5.女性には優しい
カイは男性としてみれば中性的美形、女性としてみれば同性にモテる格好好い美人、こう性別がなくなってもグッと来るものがある。気をつけないと襲われたり誘拐されたり騙されたり・・・・・・ないか。男を惰弱で下品でどうしようも無いとして毛嫌いし、直下の部下は女性のみにしていたほどだしな。今の私に性別があったら主従は無理だった気がする。
のんびり走っていると、時折狼と二足歩行のニワトリっぽい生き物が襲ってくるが、カイに首を切り落とされリヤカーに積まれていく。3時間ほどで村が見えてきた頃には満載に近くなっていた。最初に見かけた村よりも規模が大きく、石造りの壁が作られ門番もつい先ほどの蛮族っぽい人達とは異なりちゃんとした兵士みたいだ。
大人しく従順なゴーレムの振りをして一言も話さないように注意。カイの視線にあわせて門の前で停車すると兵士が近付いてくる。
「変わったゴーレム連れの旅人か? この村にはそのソルウルフとコッケドリを売りに来たのか?」
兵士は牽引しているリヤカーを覗き込み荷を確認している。狼はソルウルフ、ニワトリっぽいものはコッケドリというらしい。
「買取はどこでしている」
相手が男なのでカイの対応がちょっと荒い。注意したいけど話すわけにもいかないので黙っているのがもどかしい。
「門から見えるすぐそこの狩猟店だ。 最近はハンターも少なくて暇してるから全部売ってくれると助かる」
「考えておく。もう通っていいか」
「通っていいぞ。 村の中では静かにしてくれ」
兵士は気にしている様子も無く、門を通る許可をくれた。門を通ってすぐの狩猟店の前に止めると、店頭前で眠そうにしていた若い女店員がこちらに気付いた。
「あっ、買取ですか?」
「後ろの物を全て買取を頼みたいんだが可能かな?」
さっきまでとは異なり、車体から降りるとカイは笑顔で話しかける。普段の口調が男っぽい上に男嫌いなだけで、性格は良いし女性に対しては態度も良い。店員の女性は顔を赤くしてじっとカイの顔を見つめている。
「はっ・・・・・・はい。すぐ調べますので店の中でお待ちになられませんか?」
そして顔も良いのだからなんというか、美男子だと思ってしまう女性が可哀想だ。カイは男嫌いだが女性好きという訳でもなく、頭の中は忠誠と戦闘で大部分が占められている。育ての親であり上司であり師でもある女エルフに心酔していたほどだし。
「いえ、このまま外で待たせてもらいますよ」
大きな外套と防弾チョッキで体系も隠れているし、その顔と口調で男に間違われているみたいだ。一度店内に戻り査定をしていた店員の女性が出てきたが、服装こそ変わらないが化粧をしていた。気になる異姓の前では良い姿を見せたい気持ちは良く判る。そのまま他の店員と共に一体ずつ獲物を降ろし査定をしていく。10分くらい時間が経ったころに査定も終わった。
「お待たせしました。 2万230となりますが、全部お売りになられますか? 一部を素材としてお返しする事もできますよ」
「ありがとう。 今回は全部売らせてもらうよ」
「それではお金はこの袋に入ってます。 また売りに来てくださいね」
皮袋にお金が詰められ、受け取ったカイの手に丁寧に両手が添えられている。営業スマイル以上の魂胆が見えてしまう。男も美人相手にはアレだけど女も女であざとい。
「近くで狩猟する事が有ったら寄らせてもらうよ。ところで保存食と水を買える店は知らないかな」
「それでしたらうちでも少し取り扱ってますよ」
「また今度にさせてもらうよ。 それでは私は失礼する」
カイは笑顔で添えられた手からそっと離して皮袋を受け取ると車体の上に跳び乗った。車体に掴まった事を確認してその場を離れるように移動し広場の隅で止まる。袋の中身を確認、銀貨が20枚に銅貨が230枚、どうやら判りやすい単位みたいだ。たぶん金貨1枚は100万だろうし、金貨1000枚になればまた何かしらの硬貨があるはずだ。
手間が起きないように他の店で食糧を買い込み素早く村を出る。当てがあるわけではないけれど、一緒に買った地図では南西にここよりも少し大きい村があるようだ。
「狩猟では余り稼ぎにはならない。 盗賊連中でも狩るか」
「冒険者ギルドでもあれば良いんだけど、聞いた事ある?」
確かカイの居た世界の設定資料集ではそんな事は書かれていなかった。
「無いな」
やはり、カイの世界はそれこそ血で血を洗う戦場の世界、ギルドなんて存在は戦争初期に軍に取り込まれ存在しなかったのだろう。
「簡単に言えば、人や物探しから動物や魔物狩り、賞金首狩りに護衛と至るまで報酬と引き換えに仕事を請け負う斡旋屋。統一ギルドだったら楽だけど、多数のギルドが乱立する場合はギルドごとにやり方や考え方が違う。それこそ人々の為だったり力こそ全てだったりと」
「路銀にはなりそうだが、問題は何をするかだな」
「まずは所々でカルト教団を潰しながら行こう。 教団の物資も得られるだろうし」
「それがいいか。 ところで教団とはどこにあるんだ?」
そういえばハゲ神様もカルト教団をなんとかと言っていたわりに、名前も旗印も知らない。これ実は当てもなく世界中をふらつく事になるのでは。
「老神様がたぶん導いてくれるさ。 何せ神様からの使命だし」