳くらいになります。肉体に引っ張られて、精神も若返ってしまいますよ。だから、その喋り方は注意してくださいね。子供が爺さん丸出しの話し方は変ですから。言語については、心配ないですわ。これも女神権限で、言葉が通用するようにしておきますわ。貴方にした理由はですね、あなたが古式の農業にも精通しているからですよ。あっちの世界は、貴方の世界より文明が進んでないのです。特に科学が。その代わり魔法が発達しているんですけど。ですから、古式の農業じゃないと、意味ないのですよ。ハッキリ言えば、貴方を選んだ理由は、それだけです」


 なんと若返るとな。それを聞いたら、ワクワクしてくるの。儂の農業の知識が役に立つとは嬉しいことじゃないか。先祖様もさぞ喜んでくださるじゃろ。


 「若返るとは嬉しい限りじゃな。婆さんも若返るのか? あの頃は仕事が忙しくて、子宝に恵まれんかったからの。あっちの世界でハッスルしまくるかの!! のお、婆さん!! しかも、昔の農業知識が役に立つ時が来るなんて夢のようじゃ。こりゃあ、頑張らんとな!」


 なぜか、しばらく沈黙が流れた。


 「私は行きませんよ。ここで、女神としての仕事をしていますから。貴方一人で行ってきてください。ハッスルも好きになった人とすると良いでしょう。是非、たくさん子宝に恵まれることを祈っていますね」


 何!? 婆さんがいかない……じゃと⁉ また一人ぼっちなんじゃな。ちょっと、寂しいの。でも、せっかく新世界に行くんじゃ。若返るし、婆さんの分もいろいろと楽しまねばの。なに、婆さんとは再び会えるじゃろ。その時、また一緒に暮せば良いだけじゃ。


 「もう、送りますね。最後に、私は、農業を司る女神よ。私をご神体として崇めれば、その土地は豊穣になりやすいから覚えておきなさい。世界をお願いね」


 儂の足元に魔法陣が光り輝き、目の前が徐々に白くなっていった。


 源吉は新世界へと旅立っていった。どのような世界が源吉の前に広がっているのだろうか。

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[良い点] 耄碌した爺さんが女神を婆さんと勘違いして話しを進めるところ [気になる点] 三人称と一人称が混在していて誰の視点か決めて無いので分かり辛い
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